調査対象の29か国中、1言語のみの割合が50%未満が14か国、50%以上が15か国とほぼ半々である。多言語会話者(バイリンガル以上)が半数以上の国がこれほど多いのには驚かされる。 もっとも多言語会話者が多いのは台湾であり、その割合は9割を占めている。標準語(官話、北京語系)のほかに、戦前からの台湾語(福建語系)、客家語といった中国語系に英語、原住民語(オーストロネシア語系)などが加わっているのではないかと考えられる。国民党が統治するようになったので覚える必要が生じた標準語の前にやはり統治者の言語としてしゃべれるようになった日本語をまだ話せる高齢者がいて、数は少ないだろうがそれを1言語と回答している可能性もある。この設問への回答から、台湾人は中国語でも、標準語、台湾語、客家語などはそれぞれ異なる言語と考えていることが分かる(図録9456コラム参照)。 スリナムが台湾に次いで多言語会話者が多い。スリナムは元オランダ領ギアナであるが、「言語は、公用語はオランダ語だが、クレオールが使うタキタキ語とも呼ばれるスリナム語(Sranang Tongo)が共通語として使われる。また、英語やジャワ語やヒンディ語など、それぞれの民族はしばしば自分達が元々使っていた言語を使っており、ポルトガル語やスペイン語を話すコミュニティも存在する」(ウィキペディア2022.5.7)。 多言語会話者の多さが、この2カ国に次いでいるのはスウェーデンであるが、スウェーデンの場合は、増えている移民の要因もあるが、それ以上に、台湾、スリナムと異なって、多民族国家化したからというより、スウェーデン人そのものが世界で活躍できるよう、子どもの頃から自国語のほかに英語やドイツ語、フランス語などを使えるよう努めているからだと考えられる。 ヨーロッパにはそうした性格の多言語国家も多いと考えられる。 一方、1言語会話者が最も多い国は中国であり、その割合は92%となっている。次に多いのは日本であり87%である。日本でも残りの13%は多言語会話者である。3位はメキシコである。 この3カ国に次いで、1言語会話者が多いのは、英米、オーストラリア、ニュージーランドといった英語圏諸国とロシアである。英語とロシア語の単一使用者が多数派となっていて、それで済んでいる地域として、ヨーロッパ諸国一般や途上国の多民族国家とはかなり言語事情を異にしていることがうかがわれる。 世界的に若い世代ほどグローバリゼーションに対応して会話できる言語数が増えているのではないかと考えられる。この点を確かめるため原データを年齢別に集計してみた結果を下図に掲げた。確かに若い世代ほど多言語で会話できる者の比率が増大している。参考までに日本の値を掲げておいた。サンプル数がそれほど多くないので確定的なことは言いにくいが、日本の場合は年齢にかかわりなく1言語のみの割合が高く、若い世代ほど多言語の傾向は余り明確とはいえない。移民が少ないせいもあり、グローバリゼーションからはやや立ち遅れている状況を示している。 対象となっている29カ国は、図の順番に、台湾、スリナム、スウェーデン、スロベニア、アイスランド、イスラエル、スイス、南アフリカ、フィンランド、フィリピン、ドイツ、オーストリア、リトアニア、スロバキア、チェコ、スペイン、インド、クロアチア、フランス、タイ、ハンガリー、英国、米国、ロシア、オーストラリア、ニュージーランド、メキシコ、日本、中国である。 (2022年5月7日収録、2024年11月9日年齢別集計)
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