現在、多くの国で民主主義の危機が叫ばれている。それは、米国のトランプ大統領のようなポピュリズム的な権力者による乱暴な政権運営による場合もあるだろうし、SNSによるフェイク情報に踊らされて国内対立に乗じるような政治勢力が勢力を伸ばし、安定的な既存政党によるかつてのような代議制民主主義が機能しなくなっている場合もあろう。また、政治家の汚職や政治勢力の横暴によって政局が混乱し軍部のクーデターが懸念されるようなケースもあろう。

 イプソス社は各国の政治情勢を探る調査の中で、自国の民主主義が脅威にさらされているかを国民に聞いている。

 脅威にさらされていると回答した比率が7割以上の国が10近くあるが、こうした国は民主主義が危機的な状況にあるとも見なせよう。

 欧米先進国では、
  • オランダ
  • ドイツ
  • 米国
  • フランス
がそうした国として目立っている。米国は民主党支持層と共和党支持層との見解の相違が大きくなる中でトランプ大統領の乱暴な言動が民主主義の危機感を高めている。その他の国では、移民問題などを通じたポピュリスト政党の動きに伴う政局の不安定が民主主義の危機感を生じさせていると考えられる(図録5230m、図録5230k参照)。

 それ以外の国では
  • インドネシア
  • ペルー
  • ハンガリー
  • コロンビア
  • ブラジル
といったラテンアメリカや東欧で民主主義への危機感が高まっている。

 図には、タテ軸(Y軸)に民主主義への危機感、ヨコ軸(X軸)に民主主義を信奉する程度を取った散布図を描いた。

 ヨーロッパの主要国では民主主義を信奉する国民が多いので、それだけ、オランダ、ドイツ、フランスの危機感は大きいと考えらる。

 一方、ペルーやコロンビアなどのラテンアメリカでは民主主義そのものがそれほど信奉度の高いものではなく、それが民主主義の危機感を生む要因にもなっていると思われる(民主主義への信奉度が高くないと言っても7割程度以上が他の統治形態より優れているとしており、ダメ出しをしている訳ではない点に注意が必要)。

 米国やブラジルなど大統領の言動で民主主義が揺らいでいる国は、民主主義への信奉度では上の2グループの中間に位置している。

 ところで、我が日本はどうかと言えば、民主主義への危機感は58%とそれほど高くない(30カ国平均の63%より低い)。なんだかんだ言っても従来から自民党政権が継続しており、政治に混乱が生じている訳ではないためと思われる。

 一方、日本の特徴は、民主主義への信奉度が69%と対象30カ国の中で最低である点である。同じアジアのマレーシアやシンガポールの民主主義信奉度がともに87%と高いのと比較すると低さが目立っている。日本では民主主義をクールに見ているとも言える(民主主義は西洋的な価値観だとする比率も高い点は図録9660参照)。

 民主主義を冷静に取り入れているため、民主主義への危機感が生じるほどの混乱も生じていないとも言えようか(民主主義を過度に理想化していないため、大統領制のような二元民主制は取り入れず、少数意見を反映させるオランダのような完全比例代表選挙でもないことが幸いしているとも考えられる)。

 なお、民主主義への危機感が特に低いのはシンガポールの35%である。シンガポールは民主主義への信奉度も高い。また、欧米の中ではスウェーデン、ニュージーランドが比較的安定した民主主義を維持している。

 対象となっている30か国は、民主主義への危機感が高い順に、インドネシア、オランダ、ペルー、ハンガリー、コロンビア、ドイツ、ブラジル、米国、フランス、南アフリカ、トルコ、タイ、英国、インド、スペイン、メキシコ、イタリア、韓国、ベルギー、日本、チリ、カナダ、ポーランド、アイルランド、アルゼンチン、マレーシア、オーストラリア、ニュージーランド、スウェーデン、シンガポールである。

(2025年12月17日収録)


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