世界数十カ国の大学・研究機関の研究グループが参加し、共通の調査票で各国国民の意識を調べ相互に比較する「世界価値観調査」が1981年から、また1990年からは5年ごとに行われている。ただし7回目の最新調査は前回から7〜10年後の2017〜20年(日本は9年後の2019年)となっている。

世界価値観調査は各国毎に全国の18歳以上の男女、最低1,000サンプル程度の回収を基本とした個人単位の意識調査であり、極めて貴重な情報を提供している。

 ここでは、この調査から分かる神の存在対する各国国民の見方の変化を図録にした。最新時点の世界各国の状況については図録9520参照。日本人の状況については図録3971c参照。

 図には、異なる時期の「神の存在」を信じている割合を比べるため、X軸に2000年期(一部2010年期)の値、Y軸に最近の2017年期の値を取った散布図を掲げた。対象はどちらの時期にも調査が行われた国である。

 ここで2000年期とは多くの国が2000年に調査を開始した調査回を指す(実際には1999〜2004年に各国で調査が実施されている)。2010年期、2017年期も同様の表現である。

 この散布図の右上の国は両時期を通じて神の存在感の大きい国(いわば「宗教堅持」の国)、左下の国は両時期を通じて小さな国である。

 一方、視点を変えて、45度線より左上に位置する国は、以前より神の存在を信じる人が増えた、いわば「宗教復活」の諸国であり、45度線より右下に位置する国は、以前より神の存在を信じる人が減った、いわば「脱宗教化」の諸国である。

 そして45度線より距離が離れているほどその程度が大きいと判断できる。

 両時期共に値が非常に高く、スペースの関係で図中に国名を記せなかったバングラデシュ、フィリピンなど11か国は、途上国的な性格の強いイスラム圏諸国ないしカトリック国である。

 それ以外では、45度線より下に位置する国が多い。特に、主要先進国は、日本を除いていずれも45度線より右下に位置している点が印象深い。この点から、世界では脱宗教化が大勢であることが理解できる。

 それでは、45度線より左上に位置する「宗教復活」の諸国はどんな国であろうか。国名を見れば分かる通り、ギリシャと日本を除けば、いずれも旧社会主義国(一部社会主義国)である。社会主義国では「宗教はアヘンだ」とされ、「神の存在」を信じる者は白眼視されていた。ところがソ連崩壊以降の脱社会主義の流れの中で、「神」や「宗教」が復活してきているのだと見て誤りないだろう。

 旧社会主義国の中でもポーランド、クロアチア、スロバキア、チェコなどは45度線より右下に位置する国となっているが、これらの国では、以前より社会主義思想の感化力が弱かったため、欧米諸国一般と同様の脱宗教化の動きとなっていると解することができる。

 45度線からの距離が大きく、宗教復活の程度が大きい国として、ロシアとベトナムが目立っている。2000年期から2017年期にかけて、神の存在を信じる人の割合が、ロシアでは60.4%から74.4%へ、ベトナムでは17.7%から48.5%へと大きく増加しているのである。社会主義思想の影響力が大きく弱まり、ロシアではギリシャ正教が復権し、ベトナムでは仏教やフランス統治下時代以来のカソリックなど種々の既存宗教が復活するとともに、諸宗教が混交した新興宗教も盛んになってきているからと考えられる。

 社会主義国だったわけでもないのに、旧社会主義国と同様に宗教が復活してきている点で目立っているのは、ギリシャと日本の2国である(そもそもの神の存在感に大きな隔たりがあるが)。ギリシャは社会主義政党が選挙で政権を握っていたこともある、社会主義の影響度の高かった国である。実は、日本も思想的には社会主義の影響が強かったため、今になって、旧社会主義国と同様に、宗教の復活現象が起こっていると解することが可能なのである。

 最後に、参考までに、世界の主要国におけるこの設問の年齢別結果を対比させたグラフを下図に掲げた。

 冒頭の散布図で「脱宗教化」に位置した米国やフランス、スウェーデンでは、かつての日本と同様に高齢者ほど信心深く、若者にとって神の存在感は薄れている。ところが、これとは対照的に、ロシア、ベトナム、日本といった「宗教復活」に位置した国では、高齢者ほど信心深くはなく、むしろ若壮年層がもっとも信心深くなっている。

 ただし、ベトナムは45〜54歳層で、ロシアでは35〜44歳層でもっとも「神の存在」を信じる割合は高く、「宗教復活」がかなり前から起っていると見られるのに対して、日本の場合は16〜34歳という最も若い層で、同割合が最高となっており、宗教復活が最近の現象だという違いが認められる。ソ連崩壊や開放政策といった社会主義の凋落という激変に直接さらされず、単に思想上の潮流変化の影響を受けているだけの日本では、「宗教復活」に見える現象の到来もやや遅くなったのであろう。

 日本では、若年層の自民党支持率が高齢者より高いなどの現象が起きており、これに対して、「若者が保守化している」と解されることが多いが、これは高齢層からの一方的な見方に過ぎない面が大きい。むしろ、そう見える変化は、ここで神の存在感について分析したのと同様に、一時期、勢力が大きかった近代思想・社会思想の影響力が日本で減退してきただけだと見ることができよう。



(2021年12月12日収録)


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