それでは他の国と比較して、単一言語で統一されているのは珍しいことなのかを調べるために、ISSPという国際共同調査の結果から日常言語の比率を国際比較した図録を作成した。 「ISSP(International Social Survey Program)」は毎年異なるテーマで共通の調査票を用いたアンケート調査を各国の大学・研究機関が共同して行っている国際プロジェクトである。各国とも1000〜2000程度のサンプルで、全国的に片寄らないように調査対象を抽出するよう工夫されている。日本ではNHK放送文化研究所が調査担当機関となっている。同様の調査に「世界価値観調査」があるが、こちらは、5年おきの参加国数がより多い国際共同調査であり、テーマを限定しない総合的な設問で行われている点が異なる。 日常言語を聞いている設問は、34カ国が参加した2003年調査の中でも設問を設けた国が限定されており、21カ国のみで比較可能であった。 結果は日本、台湾、韓国では同一言語を日常言語とする者が100%であった(台湾の言語については末尾コラム参照)。全国から無作為に(ランダムに)1000〜2000人を選んで聞いてみても1人も主要言語以外を主たる日常言語としては使っていなかった訳である。 ただし、広東語、客家語、標準語(官話)を同じ中国語として集計した結果であり、実は、いくつの言語で会話できるかという別の年のISSP調査の設問では台湾は複数言語会話者が世界の中でも最も多い−図録9454参照)。 逆に、主要言語の比率が最も小さかったのは、南アフリカであり、アフリカーンス語を日常使っている者の比率は26.5%と3割以下だった(南アフリカの言語事情については末尾コラムを参照)。 次はラトビアであり、主たる言語ラトビア語は37.2%、第3位はイスラエルであり主たる言語ヘブライ語は37.9%となっている。 カナダとスイスも多言語国家として知られており、カナダの首位言語英語の比率は69.1%、スイスの首位言語ドイツの比率は71.5%である。 しかし、多民族国家として典型的なロシアと米国は、首位言語の比率が高い。ロシアではロシア語が96.6%、米国では英語が95.9%と圧倒的である。もし言語使用からだけ判断するとこの2国はほぼ単一民族国家ということになる。 ISSPの同調査では、回答者の人種・民族も調査している。以下にいくつかの国で言語比率と人種・民族比率を比較した表を掲げた。
ロシアのタタール人やアルメニア人などは自民族語というよりロシア語を話すようになっているのである。また、良く知られていることであるが、米国の黒人は英語を話している。
チェコとスロバキアは今ではほぼ単一言語の国であるが1992年まではチェコスロバキアという国で多言語国家だった。 末尾のコラムでも見ている通り、南アフリカやシンガポールなど、多民族国家でも、あるいは多民族国家であるが故に、外来語・国際語である英語に統一されつつある国もある。日本語も、もとはといえば、古代国家としての自立・統合過程の中で、当時の多民族混在状況のなかから、当時の共通語である中国語をもとに在来言語を加味して人工的に作られた言語であるとする岡田英弘の説がある(「倭国―東アジア世界の中で」中公新書、1977年、「日本史の誕生―千三百年前の外圧が日本を作った」弓立社、1994年、など)。 図録作成の私の意図は日本を例外として世界には多言語国家がいかに多いかを示そうとしたのであるが、実際は、むしろ意外に言語は単一性が高い状況が示された結果に終わったという印象である。日常言語から見た民族の多様性は案外小さいのだ。 なお、スイスは多言語国家であるが、民族としてはスイス人と自らを考えていることが興味深い。 以下に、5位までの言語比率(図録原データ)と南アフリカの6位以下を含む言語比率の表を掲げておく。 各国5位までの言語比率(ISSP調査結果、2003年)
南アフリカの言語比率(ISSP調査結果、2003年)
(2012年8月2日収録、2022年1月29日コラム2追加、コラム3補訂)
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