グローバリゼーションの進展が語られはじめてから久しく、最近では、英国のEU離脱、トランプ政権の誕生、ヨーロッパのポピュリズム政党躍進の背景としてグローバリゼーションの恩恵を受けず、かえってマイナスを蒙っている層の反グローバリゼーションの動きが指摘されるようになっている。

 単なる国際化とは異なり、国家同士の関係を越え、地球規模でヒト、モノ、カネが飛躍的に拡大することを意味するグローバリゼーションは、政治史的には、東西の冷戦構造が終焉をとげた1991年のソ連崩壊をメルクマールとしている。2009年版世界開発報告はこう言っている。「2次にわたる世界大戦間に資本、労働、財の流れが制限され、世界経済は分断化されたが、冷戦が終わった1990年以降に、グローバリゼーションが加速し、こうした制限が緩和され、世界経済は統合化へ向かった」。

 ここではグローバリゼーションを示す経済指標としてヒトの移動を見てみよう(モノやカネのグローバリゼーションについては図録4900、図録0700参照)。ヒトの移動のグローバル化に関しては、国際的な人口移動者数(移民数)や国際旅行者(観光客)数が指標として考えられる。世界全体の長期推移が手軽に得られる前者の指標を見てみよう。移民のストックとしては移民人口比率を図録1171で掲げているので、ここでは移民のフローとして社会移動率を取り上げる。

 国連が2年ごとに行っている世界各国の将来人口推計では、将来人口推計の前提条件の1つである国外との流出入人口についてのデータを整理しており、その中で過去の5年ごとの実績を公表している。流入から流出を差し引いた純流入数なので、先進国地域ではプラス、途上国地域ではマイナスとなっている。図に掲げた対人口比は、母数となる人口規模の違い(中国、インド、ブラジルなどが途上国に含まれる)により異なるレベルとなっているが、原数値はプラスとマイナスがちょうど打ち消しあう値となっている。先進国間、途上国間の流出入はキャンセルアウトされている。

 先進国への社会移動率(年平均)は1980年代までは人口千人当たり1人を大きくは越えないレベルであったが、1980年代後半から1990年代前半にかけて、1.27人から2.05人へと格段に大きな上昇となった。21世紀に入っても2人以上の高いレベルを維持している。すなわち、冷戦構造の崩壊に伴って、途上国から先進国への人口移動のレベルが断層に近い拡大を示したといえよう。

 2010年代前半は、ただし、欧州債務危機の影響でスペイン、ギリシャが転入超過から転出超過に転じたため、先進国の社会移動率は1.88と低下している。

 社会移動率の断層的な上昇は、途上国における独立運動が一定の成果を見、先進国での経済成長が加速した1950年代後半から1960年代前半にかけての移動レベルの上昇の際にも見られた(1960年は17カ国が独立した「アフリカの年」)。

 各国別には、西欧諸国ではEU内の移動自由化により東欧からの流入者も多く、下図に見られるように、スウェーデン、ドイツ、英国では2010年代前半の純流入率が千人当たり3人レベル以上となっている(図録1172参照)。カナダと米国でも、やはり、それぞれ、6人台、3人台と人口流入が多い。純流入率が3人ということは日本で言えば毎年30万人ほど外国人が増えつづけるというレベルである。反移民感情の高まりは、外国人流入の少ない日本(2010〜15年純流入率0.55)では想像できないような政治環境を生み出していると考えられる。


 2000年代後半と比較すると、英国、イタリア、特にスペインで社会移動率が大きく低下し、ドイツでは逆に社会移動率が上昇している。欧州債務危機が及ぼした各国への影響の違いがこうした差を生んでいると思われる。

 ヨーロッパ内の人口移動の状況をうかがうためにヨーロッパ各地域の純流入者数の推移を下の図に掲げた。ヨーロッパの中では東欧だけで純流入者数が一貫してマイナスとなっており、東欧人が地域外、すなわち主として東欧以外のヨーロッパに流出していることが分かる。時期的には、ソ連、ユーゴスラビア崩壊後の1990年代に特に流出者数が多くなっている。同時期には旧ソ連圏ではそれを補うように流入が増えており、東欧からの流出はドイツを中心とした西欧への流出だけでなく、ロシア等への流出(ロシア人の還流を含む)も多かったことがうかがわれる。

 最近の動きとしては、参考に掲げた北アフリカからの流出が増加し、東欧からの流出を上回っている点(2010〜12年のアラブの春とその後の混乱のかなり前から北アフリカの転出超過が継続)、そして、2000年代の前後半に多くの移民を受け入れ経済発展をとげたスペイン、ギリシャなどの南欧が欧州債務危機により流入超から流出超へと転換した点が目立っている。かくして、西欧諸国が移民の受け入れ先として流入を増加させ、これが、最近目立ってきている西欧主要国における反移民の政治潮流につながるのである。

 さらに下に、同じ国連資料にもとづく主要国別の社会移動率の推移を掲げておいた。大きな傾向は先進国全体と同じであるとしても各国で流入が急増する時期と急減する時期とがあり、それらが交錯していることが分かる。日本がだんだんと先進国共通のトレンドを大きく下回るようになって来た状況も理解される。


 ここで、個別の国のデータを掲げているのは、カナダ、スウェーデン、米国、ドイツ、英国、イタリア、韓国、フランス、日本、スペインである。


(2017年4月18日収録、4月19日・20日ヨーロッパ各地域の動き、2023年8月18日コラム追加)


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