2024年7月の東京都知事選でもひとつの争点にはなった。関連して実施された意識調査の結果を見ると下図のように樹木伐採への反対は60〜70代では5割を占めていた。一方、30代では2割であり、便利さを取るか癒しを取るかは年齢差が大きいようだ。 これと関連して、東京は世界の他の首都と比べてどれだけ緑が多いのか、少ないのかが気になるところである。OECDの報告書から各国首都の緑地比率を比較したデータを掲げた。日本の主要都市の緑地比率は図録7790参照。 こうした都市比較に際しては、単なる行政区域としての都市データを比較するとどこまで郊外を含んでいるかなど都市の成り立ちの違いでバイアスが生じる。そこで、ここでは、人口の密集度などから機能的都市圏を区画し、その中の都心地域における緑地比率を比較している。 都心地域といってもいわゆる都心部よりは広いイメージである点を含めOECD/EUによる機能的都市圏や都心地域、都心核の定義については末尾コラム参照(なお、図録9391には各国首都圏の建物の平均的な高さも示したが、東京はすでに世界有数のノッボ都市である)。 結論から言うと、世界各国の首都の中でも東京はもっとも緑の少ない都市のひとつである。 東京の都心地域における緑地比率は21.4%であり、OECD37か国の平均46.3%の半分以下であり、各国首都のなかではチリのサンチャゴの11.9%、メキシコのメキシコシティの18.1%に次ぐ低さとなっている。 人口1人当たりの緑地面積でも東京の都心地域は33uと最小のコロンビアのボコタ及び上記2都市に次ぐ小ささとなっている。 主要首都の都市地域の緑地比率を高い順に並べると以下であり、東京の緑はそれらと比較してもかなり希少なものになっていると言わざるを得ないだろう。 ベルリン 60.3% ロンドン 57.3% パリ 49.3% ローマ 41.7% ソウル 35.9% 東京 21.4% なお、東京、ニューヨーク、ロンドンの都心行政区の緑地比率の比較を図録9390に掲げているがこれとも整合的な結果である。 いずれにせよ、世界の主要首都の中でもっとも緑が少なく建物も高い東京でさらにそうした状況を推し進めることは妥当なことかという議論が起こってもおかしくない。 以下に東京23区の緑地率(樹冠被覆率)とその推移を掲げた。 値が最も高いのは皇居のある千代田区であり、それ以外でも明治神宮のある渋谷区、赤阪御用地のある港区、大学等が多い文京区といった都心地域で緑地率が高い。反対に緑地率が低いのは、都心地域では中央区、それ以外では荒川区、墨田区といった東部地域であることが分かる。樹木伐採に対して反対が根強い神宮外苑は新宿区にあるが(一部港区)、開発事業者のテレビ発言によると所有者が同じの明治神宮の緑をまもる資金の捻出のためだというので、渋谷区の緑のために新宿区の緑を犠牲にするという話のようだ。 推移としては23区平均で約10年に9.2%から7.3%へと低下している。世田谷、杉並、練馬、中野といった住宅地域で緑地率が大きく低下しているのは民家の庭木の減少による(東大研究チームの2024.年4月の論文によると樹冠被覆率の減少幅は一戸建て住宅が40.6%減と最大で街路樹の減少による道路が21.4%減、教育・文化施設が18.2%、公園8.3%と続いていた)。 取り上げた各国首都名を図の順に示すと、サンチャゴ(チリ)、メキシコシティ(メキシコ)、東京(日本)、テルアビブ(イスラエル)、アテネ(ギリシャ)、ボゴタ(コロンビア)、マドリード(スペイン)、アンカラ(トルコ)、ソウル(韓国)、ローマ(イタリア)、リスボン(ポルトガル)、ウィーン(オーストリア)、オタワ(カナダ)、ブラチスラバ(スロバキア)、レイキャビク(アイスランド)、アムステルダム(オランダ)、ブダペスト(ハンガリー)、ルクセンブルク(ルクセンブルク)、ブリュッセル(ベルギー)、パリ(フランス)、プラハ(チェコ)、リガ(ラトビア)、タリン(エストニア)、リュブリャナ(スロベニア)、ワルシャワ(ポーランド)、コペンハーゲン(デンマーク)、ビリニュス(リトアニア)、ダブリン(アイルランド)、ロンドン(英国)、キャンベラ(オーストラリア)、ベルン(スイス)、ヘルシンキ(フィンランド)、ストックホルム(スウェーデン)、ベルリン(ドイツ)、ウェリントン(ニュージーランド)、オスロ(ノルウェー)、ワシントン(米国)である。 (2024年4月10日収録、5月15日都心核を都心地域に修正、7月2日東京都知事選意識調査、11月3日東京23区の樹冠被覆率)
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