工業製品とサービス商品の対照的な価格推移について、傘と理髪料を例に図録4700でふれた。ここでは同じ食品でありながら対照的な価格推移を辿っている事例として、うどん・そばと卵を取り上げた。

 1973年のオイルショックより前の時期は鶏卵1個当たり11〜12円、Mサイズの重量は1個/58〜64gなので1個61gで換算すると100g当たり約20円の水準だった。

 1973年と1980年の2回のオイルショック時の飼料価格の上昇で卵の値段も一時期は35円まで上がったが、その後、再度、値段が下がってしまった。今でも卵は100g当たり25〜30円なので、オイルショック前と余り変わっていないといえる。

 一方、生うどん・そばはオイルショックを境に、それまでの100g5円前後の水準から大きく価格を上昇させている。

 こうした変化で以前は卵の方がうどん・そばよりずっと高かったのが、1987年に逆転し、それ以降、うどん・そばの方が高価である状況が続いている。植物を加工しただけの炭水化物主体のうどん・そばより、植物を食べて育つ動物が産むタンパク質たっぷりの卵の方が安いのもヘンな話なのだが、本当なのである。

「江戸時代はかけそばが二八(にはち)の16文、玉子とじは天麩羅そばと同額の32文だった。月見そばは明治34(1901)年の『東京風俗志』中巻に初めて登場する。下谷池之端の蓮玉庵が明治43(1910)年に配ったチラシにはもり・かけ3銭、月見そば10銭とあり、月見にすると3倍以上の値段となっていた。その後、蕎麦粉の値段は他の物価にスライドして正常に上昇したが、物価の優等生といわれている卵の値段は一貫して変わらず、今では月見そばはかけそばとほとんど変わらない値段になってしまった。卵の値段が他の物価から置いてけぼりを喰らった状態なので、卵は物価の優等生ではなく劣等生だと言われている」(森誠「なぜニワトリは毎日卵を産むのか 鳥と人間のうんちく文化学」こぶし書房、2015年、p.26〜27)。

 私がよく昼食に鴨せいろを食べに行く東日本橋2丁目の更科丸屋という蕎麦屋では、2016年4月現在、かけそばが500円、月見そばが700円である。そばとうどんは同じ値段である。鴨せいろは900円、中盛にしてもらって950円。月見そばは注文したことがないが、たまに、かけそばと同じ値段のせいろそば(あるいは700円の大せいろ)を注文し、追加1個50円の生卵をつけて食することもある。

 肉や卵1kg増やすのに必要な飼料の量を飼料要求率と呼ぶが、だいたいのところ、牛は10kg、豚は3kg、鶏(採卵鶏、ブロイラー)は2kg程度である。これに加えて、卵はブロイラーのように肉にしたらそれで終わりでなく、1年以上毎日1個ずつ生れるので、それだけ、飼料価格がそのまま製品価格に反映する。輸入する飼料価格の低価格化が反映しやすいことと飼養羽数の大規模化が卵の低価格安定をもたらしているといえる。

 こうした肉・卵の価格差の理由、および、うどん・そばも卵も1g1円理論からいえば安価な食品である点については図録0219参照。

 なお、2014年以降円安による飼料価格の上昇でやや値上がりしており、優等生返上という評もきかれるようになった。図録0410では、卵の価格推移を魚、肉やチーズと比較したので、こちらも参照されたい。

(2016年4月22日収録、2019年5月12日更新、2023年2月7日更新)


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