国々の状況を知るためには、まず、人口ピラミッドを描いてみるのが近道である。現在の高齢化、少子化等の程度とともに戦争や出産ブームなど過去の大事件の名残りが年齢別の人口構成や男女比に残されているからである。ここでは北朝鮮の人口ピラミッドを掲げた。図録8900では韓国と日本の人口ピラミッドを比較したので参照されたい。

 北朝鮮の人口ピラミッドを韓国と比較しながら見ると2つの特徴が目立っている。第1に、全体の形状が韓国や日本のように「つぼ型」ではなく「つりがね型」であるという点、そして第2に特定の年齢層で大きな落ち込みがある点である。

 第1の特徴については、下に一般的な人口ピラミッドの推移の図を掲げたので参照されたい。


 図に示したように、多産多死の時代には「富士山型」の人口ピラミッドが見られた。戦前の日本や少し前までのインドなどがこの形だった。その後、衛生状態の改善で死亡率が低下して上の半分が膨らみ、次に、所得の上昇に伴った出生率の低下で下の半分が縮むことが多くなり、いわゆる少産少死時代の「つりがね型」に移行する。しかし、現在の日本がそうあるように少子化が人口置換水準以下にまで進行するとさらに子どもの年齢層がしぼんで「つぼ型」に変化するのである。

 北朝鮮はまだ韓国のような少子化時代には入る前の段階にあるため、「つりがね型」の形状を持っていると考えられるのである。

 第2の特徴は、60代後半とその子ども世代の40代前半の人口が目立って少なくなっている点である。

 2020年の65〜69歳は1950年代前半に生まれた年代である。これはちょうど朝鮮戦争(1950〜53年)の時期に当たっている。半島全土で過酷な戦闘が行われた朝鮮戦争では軍人、民間人を含め300万人が犠牲となったといわれ、特に北朝鮮側の犠牲者が多かった(図録8870)。犠牲者の規模は第2次世界大戦における日本の犠牲者数と同規模かあるいはそれを上回っている。人口規模からすれば戦争被害は日本の数倍に達し、特に被害の大きかった北朝鮮では出産数そのものが激減したのである。このことによって現在の北朝鮮の人口ピラミッドに大きな爪痕が残る結果になったのである。

 年齢別の性比を韓国と比較した図を下に掲げたが、60代前半より高齢の世代では韓国より性比が目立って低くなっている。韓国の高齢者の性比自体日本と比較して低く、朝鮮戦争の影響がうかがわれるのであるが(図録8900参照)、北朝鮮の場合は、朝鮮戦争やその後の社会混乱で、さらに大きくその年代で男性が女性と比べて多く死亡したと考えられるのである。

 図録8980で見たロシアの人口ピラミッドにもやはり過去の爪痕が大きく残されているが、ロシアや北朝鮮のような国の国民にとって、こんな大変な経験を経てきたことに比べれば、他国民の見方が能天気に見えてしまう面もあろう。

 なお、性比については、さらに、現在の20代が生まれた時期には、韓国では男子の出産が1割以上と不自然に多かったが、北朝鮮にはそうした傾向は見られなかったことが分かる。


(2019年7月5日収録、2023年1月21日更新)


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