途上国への資金フローは急激な変化を示してきている。上図は、DAC諸国(OECDの開発援助委員会構成国、1999年にギリシア、2010年に韓国、2013年にアイスランド、チェコ、スロバキア、ポーランド、スロベニア、2016年にハンガリーが加盟し、EUを含め現在30カ国・地域)と国際援助機関から途上国へ向けて流れた資金フロー(ネット、すなわち流出額から還流額を引いた額)の推移を示したものである。

 1982年のメキシコの債務返済不履行状態以降のラテンアメリカを震源地とする国際金融危機により、資金フローは1980年代に収縮した。

 1990年段階では、ODA(政府開発援助)とODA以外の公的資金(公的一般貸付や公的輸出信用)が半分以上を占めていたが、90年代半ばにかけて民間資金フローが急拡大し、重要性を増した。

 1990年以降、民間資金フローのうちでも当初拡大テンポが激しかったのは、直接投資以外の証券投資や銀行貸付といった「その他民間フロー」である。これが、97年のアジア通貨危機後、急収縮した。これに代わって伸張したのが直接投資であり、日本からアジアへの海外生産シフトもあれば、欧州・メキシコのセメント資本が株価の下落したアジアのセメント企業をどんどん買収したのもアジア通貨危機直後の時期である。成長する中国への直接投資も拡大した。

 2001〜04年には、「その他民間フロー」は流入と流出が差し引きしてゼロに近くなる一方、「直接投資」は絶対額は小さくなったがなお資金フローの中ではODAを上回る大きなシェアをもっていた。しかし、この時期ODAの果たす役割は再び大きくなった。

 2005年以降は、ODAが拡大基調となると共に、再度、直接投資とその他の民間フローが急拡大した。そして、2008年秋のリーマンショックである。アジア通貨危機の時と同様途上国への「その他の民間フロー」は2008年には急縮しマイナスとなった。1982年以降のラテンアメリカ債務危機、1997年以降のアジア金融危機とことなり、2008年のリーマンショック以降の金融危機及びその後の2009年以降のの欧州債務危機は先進国発のものであるため、2009年、10年と途上国向け資金フローは急回復しているように見える。

 途上国への資金フローのうち、ODAより直接投資、また直接投資よりその他民間フローの方が安定性が低いことが分かる。その他民間フローは投機資金的な性格をもっているといえよう。そうした中、時に過熱する途上国へ向けての巨大な資金フローの中で、直接投資の役割が着実に高まってきているのが印象的であり、これが、カネの流れから見たグローバリゼーションの内容をなすものと見なすことができる。

 先進国から途上国への激しいフロー変動の中で、2008年ショックではまずその他の民間フローがマイナスとなったのち翌2009年に直接投資が急減するという過程を辿った。回復もこの順番である。2010年の急増ののち、2011年、2012年に関しては、急落はしておらず、民間フローを中心とした急伸と急縮の繰り返しからは今のところまぬがれているように見える。アジア通貨危機ののちにつくられるようになった東アジア・東南アジアのチェンマイ・イニシアティブ(2000年創設、2009年マルチ化)などの通貨・金融危機対策のための相互援助スキームが国際資金フローの安定化にある程度役立っている側面もあろう。

 以下にはODA、直接投資とともに仕送り額の資金フローを示した推移図を掲げた。近年、仕送り額の規模が直接投資に迫っている点が印象的である。


(2008年3月18日更新、2011年2月26日更新、3月1日更新、2012年4月8日更新、2014年7月27日更新、2017年4月18日更新、2023年3月17日更新、仕送り推移図)


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