家計調査によって、3大飲み物ともいえる緑茶・紅茶・コーヒーの支出額割合について、地域別(県庁所在市)別の1964年前後3か年平均から2020年前後3か年平均への56年間の変遷を追ったグラフを作成した。ここで対象となっているのは、茶葉、抹茶やインスタントを含めた豆・粉であり、最近多くなっている茶飲料やコーヒー飲料などペットボトルや缶の液体飲料は含んでいない。なお、ウーロン茶などの中国茶は紅茶に含まれる。
3大食肉といえる牛・豚・鶏の肉消費の構成の変遷については図録
7238aに掲げたので参照されたい。地域別のだし材料(こんぶ、煮干、かつお節)の変遷については図録
7238j参照。
この半世紀余りの変化としては、全国的にコーヒーが躍進し、緑茶の割合が大きく縮小している点が目立っている。緑茶、紅茶、コーヒーの全国における支出額構成比は、それぞれ、63%、8%、29%から33%、7%、60%へと変化しており、緑茶は半減、コーヒーは倍増となっている。紅茶の構成比はほぼ不変である。
地域別の特徴については以下のような点が見て取れる。
- 1964年当時は西日本で紅茶やコーヒーの割合が高かった。パン食など洋風の食文化が西日本から普及したからと考えられる。港町神戸の紅茶の割合が35%と特段に高かったのがその象徴的な事例であろう。ここで西日本とは関西・中四国を指し、九州を含まない。
- 1964年当時から洋風飲料化が進んでいた西日本の中で九州とともに松江は例外だった。松江は京都、金沢と並び日本三大菓子、茶処として知られている。これは大名茶人であった松江藩松平家 7 代藩主・松平治郷 (不昧公) が茶道「不昧流」を大成させたことで、茶の湯文化が浸透したためと言われている。
- 現在は、食文化の洋風化が全国的に広がり、和食に合う緑茶が衰え、洋風食と適合的なコーヒーが普及したことが明らかである。洋風化によって全国平準化が進んだ事例といえる。コーヒーの割合は西日本でなお高いが、青森や北陸でもかなり高く、今やそれほど全国の中で目立ってはいないのである。
- 紅茶については、1964年当時は、神戸だけでなく、岡山、広島、高知なども全国の中で割合の高さが目立っていたが、今では、神戸ですら12%と全国1ではあるものの2位の仙台の11%、3位の横浜の10%とそう大きな違いがなく、また特に西日本優位の特徴も見られない。
- 1964年当時、九州は緑茶の割合が高く、紅茶、コーヒーの割合が低くなっており、欧風化の進んだ西日本の中の例外だったが、今も、静岡と並んで緑茶の割合が高い地域として目立っている。これには、そもそも熱帯産植物であった茶の生産が静岡や九州といった暖地でなおさかんなことが影響していると考えられる(図録0465参照)。
- 静岡の緑茶割合は1964年当時は84%と確かに高かったが、山形の87%、松江の75%などと比較して特に高い訳ではなかったのだが、最近の割合60%は、第2位の鹿児島の50%、3位の長崎の48%、またかつて高かった山形、松江の29%と比較しても特段に高く、いわばソウルドリンクになっている点が目立っている。
- 静岡とは対照的に、上記の通り、1964年当時はお茶がソウルフードだった松江については、最近は、そうした側面が目立たなくなっている。東北でも1964年当時は緑茶を飲む習慣、お茶の文化が根づいており、特に山形は緑茶比率が87%と全国1だった。しかし、東北にもコーヒーが普及し、山形でも緑茶は特に目立たなくなっている。
まとめると、食の洋風化にともなってコーヒーを飲む習慣が西日本から全国に広がったことによって、緑茶が中心だった日本の飲み物文化は大きく変容し、また全国的に平準化した。松江のお茶、神戸の紅茶などといった地域色も特異性を失ってきている。その中でも、静岡や九州の茶どころでは、生産とむすびつくかたちで、なお緑茶文化を保ち、ある面、ソウルドリンク化(ソウルフード化)している。
平準化の指標としては、データのばらつきの程度をあらわす変動係数が使われることが多い。肉の地域別消費額の変動係数を調べてみると、次図で見るように、緑茶は余り変化なし、紅茶とコーヒー、特にコーヒーは大きく値を減少させている。