好きな魚が地域的にどのように異なっているかを図示してみよう。好きな肉については図録7711参照。

 使ったデータは家計調査の県庁所在市別の年間支出額である。「赤身」の魚の代表として「まぐろ」、「白身」の魚の代表として「たい」、背中の青い「青魚」の代表として「あじ」、そしてこれらには分類されないが日常よく食べられている「さけ」(注)という4種類の魚を取り上げ、年間支出金額の上位15位までの県庁所在市のランキングから、それぞれの県庁所在市で県が代表されると仮定して、それぞれの魚を好んでいる地域を色分けした。複数の魚で上位15位に入る場合は、金額の多さではなくランキングの高さで各県民が好きな魚を特定した。

(注)さけの身が赤いのはまぐろなどとは異なって餌として摂取された甲殻類の赤みによるのであり、筋肉の種類からは実は白身魚である。しかし身が赤いので白身魚とは見なされることが少ない。

 こうして作成した分布図を見ると、大きく、東日本では、さけとまぐろ、西の本では、たいとあじが好まれていることが分かる。

 さけは、東日本の中でも、北側、日本海側で目立っており、まぐろは、南側、太平洋側で目立っている。実際のランキングを見ると、上位1〜2位の地域は、さけは、青森市、札幌市、まぐろは静岡市、甲府市となっており、おおまかには、それぞれの魚が回遊、遡上し、水揚げも多い地域かどうかの差が反映している。

 もっとも、まぐろについて、よくランキングを見ると、甲府市、宇都宮市、さいたま市、前橋市と関東の内陸県が上位に多く入っていることに気がつく。これは、冷蔵・冷凍技術が今ほど発達していなかった時代から、他の魚と比べて、まぐろは刺身用の魚が運びやすかったからだと考えられる(特にキハダマグロ)。日本人はマグロが大好きとされているが、マグロを好んでいるのは、実は、東日本の太平洋側、特に関東圏に偏っているといえる。

 西日本のたいとあじの場合は、たいは近畿と北九州で特に好まれ、あじは中四国、南九州で特に好まれている。ただし、実際のランキングを見ると、例えば、佐賀市はたいで1位、あじで4位となっており、また、長崎市はたいで4位、あじで1位とかなり重なっている側面が強い。九州はたいもあじも好き、それに対して、近畿のたい好きは、たい以外がそれほど好きでない結果という差がありそうだ。

 マグロやさけを好む地域が東日本に偏っているのと同じように、白身魚や青魚については「九州では寿司ネタとしても白身魚がやっぱりマグロより上位」、「青魚文化は西にあり」といったように西日本優位の地域性が顕著なのである(野瀬泰申「食は「県民性」では語れない」角川新書、2017年)。

 正月の魚は鮭かブリかという点の地域性を次に見てみよう。

 下図に示したように、正月の縁起物の魚(年取り魚)は、東日本の鮭(新巻鮭、塩引き)と西日本のブリ(生、塩干)が明確に分かれている。

 長野県は「どちらともいえない」が多いが、県内の地方によって異なるからであるようだ。野瀬(2018)「天ぷらにソースをかけますか?」によれば、長野県では、長野市は鮭であるのに対し松本市はブリである。岡谷・諏訪はブリで茅野の山間は鮭という。また新潟でも蛇行する信濃川の右岸と左岸で鮭とブリが分かれるという説もあるそうだ。

 なお、ブリの漁獲は富山湾が本場であり、正月のブリはここから各地に運ばれ、途中で塩ブリとなり内陸部へ向かうルートがあった(図録7806、図録7734参照)。

 「ブリ街道」は富山市から長野県松本市にいたる陸路で、岐阜県高山市を経由して野麦峠から松本に入る。旧暦12月に獲れたブリが高山に運ばれて年取り魚の「越中ブリ」と呼ばれた。高山で塩と加えて信州に運ばれたものが「飛騨ブリ」。このため「ブリは飛騨で獲れるもの」と思っていた信州人も多かったという。糸魚川から松本に運ばれた「糸魚川ブリ」というものが存在した。糸魚川−松本−塩尻峠−上諏訪のルートである。伊那には飛騨ブリが入るルートがあったが、伊那と諏訪は川伝いにつながっているから、あるいは伊那にも糸魚川ブリがはいっていたのかもしれない(同書、p.284)。


(2019年12月27日収録)


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