グローバリゼーションの進展は、図録4900に示したような貿易額の対GDP比の上昇とともに、グローバル・バリュー・チェーンの深化、すなわち最終製品に占める海外の中間財のウエイトの拡大としてもあらわれる。ここでは、こうした動きをあらわすグラフとしてOECD各国におけるグローバル・バリュー・チェーン拡大の図を掲げた。

 グローバル・バリュー・チェーンを示す指標として。複数国間産業連関表を基礎に海外付加価値が算出されている。これによると、輸出額に占める海外付加価値シェアは、1995年から2011年にかけて、ほとんどの国で大きく上昇していることが明瞭である(なお、原報告書では、2011年以後欧州債務危機でいったんこのトレンドが後退し、そののち再び同じ方向に進んでいるとされている)(注)

(注)マルク・レヴィンソン「物流の世界史」(ダイヤモンド社、原著2020年)によると第3のグローバル化の時代、すなわち「1980年代後半から始まる時代の特徴は、複雑なバリューチェーンが世界経済を結びつけたことにある」として、この図録の背景としてとらえられる具体的な例を挙げている。「例えば、インドネシアのセランでは無名の台湾企業が1万5000人の労働者を雇い、ドイツ・ブランドでカナダ向けのスニーカーを製造した。アイルランドのウォーターフォードでは、米国企業が所有する工場で、ヨーロッパの有名ブランドの精密医療機器の成型・組み立てが行われた。グアテマラシティの近郊では韓国企業が所有する工場で、5000人の労働者が米国の小売業者のレベルがついた服の縫製を行っていた。対外貿易、対外投資、対外融資、国境を越えた移住は目新しいものではなかったが、製造工程をこれほど多くの国で分け合うことはかってないことだった」(p.203)。こうした長距離バリューチェーンの展開の中でブランド企業は「自社の社員は金融・設計・販売などに集中させるようになった」(同)。
 ただし、レヴィンソンは同書で、OECD報告書とは異なり、2007年後半のサブプライム金融危機以降、第3のグローバリゼーションの不可逆的な後退が起って、長距離バリューチェーンも見直されている点を強調している(図録4900参照)。

 国家形態の広域拠点都市ともいうべきルクセンブルクでは周辺諸国との経済関係の緊密化で最高レベルにグローバル化が進んでいるのは当然であろうが、この他、ハンガリー、チェコ、スロバキアといった中欧諸国でも値の上昇が目立っている。ドイツなど技術先進国から高付加価値製品を中間財として輸入し、安い労働力で組み立てて輸出するというグローバル化対応が拡大していると思われる。

 韓国の海外付加価値シェアの上昇もOECD諸国の中で特に目立っている。これは日本から高付加価値の中間財を仕入れて、世界的に人気の高い最終製品にすばやく仕立てあげ、日本より早く世界市場に投入するという発展戦略を取っているためだと思われる。

 グローバル・バリュー・チェーンの発達の中で、日本製品が特に中間財において不可欠の環となっている様子については図録5380参照。

 一方、海外付加価値シェアが低いことで目立っているのは、日本、米国、ドイツといった従来型のモノづくり大国である。少なくとも1995年の段階では、この3カ国だけがOECD平均よりこの値が低かったのである。国内で大抵のものは製造する力があるのであえて輸入に頼る必要がなかったという側面が強いともいえる。日本は歴史的にアジアで最初に工業が発展したので、長い間貿易で相互依存する相手国が近隣になかった。そのため、いわゆるフルセット型産業構造を有するに至り、得意分野への集中にかえって遅れを取っているとされるが、そんな状況をあらわしているともいえる。

 もっとも、1995年から2011年にかけては、日本、ドイツは海外付加価値シェアをかなり上昇させており、グローバリゼーションに対応してきている。米国だけはその動きがにぶい。米国の場合は、輸出入ともに増えるのではなく、輸出が増えず輸入ばかりが膨らむ貿易赤字拡大傾向が進んでいる影響、すなわち製造業の空洞化の影響によるものとも考えられる(主要国の貿易収支の動きについては図録5040参照)。

 日本は2011年段階でもOECDの中で海外付加価値シェアが最低レベルである点が目立っている。

 これについては、日本の産業が全体としてガラパゴス化していて、世界に通用する魅力ある製品づくりが遅れ、さらに、ドメスティック志向から世界最適調達も進まず、つまりグローバリゼーションに乗り遅れていると解する見方と、日本以外では製造できない高付加価値の中間財を国内で製造することができている状況、つまりモノづくり大国としての実力を維持できているからだとする見方とがありうるだろう。

 私は、後者の側面、すなわち最近流行の「他人(ひと)の褌(ふんどし)で相撲を取る」方式を取らずに済んでいる側面が強いと考えている。図録5700でも見られるように欧米との間で技術貿易の黒字率が上昇している点がその裏づけとなっていると思う。もちろん少しは他人の褌も借りなければやっていけない時代なので指標値は上がっているのであるが...

 図に掲げた29か国を、図の順に掲げると、日本、米国、ドイツ、ギリシャ、ニュージーランド、イタリア、フランス、スイス、英国、アイスランド、スペイン、ノルウェー、オーストリア、韓国、ラトビア、デンマーク、オランダ、フィンランド、カナダ、スウェーデン、ポルトガル、ハンガリー、チェコ、ベルギー、スロバキア、スロベニア、エストニア、アイルランド、ルクセンブルクである。

(2017年12月12日収録、2022年5月17日マルク・レヴィンソン引用)


[ 本図録と関連するコンテンツ ]



関連図録リスト
分野 産業・サービス
テーマ  
情報提供 図書案内
アマゾン検索

 

(ここからの購入による紹介料がサイト支援につながります。是非ご協力下さい)