2010年のワールドカップはアフリカで最初の開催地南アフリカで戦われており、南アフリカ社会の問題点についても世界の人々の関心が集まっている。 エコノミスト誌(The Economist, June 5th 2010)は南アフリカ特集の中で、南アフリカ社会の格差と犯罪を「大災厄:黒人中産階級の出現にもかかわらず、何百万人もの人々を損なっている貧困と犯罪」という記事を掲載している。 図はこの記事に引用されているSAIRR(the South African Institute of Race Relations)の調査結果である。 南アフリカの労働力人口のうち年間所得63万円(5万ランド)未満が75.5%を占め、この階層では83.0%が黒人である。白人は6.5%と少ない。 一方、938万円(75万ランド)以上は0.6%と少なく、この階層の77.4%は白人である。黒人は16.3%、約3万人である。 26.5万人の黒人が375万円(30万ランド)〜938万円(75万ランド)の所得を得ており、160万人の黒人が125万円(10万ランド)〜375万円(30万ランド)の所得を得ている。このようの200万人(家族を含めるとその3倍)の黒人がいまや新しく勃興した黒人中産階級となっている。 「これらいわゆる「黒いダイヤ」と呼ばれる階層は白人と同様ゲートによって安全を保持されたコミュニティで暮らし、子どもを私立学校に通わせ、民間健康保険に加入し、エアコンのきいたジムで運動をし、感じの良いレストランで夕食を取り、高価な自動車を購入している。人種的な混交、人種間の結婚が起こっているのはこうしたレベルでである。」(The Economist, June 5th 2010、以下同様) 黒人の生活水準は全体としては上昇し、住宅状況は改善されているが、白人の所得はそれ以上に増加しているので、「世界の中で最も不平等な社会とされる南アフリカはますます不平等度を大きくしている。」 1994年4月に、全人種参加の総選挙が実施されアフリカ民族会議(ANC)が勝利。ネルソン・マンデラ議長が大統領に就任した。黒人政権による「すべての者によりよい暮らしを」という約束により高まった期待は、大きく裏切られたと多くの者が感じている(特に失業者の多い階層で)。 「医療研究協議会の調査によれば、特に若者の深い不幸感、疎外感が著しい。15〜17歳のティーンエージャーの5人に1人は過去半年間に自殺をこころみた。29%は過去1カ月に最低一回飲み過ぎた。19%は妊娠したか、父親になった。20%は太りすぎである。(中略)こうした若者は怒りをぶちまけるために街に繰り出し、商店を略奪し、高速道路を封鎖し、火炎瓶や投石で警官を攻撃することがますます多くなっている。」中産階級はこうした状況に対してますます守りを固め、自宅のあるコミュニティを要塞化している。「南アフリカではいまや30万人の民間警備員が雇われており、この数は警官の2倍である。1996年以降政府は犯罪対策予算を3倍に増やしたが、民間での支出はそれ以上に伸びている。」 なお、上述の黒人中産階級「黒いダイヤ」の状況については、NHKスペシャル「沸騰都市 第5回 ヨハネスブルク “黒いダイヤ”たちの闘い」で放映された(2009年1月25日(日))。 この番組の紹介文にはこうある。「アフリカ最大の経済大国、南アフリカの中心都市ヨハネスブルク。豊富な鉱物資源と『黒いダイヤ』と呼ばれる黒人中間層の拡大で急成長を遂げてきた。(中略)背景にあるのは政府の黒人経済強化策。優先的にレアメタル鉱山の採掘権を与えられてこれまで白人が独占していた鉱山経営で成功を収める黒人も登場した。かつての白人専用カジノには黒人富裕層が詰めかける。そして、この富を狙って2つの新興国、中国とインドが競い合うように進出している。流れ込む中国人は5千人から20万人と急増した。主役に躍り出た黒人たち。しかし彼らに初めての試練が訪れている。世界的な景気悪化の影響を受け、資源価格は急速に下落。一方では、貧富の格差拡大や世界最悪ともいわれる犯罪の多発など問題も吹き出している。」 南アフリカの言語状況(多言語併存、英語共通化)については図録9456参照。 (2010年6月23日収録)
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