貧富の差は、所得水準の差で測ることが多いが、「金持ち」という用語そのままに保有する資産額の格差で測った方がよい場合もある。貧富が所得水準の差の方で論じられることが多いのは、国民の間の分布を把捉することが資産額より容易だからに過ぎない。

　所得水準で測った貧富の差とともに、それが、その国の経済発展度でどのように変化するかを見たデータを図録4650（主要国）や図録4651（すべての国）ですでに示しているが、ここでは、把捉の難しさから対象国数はより少ないが、資産額について同様のデータを掲げた。

　格差、不平等度の測り方としては、上層と下層の平均値の倍率や上位10％のシェアで測る方法と不平等度の厳密な指標として使用されることが多いジニ係数で測る方法とがあるが、ここでは、ジニ係数によるデータを示した。

　資料はOECDの幸福度関連指標の長期推移を分析している報告書の第2弾（2021年刊）である。

　所得水準（経済の発展度）と資産格差の相関は単純な正の相化や負の相関ではない。各国がおおむねそれにそって分布しているグレーの太い曲線は、経済発展に伴って貧富の差が拡大するが、さらに発展すると逆に縮まるという「クズネッツの逆Ｕ字カーブ」が近年はもう一度反転拡大している様子をしている。

　ジニ係数の高い資産格差の大きな国として1位はシンガポールであり、これにスイス、米国、南アフリカ、ブラジルと続いている。このうちシンガポールから米国までは、高所得国として格差が大きい国であり、南アフリカとブラジルは中所得国として格差が大きい国だと考えられる。上で述べた推移仮説に沿っているとすると、南アフリカとブラジルは今後は格差が縮小する可能性がある（もっともこの太い曲線自体が今後上へシフトしたり下にシフトしたりすれば、必ずしも推移仮説通りにはならない）。

　日本の位置は、高所得国に近い中所得国として資産格差は今のところ国際比較上は小さくなっていると考えることができる。もっとも資産格差の長期推移を主要国で比較してみると、日本の格差の小ささは、近代以前の封建時代からの引継ぎの側面もあろう（図録4640参照）。

　なお、ノルウェーがはずれ値として目立っている。石油、天然ガスといった資源の輸出で所得水準は高いものの格差水準は他の北欧諸国並みだからである。

　冒頭図は、2010年（一部2000年）の各国データの相関を図示したものであるが、下図には、データの得られる1820〜2010年のすべての国別年次別の値を3つの時期でプロットした相関図を原報告書から掲げた。

　対象国の構成が、先進国のみから途上国を含む世界各国に構成データが変化している点を考慮に入れる必要があるが、資本主義の初期段階（1820〜1930年）には、経済発展と資産格差には明確な関係がなかったが、第2次大戦後オイルショックまでの時期（1950〜1970年）では、経済発展とともに格差が上昇した後、さらに経済発展が進むと逆に格差が縮小するという「クズネッツの逆Ｕ字カーブ」が認められる。

　さらに、グローバリゼーションが進んだ最近の時期（1980〜2010年）には、経済発展がもっとも進んだ段階では「クズネッツの逆Ｕ字カーブ」がさらに反転して上昇する傾向が認められるようになる。