【クリックで図表選択】

   

 公益財団法人新聞通信調査会は、毎年、メディアに対する信頼度などを調べる「メディアに関する全国世論調査」を実施している。調査手法は多くのメディアの世論調査で採用されているRDD(Random Digit Dialing)による電話調査ではなく、住民基本台帳から対象者を抽出する「層化二段無作為抽出法」と、調査票を対象者の自宅に直接配布、回収する「訪問留置法」を採用している。

 ここでは、この調査の結果から、「ネット」と「テレビ・新聞」は単に利用時間、視聴時間の逆転というだけでなく、影響力の逆転をあらわしているデータを次に見てみよう(利用時間の逆転については図録3960、世代別の図録3960d参照、世代別の国際比較については図録3961m参照)。

 一般に、デマは、@多くの人と関係するテーマ、A専門性が高く不安の解消が容易でない、Bメリットよりデメリットが目立つ。こうした場合に広がる可能性が高まる。新型コロナウイルスの流行は、まさにこうした条件に合致しており、WHOテドロス事務局長は「われわれは感染症だけではなく、"インフォデミック"とも戦っている」と述べた。

 ワクチン接種についても同様であり、副反応のデメリットがはっきりしている一方で、感染しなかったとか重症化しなかったというのが、ワクチンを打ったからなのかどうかは個人レベルでは基本的にわからない。

 そこで、「ワクチンは有害物質が入っている」、「ワクチンを打つと不妊になる」といったような話が広まりやすくなってしまう。さらに、「ビル・ゲイツがワクチンによって人口減少を目論んでいる」とか「新型コロナウイルスはそもそもワクチンを広めるための茶番だ」といった陰謀論も世界的に流布した。

 このように新型コロナのワクチン接種に関しては、さまざまな誤情報やデマが飛び交った。「新聞通信調査会」が2021年8〜9月に実施した「メディアに関する全国世論調査」によると、55.5%の人が「新型コロナワクチンに関して不確かな情報やデマと思われる情報を見聞きしたことがある」と答えた。表示選択で見れる通り、この数字は、世代や性別でそれほど大きな差がなかった。

 この世論調査は訪問留置法で行われ、サンプル数は5000人と多く信頼性も高いが、その問に続いて、そうした「不確かな情報やデマと思われる情報を見聞きしたことがある」人に、「どのようにして正しい情報を確認したか」をきいている。表示選択既定のグラフはその結果を世代別に示したグラフである。

 利用時間だけでなく、こうした正しい情報の確認においても、若い世代ほどネット、高齢世代ほどテレビや新聞に頼っていることが分かる。これに対して、政府や自治体からの情報提供や家族や友人とのやりとりに関しては、世代に関わりなく一定の割合を占め、ただしネットやテレビ・新聞を下回る割合であるという特徴が認められる。

 ただし、10代は20代よりテレビや新聞、あるいは家族や友人の割合が高く、親と同居している背景が影響していると考えられる。

 なお、ネットでの情報確認の中でも、10代〜20代はもっぱらSNSでの確認割合が高いのに対して、30代〜40代は専門家のネットでの発言をあげる者が多いという違いが認められる。

 こうした情報収集における年齢ギャップによって世代間のコミュニケーションに断絶が生まれている可能性がある。

 ワクチンデマの拡散に関してはSNSの影響がクローズアップされているが、速報性をもち、情報拡散の速いSNSの利用時間の長い若い世代では、誤情報やデモも広がりやすくなっているのは確かだと言えよう。

 SNSは、広告表示の効率化に端を発し、利用者の嗜好に合わせて情報を表示する機能が発達しており、真偽にはかかわりなく見たい情報ばかりが繰り返し報じられるというバイアスがかかりがちだ(注)。その結果、デマも広がりやすくなっていると言えよう。

(注)この点を指摘して、映画評論家町山智浩は現代米国の二極化と分断へのうごきを説明している(ここ)。

 また、ネット上で発言する専門家の中にも誤情報に近い情報発信をする者が加わっていたり、時には、専門家の顔をしてデマを広げ、自分のサイトや書籍などの収入増を狙う不届きな輩もいるようなので、ますます話がややこしくなっている。

 一方、高齢世代が依拠するテレビや新聞など既成メディアも情報の信頼性には高い評価が与えられている一方で、そうしたメディアの記者やディレクターの頭の中には一定のストーリーがあって、それに沿った取材や報道しか行わない傾向もある。

 これが嫌われて若い世代からマスゴミなどと悪口を言われ、信用が得られない原因ともなっている。投票数が多い高齢層の依拠する既成メディアの社会的影響力が過当に高いと感じ、フラストレーションを抱く若者も多かろう。

 健康に関する誤情報やデマに対して、正しい情報がなかなか得られないとき、最後に頼りになるのは政府や自治体などの行政である筈であるが、図表6において、正しい情報の確認手段として挙げられている割合はそう高くない。

 そもそも政府に対する信頼度が低いと、政府が新型コロナ感染症やワクチンの情報を出してもなかなか信頼されないという事情があろう。選挙で選ばれた政治家が支配する民主主義国の政府は、政治家が信頼されていない分、政府の発表も信頼されない傾向があり、かえって中国のような権威主義的な政府の方がこうした面で国民から信頼されている(信頼するしかない?)のは皮肉な状況である。

 また、行政における体質的な不親切も影響している。新型コロナやワクチン接種で頼りになるはずの厚生労働省のウェブサイトは、情報がそこに置いてあるだけで「見せる」仕様になっていない。正確な情報は提供しようとするが、人々の不安を解消するような「分かりやすい情報」は載っていない。誤解を招いて責任を取らされないように行動する官僚独特の行動パターンが原因である。

 政治的な責任まで含め全責任を引き受けられるような専門性を有するトップが率いる司令塔的な感染症対策の専門機関を作り、国民の中に生れがちな誤情報やデマを発生する度に打ち消し、国民の不安を解消できるような「分かりやすい」情報提供を行うことができれば事態は改善されたと思うが、そうはならなかった。

 時代の転換点に生じた世代間の情報ギャップの解消に向けた今後の課題は大きいと言える。それぞれのメディアが相互に連携しながら改善に向けた抜本的な対策を講じることが肝要であろう。

 若者が依拠するネット関連では、利用者自体が安易に不確かな情報を拡散しないような情報リテラシーを身に着ける必要があろう。学校教育での取り組みも重要である。また、SNSのアプリに「いいね」ボタンでなく、「まずいね」ボタンをつくるとか、有識者意見をその都度、表示させるとか、システムとして誤情報の拡散を抑制できるような仕組みを備えるよう運営者が努める必要があろう。

 中高年が依拠するテレビ、新聞といった既成メディアでは、紋切り型のストーリーに沿った報道ばかりせずに、調査報道を増やすなどのクオリティ向上に努め信頼を回復しなければならない。そのためには大手紙や地方紙の大同合併やネット企業との合併といった抜本的な財政基盤強化が必要かもしれない。

 下には、参考のため、図録3961dで掲げた各メディアの印象の移り変わりの図を再録した。世代交代によって、かつて情報の不可欠性、量、有用性の評価でトップだった「新聞」がいまやいずれもネットやテレビに後れを取っているのが分かる。そして、不可欠性、量、手軽さではネットがテレビを上回っている。


(2022年9月10日収録、9月16日町山のデマのSNS犯人説)


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