図には2010〜15年の人口増減数と人口増減率について、都道府県別に大きい順、高い順に棒グラフで並べており、2005〜10年の値を参考値として点グラフで付した。 全国の国勢調査人口がはじめて増加から減少に転じたのだから、増加から減少に転じた都道府県もかなり増えたのかというとそうではない。今回新たに減少に転じたのは大阪府だけであり、全国の人口減は、人口増加地域の増加幅の縮小と人口減少地域の減少幅の拡大によってもたらされたのである。そして前者の増加の縮小幅は72万人であり、後者の減少の拡大幅は51万人だったので、実は、人口増加地域の増加幅の縮小の方が影響が大きかったのである。 すなわち、増加地域と減少地域に並存という人口動向の2極化構造は温存されたが、その程度はやや小さくなったといえよう。 さて、次に、個別に見てみよう。 今回、人口が増加したのは、増加幅の大きい順に、東京、神奈川、愛知、埼玉、沖縄、福岡、千葉、滋賀の8都県であり、大阪が抜けただけであった。都市圏としては東京大都市圏、中京都市圏、福岡都市圏、地方圏としては沖縄の人口増が目立っていたといえよう。大阪大都市圏は、大阪が人口減に転じ、滋賀を除く各県も相変わらず人口減なので退勢は否定しようがない。3大都市圏の転出入の動きについては図録7675参照。 人口増加地域の都府県はいずれも2005〜10年の時期より増加幅が大きく減少しているが、例外的に沖縄と福岡は増加幅が逆に大きくなっている点で目立っている。 次に人口が大きく減少したのは、減少幅の大きな順に、北海道、福島、新潟、青森、静岡、秋田、鹿児島と続いている。基本的には3大都市圏からの遠隔地で減少幅が大きくなっているが、福島の場合は2011年の東日本大震災と原発事故の影響が大きいと考えられる。やや意外なのは静岡である。東京圏と中京圏の間に位置し、温暖な気候で住みよいと思われるのに何故大きく人口が減っているのであろうか。 これらの人口減少県では2005〜10年の時期にも大きく人口を減らしていた。ただし、福島と静岡は減少幅が例外的に大きくなっている。福島は上述の理由がつくが、静岡の場合は何故であろう。震災・原発事故以降の外国人の流出の影響もあろうが、それだけでは理由が薄弱と思われる。実際、国調人口の減少率は浜松市(-0.3%)より静岡市(-1.5%)の方が低くなっているのである。 人口増減率に目を転じよう。 人口増加率では、沖縄が東京を上回ってトップとなっている。出生率の高さがきいていると思われる。2005〜10年の増加率との比較でも福岡と並んで他の人口増加都県と異なり率が高まっている点が目立っている。 人口減少率が高い県は、高い順に秋田、福島、青森、高知、山形、和歌山、岩手、徳島、長崎、鹿児島、島根と東北などの遠隔地が並んでいる。福島は減少幅と同様に減少率でも2位となっている。これらの県では2005〜10年から引き続き減少率が高くなっている点が共通の特徴である。ただし、福島は減少率が高まっている点で特別である。 人口減少地域の中で減少率が今回高まっているのが目立つ県は、福島のほか、減少率の高い方から宮崎、奈良、大分、岐阜、三重、茨城、群馬、静岡、栃木、石川、兵庫、大阪などである。これらの府県は、上の東北などの遠隔地と比較するとそれほど減少率は高くなかった。 人口増減率の変化の分析 2005〜10年を前期、2010〜15年を今期と呼ぶことにしよう。上図には、X軸に前期の増減率、Y軸に今期の増減率をとった相関図を描いて、増減率がどんな変化を見せているかを調べた。
図の45度線より上ならば今期のほうが前期より増減率が上昇しているし、下ならば逆である。全国の人口が増加から減少に転じたことを裏付けるように、45度線より下の都道府県がほとんどである。45度線より明らかに上に位置する県は、沖縄、福岡、鳥取などそう多くない。 さらに全体の傾向を見るため一次回帰線を描き込んでみると、45度より低い角度となっていることが分かる。これは、増減率の高かった地域ほど増減率の低下が大きかったことを示している。すなわち増減率格差は縮まっている。言い換えると、東京圏への一極集中はなお進んでいるが、今期は前期ほどではないといえる。これは前期で著しかった東京圏への一極集中化が2008年秋のリーマンショックによる影響で頓挫したことによる(その後この傾向はまたアベノミクス景気と並行して復活しつつあるが)。 上で見たように、大阪は東京や愛知と並ぶ大都市圏なのに今期は人口増から人口減に転換した点で、また静岡は太平洋ベルト中央部に位置するという恵まれた立地の県であるのに人口減少幅が大きいという点で気になる動きを示していた。しかし、この2府県の人口変化は、一次回帰線にほぼ沿っており、全国的な傾向を辿っているに過ぎないことが分かる。もともといま述べたような地域特性をもつのに人口増減率のレベルが低い点は確かに問題なのであるが、リーマンショックによる影響を取り除いてみると、そうした特長が前期から今期にかけて強まったわけではないのである。 前期から今期にかけての変化で目立っているのは、沖縄、福岡、広島、宮城、鳥取などで、人口動向が一般傾向を上回って好調な点と、神奈川、千葉、滋賀、茨城、福島などで人口動向が一般傾向を下回って不調な点であり、これらの理由こそが明確にされねばならないのである。 前期より今期の方が好調な地域では、沖縄については、全国一、出生率が高く、また高齢化率が低い県であり、そのため、社会増減の要因が弱まると出生から死亡を引いた自然増の側面が目立つようになるためだと考えられる。福岡、広島、宮城などは九州、中国、東北といった地方ブロックの中枢都市である点が共通であり、東京圏からの人口吸引力が弱まった分、局地的な吸引力が目立つようになったのが理由であろう。 福岡については、こうした局地的な吸引力の高まりに加えて、原発事故の影響が考えられている。福岡市の人口は今回の国勢調査で5.1%増と政令市中最高となり、人口順位も京都市と神戸市を抜き第5位都市に躍進したが、週刊ダイヤモンドの取材によると、その理由として福岡市の担当者は次のように言っている。 「なぜ福岡市は増加が著しいのか。福岡市総務企画局企画調整部企画課の横手正樹課長は、「東日本大震災の影響が大きかった」と話す。「震災に加え、福島第一原子力発電所の事故が発生したことにより、東京をはじめとする関東圏から福岡市に避難した人が相次ぎ、その後、気に入ってくれて移り住んだ人が多かった」(横手課長)。確かに、それまで4000人程度だった社会増が、震災が発生した11年を境に1万人を超える規模となっている」(週刊ダイヤモンド、2016.3.26号、p.48)。小説家の金原ひとみは、2011年、放射能汚染を心配して東京から父親の実家である岡山に移住して次女を出産した。原発事故の影響で、被災地域からの避難移動以上に、広域的に人が動いた可能性がある。福岡の1次回帰線からの上方乖離は下に述べる福島の下方乖離と連動しているのかも知れない。 鳥取については理由は異なる。図で表示した小数点一桁の数字で減少率が縮小したのは、鳥取、島根、長崎、岩手の4県のみである。これらの県は高齢化率も全国上位であり、自然減は全国に先立って前期から大きな影響を及ぼしており、そのため、社会減の幅が小さくなった分だけ今期にかけて減少率が縮まったのだと考えられよう。移住促進策の効果の側面がどのぐらいあるかは分からない。 前期より今期の方が不調な地域では、福島は、東日本大震災と原発被害の影響である点ははっきりしている。しかし、同じ東日本大震災の被災県である岩手、宮城の人口動向は減少率の縮小であり福島とは異なっている。やはり原発被害の要因が勝っていると考えられる。神奈川、千葉、滋賀、茨城などの大都市圏周辺部の増加率の大きな低下については、都心回帰(図録7680)が影響している結果ではないかと考えられる。 なお、ここで都道府県別に行ったのと同様の国調ベースの2010〜15年の人口増減(率)の分析を東日本大震災臨海被災市町村について図録4364で行っているので参照されたい。 (2016年2月26日収録、2月29日「人口増減率の変化の分析」追加、3月26日福岡市の事例紹介)
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