出生率の低下が注目を集め、人口減少社会を目前にひかえた2005年の年頭に当たり、新聞各紙は、少子化問題と少子化対策を特集した(例えば、日経、毎日)。

 本図録でも少子化関連の図録は数多い。それらは、究極的には、期待所得と実際の所得のギャップが子育て費用の高さと相俟って少子化を生んでいるということを示しているように思われる(特に図録2450参照)。

 従って、少子化対策の基本は、期待所得を下げるか、子育て世帯の所得を上昇させるしかない。塩野七生女史は古代ローマのを引き合いに出してラディカルな対策を提示している(日経新聞2005.1.1)。

 「パクスロマーナと呼ばれる平和な時代になると、特に指導者層がだんだん子供をつくらなくなる。...少子化を懸念した初代皇帝アウグストゥスは未婚の女性にいわば『独身税』を課したり、能力が同じなら、子供が多い男性を優先的に公職に採用したりして結婚と出産を奨励した。まだ、少子化がそれほど深刻でなかったにもかかわらず手をうったのです。結果的にこの制度は300年近く続き、抑止力として相当な成果をあげた。...少子化問題に本気で取り組むなら、子供を持つ家庭に徹底的な経済支援をすべきだ。税金の控除のような中途半端なものでは駄目。子供が4人いれば、手当だけで食べていけるぐらいの徹底的な援助をすることです。そしてアウグストゥスにならって、キャリア面でも子持ちの人が得をする制度をつくる。子育て家庭に手厚い経済的援助をしている欧州でも、職場での優遇策まではやっていないでしょう。日本はまもなく総人口が減り始める事態に立ち至っているのだから、先べんをつければいい。」

 こうした点の議論の基礎資料として、各国が少子化対策として子育て世帯にどれだけ公的に所得補助(税や社会保険による所得移転)をしているかの指標を日本と他の先進国とで比較してみることとしよう。

 比較をするためには同一基準でデータを整備しなければならないが、この目的でOECDが社会支出データベースSocial Expenditure Database (SOCX)を作成している。ここで社会支出とは、日本の社会保障給付費(社会保障・人口問題研究所で集計)より広く支出をとらえており、施設整備費など直接個人に給付されない費用まで含まれている。

 社会支出は以下の9つの主要分野ごとに集計されている。

1. Old age(高齢者)
 老齢年金や高齢者向けデイケア、リハビリ、ホームヘルプなど居宅サービスや施設サービスの現物給付
2. Survivors(遺族)
 遺族年金等
3. Incapacity-related benefits(障害者)
 障害年金、労災、傷病手当等
4. Health(医療)
 医療保険給付、政府による医療サービス、医療費補助
5. Family(家族・子供)
 児童手当、出産手当、産休給付など
6. Active labor market programmes(ALMP)
 積極的雇用政策対策費(失業給付ではなく職業訓練、再雇用補助金など)
7. Unemployment(失業)
 雇用保険給付
8. Housing(住宅)
 住宅補助
9. Other social policy areas(その他)
 生活保護費などその他対策費

 社会支出は公的支出と義務的私的支出に分けられるが、後者は一部である。

 上の図録では、公的支出に関して、5番の家族・子供向けと1番の高齢者向けの対GDP比、及びこの2つの比率を掲げた。

 日本は、家族・子供向け公的支出の対GDP比は0.7%と24カ国中下から3番目、家族・子供向け公的支出と高齢者向けの比率でも前者は後者の9.2%で最下位と、先進国のなかで、家族・子供向け公的支出、すなわち少子化対策がもっとも低いレベルであることが分かる。

 なお、少子化対策が出生率の回復に寄与しているかは関心がもたれるところである。家族・子供向け公的支出の対GDP比と合計特殊出生率との相関については図録1580参照のこと。

 対象国は先進国(OECD高所得国)24カ国であり、家族・子供向け公的支出の対GDP比の高い順に掲げると、ルクセンブルク、デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、オーストラリア、アイスランド、オーストリア、フランス、フィンランド、英国、ベルギー、アイルランド、ニュージーランド、ドイツ、オランダ、ポルトガル、スイス、ギリシャ、イタリア、カナダ、スペイン、日本、米国、韓国である。

(2005年1月18日収録、2007年7月21日更新)



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