1.各国比較 社会保障のレベルを国際比較するために、社会保障給付費の対GDP比についてOECD各国のデータを掲げた。 日本は総計の対GDP比が17.7%となっており、対象29カ国中、23位と社会保障レベルの低い国に属する。 ヨーロッパ諸国は社会保障レベルが高い点が目立っている。他方、社会保障レベルの低い国は、2つのグループに分けられる。韓国、メキシコに代表される高齢化の比率が低く、社会がなお成熟途上にある開発途上国的な性格の強いグループと米国、カナダ、オーストラリアなど個人による自力救済的な考え方の強い英米系のグループとである。 日本はどちらのグループにも属さないにもかかわらず、社会保障レベルが低い点に大きな特徴がある。 日本の社会保障が低水準にとどまっている理由としては、第1に、カイシャによる保障(企業福祉や雇用保障)や家族相互の保障(家族による介護など)といったインフォーマルな社会保障が機能していた点、第2に、公共事業による雇用の保障(欧州の積極的雇用政策に似た雇用確保による生活保障)が1980年代以降には大きな役割を果たしていた点に求められると指摘される(広井良典「持続可能な福祉社会」ちくま書房、2006年)。そして、近年の財政再建政策や小泉改革路線によって、両者ともに機能しなくなったため、社会保障レベルが低水準なままで推移している状況とあいまって、いわゆる格差問題が大きくクローズアップされているという訳である。 総計の水準から分野別の状況に目を移すと、日本の社会保障の特徴として、高齢者分野に比して家族(少子化対策)分野が小さい点が目に付く。この点については、図録5120に、それぞれの対GDP比と両者の相対比較についてグラフ化したので参照されたい。 また、高齢化の高さに比して医療の比率が低い点も目立っている。この点については医療費の対GDP比と高齢化の相関図を図録1900に掲げ、日本の場合、医療を削りすぎているのではないかという分析を加えているので参照のこと。 この他、雇用関係について、失業給付が小さい他、失業保険以外の職業訓練や再就職支援などの積極的雇用政策がヨーロッパに比して小さい点、障害への社会保障比率が小さい点なども目立っている。 なおこの図の国数をさらにしぼったものが収録日前日のNHKスペシャル「セーフティーネット・クライシス〜日本の社会保障が危ない〜」で参照されていた。番組を見ると、最近の医療、介護、障害者、母子福祉、生活保護の施策展開の危うさから税金を含め社会保障を根本から考え直さなければという気運が高まりつつあると感じられる。 2.データについて 各国の社会保障給付費を比較をするためには同一基準でデータを整備しなければならないが、この目的でOECDが社会支出データベースSocial Expenditure Database (SOCX)を作成している。ここで社会支出とは、日本の社会保障給付費(社会保障・人口問題研究所で集計)より広く支出をとらえており、施設整備費など直接個人に給付されない費用まで含まれている。 社会支出は以下の9つの主要分野ごとに集計されている(OECD基準)。 1. Old age(高齢者) 老齢年金や高齢者向けデイケア、リハビリ、ホームヘルプなど居宅サービスや施設サービスの現物給付 2. Survivors(遺族) 遺族年金等 3. Incapacity-related benefits(障害者) 障害年金、労災、傷病手当等 4. Health(医療) 医療保険給付、政府による医療サービス、医療費補助 5. Family(家族・子供) 児童手当、出産手当、産休給付など 6. Active labor market programmes(ALMP) 積極的雇用政策対策費(失業給付ではなく職業訓練、再雇用補助金など) 7. Unemployment(失業) 雇用保険給付 8. Housing(住宅) 住宅補助 9. Other social policy areas(その他) 生活保護費などその他対策費 社会支出は公的支出と義務的私的支出に分けられるが、後者はごく一部である。ここでは、公的支出のみのデータを掲げている。日本の社会保障給付費の対国民所得比の推移を図録2796に取り上げているが、これと比較して社会保障給付費の%が上図ではやや低く出ているが、これは主として母数が国内総生産(GDP)であって、国民所得でない点による。 対象国は、データの得られないトルコを除くOECD諸国29カ国であり、具体的には、総計の対GDP比の高い順に、スウェーデン、フランス、デンマーク、ドイツ、ベルギー、オーストリア、ノルウェー、イタリア、ポルトガル、ポーランド、ハンガリー、フィンランド、ルクセンブルク、ギリシャ、チェコ、オランダ、英国、スイス、スペイン、アイスランド、ニュージーランド、オーストラリア、日本、カナダ、スロバキア、米国、アイルランド、メキシコ、韓国である。 (2008年5月12日収録)
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