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通常、政党支持率と言うと、選択肢から一つ支持している政党を選ばせる設問の結果であり、支持政党なしの値を含めて合計して100%となる数字である。ここでの支持率はそうではない。それぞれの政党について、支持しているかどうか( favorable viewであるか)という設問の結果であり、合計して100%を越えることもある数字である。複数回答の結果といってもよかろう。 なお、ここでの政党支持率が、直接、各政党の政治勢力分布を決定する議会の獲得議席数に直結するわけでない点に注意が必要である。日本や英国など小選挙区制の国ではここでの支持率以上に選挙区に根づいている既成政党が有利である(下図参照)。例えば、日本の2024〜25年は日本維新の会の支持率が自民党を上回っているが議席数では遠く及ばない。一方、ドイツのような比例代表制の国ではここでの支持率が議席数により反映されやすいといってよい。 ![]() なお、日本、米国、英国以外の国についてのコメントは、今後、掲載する予定である。 (日本) 自民党への支持率は2023年46%から24年の30%へと急落した。だからといって主要野党の立憲民主党の支持率が上昇したわけではなく、その他の日本維新の会、公明党の支持率も低下傾向である。つまり主要政党への支持率は総じて低下してきている。 自民党の支持率低下は理由がはっきりしている。2022年11月に自民5派閥の多額の不記載の疑いを報じたしんぶん赤旗のスクープを受けた告発を2023年11月に読売新聞やNHKなどが報じたことで「政治とカネ」にまつわる問題として一気に表面化したためである。そして、また、物価高が先進国の中でも遅れて日本で深刻化し、政権与党の信認が低下したことも支持率が回復しない理由となっている。 なお、図に示した4党以外の新興勢力である国民民主党、あるいは参政党などポピュリスト政党の調査データはない。 (既成政党、2大政党の衰え) 世界的傾向として、左派対右派ないし保守対リベラルという対立軸をもつ既成政党が与野党の機軸をなしていた時代が過ぎ、緑の党、ブレグジット党、地域政党、反移民、反ワクチン、反EUといったワンイシュー政党(単一争点政党)が登場したり、それと重なりながら左右のポピュリスト政党が新興政党として登場して、既存政党への支持率が総じて低下してきている。 2大政党制の衰えは得票率合計の低下からうかがえる。水島治郎「ポピュリズムとは何か」(中公新書)によれば、2大政党の得票率の合計は、英国の保守党と労働党の場合、1950年代初頭の9割超から2015年の総選挙の6割台へと落ちている。またドイツのキリスト教民主同盟と社会民主党の場合、1950年代の8割超から、2013年選挙の6割台へと落ちている。 (米国) 米国の場合は、上図の支持率の推移からも2大政党の衰えが明らかである。民主党と共和党の支持率の合計は2019年の91%から2025年の75%に低下している。 大統領選が選挙人団による間接投票であるため2大政党以外の立候補は難しく、共和党・民主党以外の政党活動は現実的でない。このため米国の事例が世界的な主要2政党への支持率の低下をはっきり示す結果となっている。また、米国の場合、同じ理由で2大政党のそとに有力なポピュリスト政党が誕生しにくいため、共和党の大統領候補予備選で政党外のポピュリスト政治家であるトランプが勝利し、結果として、共和党自体がポピュリスト政党化したといえる。 新型コロナとその後の激しいインフレにより2021年から23年にかかえて政権を担った民主党の支持率が大きく低下し、共和党の支持率がそれほど上がったわけではないのに2024年に支持率が逆転した。これがトランプが大統領選で勝利した理由であり、共和党の支持の拡大が主たる理由とは言えないことが分かる。 (英国) 米国のトランプ現象と同様に、英国でも「レフト・ビハインド」という伝統的に労働党が強い旧炭鉱地帯や鉄鋼重工業地帯、かつての繊維工業地帯の労働者層が投票先を反EUの保守党や反移民の右派ポピュリスト政党へ変化させたことで、Brexit(2016年国民投票、2020年EU離脱)や労働党の退潮を生み出したと言われる。 右派寄りの政策的立場の保守党は、上中流からの支持が高い進歩的インテリ政党であり、キャメロン首相の時に党内EU離脱派との対立を解消するため国民投票に打って出たが大方の予想を裏切り、EU離脱が多数となった。それ以後、ジョンソン首相が反EU、反移民のスタンスを強め支持層を拡大したが、EUとは異なる形の自由貿易主義でもある。支持層は、グローバル化による自由貿易自体を望んでおらず、政党と支持者の間に認識のズレが生じているとも言われる。 労働党は、従来の労働者支持の政党から、都市型インテリ、中道左派の傾向が強まっていたが、コービンが2015年に党首となると左翼ポピュリズム路線を進めた。しかし2019年総選挙でEU離脱への態度不明確により敗北し、その後それまでの労働党の立場であった中道左派傾向に戻った。 2024年の総選挙の地滑り的勝利による労働党の政権復帰は、図の支持率が伸びていないことからも分かる通り、労働党の躍進ではなく、不祥事で不評となったジョンソン政権以降の場当たり的対応のよる保守党の総崩れによる。 近年、支持率が上昇傾向にあるのが、自由民主党と右派ポピュリズム政党のリフォームUKである。 自由民主党は自由党と社会民主党(労働党から分裂)の合併(1988)でできた中道政党であり、全体的にリベラルな政策を取る。同性婚、移民の流入問題に関しても寛容であり、親EU派である。 リフォームUKはEUからの離脱が発祥である。もともと欧州懐疑的な政策を掲げていたUKIP(連合国独立党)の党首であったナイジェル・ファラージが離党し、EU離脱を主張する単一争点政党のブレグジット党を作った。使命を果たし解散したが、コロナ下、ジョンソン首相のロックダウンに反対し再結成された。反グローバリズム、反欧州主義、厳格な移民政策などを掲げる右派ポピュリスト政党である。 労働党と保守党という2大政党が、党首グループ、議員グループ、支持層の間の意見の対立やどんな票田をターゲットとするかで政策方向が大きく揺れるのに対して、正反対の方向でも論点が明確な自由民主党やリフォームUKの比較的順調な上昇が目立っている。最近では、自ら「エコ・ポピュリズム」を掲げた緑の党も急進左派的政策で支持率をあげているという(読売2025.11.17)。 英国在住の作家・コラムニストのブレイディみかこ氏は、こうした状況の中での最近の保守党の凋落について次のように述べている(AERA2025.11.10)。 史上初の黒人女性の保守党党首ベーデノックは、リフォームUKの極右的政策との差を打ち出すどころか、欧州人権条約からの離脱や気候変動法の廃止を公約に掲げ、中道保守路線への決別をきっぱりと打ち出した。(中略)「大人の政党」と呼ばれた保守党が、極右に対する防火壁になる主流派右派の役割を忘れ、存続の危機に瀕している。「MBGA(メイク・ブリテン・グレート・アゲイン)」の野球帽を被ったファラージたちに保守党がのみ込まれたら、チャーチルやサッチャーが棺桶を蹴破って出てくるのではないか。2人なら、「そもそも英国はサッカーとクリケットの国だ。その米国の帽子をまず脱ぎなさい」と言うだろう。 (2025年11月16日収録、11月17日政党システム表)
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