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成長率(年度ベース) 四半期ベース成長率 | |||||||||||||||||||
ここでは示していないが、2023年(暦年)の名目GDPがドイツに次ぐ世界第4位となった点が報じられた。「内閣府が15日発表した2023年の名目国内総生産(GDP)の速報値は、591兆4820億円だった。ドル換算は4兆2106億ドルとなり、ドイツの4兆4561億ドルを下回って日本は世界4位に転落した。名目GDPの実額でドイツの後じんを拝するのは、1968年に当時の西ドイツを上回って以来55年ぶり。日本は長らく、資本主義国としては米国に続く「世界第2位の経済大国」だったが、90年代以降は低迷が続き、中国の台頭を受けて10年にその座を明け渡した。日本とドイツのGDPは00年代には約2.5倍の開きがあったが、ドイツが欧州の経済統合を経て着実に成長する一方、日本は長期低迷から抜け出せていない。加えて23年は歴史的な円安を記録し、ドル換算の数値が縮小。これがダメ押しになり、半世紀ぶりの逆転となった」(毎日新聞2024.2.15)。 速報値が発表されてからすぐの報道なのであらかじめ準備していたコメントだろう。なお、すでにIMFの23年見通しではドイツと逆転していたので驚きはない。 年度ベース、暦年ベースの実質値は、表示選択で参考資料として見ていただくとして、以下では、標準表示とした四半期ベースの推移について、最近の動き、及び、アベノミクス期以降の動きを過去の小泉政権期からの推移と比較するかたちでコメントすることにする。 コロナ禍の影響 2020年1〜3月期になお消費税引上げの影響でGDPが回復しない中で、新型コロナの感染拡大により大きく経済が落ち込み、同年4〜6月期には502兆円と第2次安倍政権発足時を下回るGDP規模にまで低落した。その後、10〜12月期までにかなり回復したが、なお、2016年のレベルまで戻しただけである。 2021年10〜12月期から徐々に回復傾向となったが、2023年1〜3月段階までは、なお、2017年の水準で推移しており、過去のピークを越えていなかった。しかし、同年4〜6月には、やっと過去のピークを上回った。 コロナ感染症の経済への影響度を見るためには、四半期別の実質GDPの成長率より対前年同期比の方がはっきりする(下図参照)。 感染拡大が最初にはじまった中国では1〜3月期に-6.8%とフランスの-5.7%を上回ってマイナスが最も大きかったが、その後、感染拡大は大きく終息したため4〜6月期以降は、他国がなおマイナスが継続しているのとは対照的にプラスに転じている。 日本の場合は、4〜6月期に-10.3%と1割の落ち込みが7〜9月期にも-5.8%となお6%の落ち込みとなっており、半分も回復していない状況である。海外と比較すると、感染拡大が日本とは比べものにならない位大きいEUと同等の落ち込みが続いている。さらに、世界一の感染者数を出している米国では、同2期に-9.0%、-2.8%と日本より経済の落ち込みが軽くなっている。 日本の10〜12月期の対前年同期比は-1.1%と大きく改善しているが、これは前年同期が消費税の引き上げでGDPが落ち込んだ時期に当たっているからであり、見かけほど改善しているとはいえない。 日本は、感染の程度が軽いにもかかわらず、またコロナ対策でもロックダウンは実施せず、外出自粛に止まっているにもかかわらず、経済のマイナスはむしろ大きいという状況となっている。日本は経済を犠牲にしても感染拡大を防止する方向にあり、その逆を行っている米国とは対照的である。どちらが良かったかは歴史が判定するだろう。 アベノミクス期の経済推移 2013年以降2020年まではアベノミクスの時代である。安倍首相が就任直後に打ち出した三本の矢、すなわち「大胆な金融政策」、「機動的な財政運営」、「民間投資を喚起する成長戦略」にそった経済運営によって、当初、すくなくとも2013年度は、好調な経済成長が実現した。 当初の経済好転を支えたのは以下の4点セットとされる(小峰隆夫「平成の経済」日本経済新聞出版社、2019年)。
しかし、その後も比較的順調に経済は推移し、「戦後最長の景気回復」と言われたが、「実感なき長期景気拡大」という指摘が一般的であった。その理由として挙げられるのは、
実際、次項でふれる通り、経済の拡大率はピーク時までで計算しても小泉政権より安倍政権期の方が高いとは言えないのである。 そして、安倍政権末期には消費税10%引き上げによる景気後退と2020年のコロナ禍で一気に第2次安倍政権発足時の水準にまで経済が落ち込むに至った。「元の木阿弥」感が否めないのである。 アベノミクス期経済に対する評価(2011年暦年基準での実質GDP表示) 第2次安倍政権発足時のGDPは498兆円だったが、その後、ピーク時には539兆円まで伸び、この間の経済の拡大率は8.2%だった。その後、消費税の引き上げと新型コロナのマイナス影響で大きくGDPが落ち込んだが、それまではかなり順調に経済は成長したと言ってもよいだろう。 一方、小泉政権期はどうだったかというと、政権発足時の466兆円が次の第1次安倍内閣に政権を委譲した時点の495兆円に増加し、拡大率は6.2%だった。さらにリーマンショックが襲う前までの経済成長も小泉政権の経済運営の余波と捉えるとピーク時507兆円まで8.7%の拡大率を見せている。 すなわち、アベノミクスによって経済は好調に推移したと見なされているが、小泉政権の経済拡大率をそう大きく上回っているわけではないのである。 第2次安倍政権が発足した時期は、リーマンショックによる経済の低迷、及び、その後の東日本大震災・福島第二原発事故によるもう1つの後退という経済のダブルの落ち込みから十分に経済が回復していたとはみなせない。 そう考えると、政権発足時のGDPレベルはやや過小だったわけであり、その後ピーク時までの8.2%の拡大率も間引いて評価しなければならない。そうであるなら、なおさら、第2次安倍政権の経済パフォーマンスは、それほどのものではなかったという結論になる。 ただし、小泉政権と異なって、第2次安倍政権では、いずれ行わなければならなかった消費税の引き上げを行った。しかも最初5%から8%へ、次に2回の延期の後とはいえ、さらに10%へと2度にわたり行った。引き上げを悲願としていた財務省は首相に足を向けて寝られない状況となり、これが遠因となって森友学園問題が起こったともいえる。 図の実質GDPの推移を見ても消費税引き上げ時の落ち込みがいかに大きいかが実感される。少なくとも短期的には、消費税の引き上げは経済にマイナスの影響を与えざるを得ないので、第2次安倍政権期における実質GDPの拡大率については、やや不利な状況があったことを考慮に入れる必要もあろう。 第2次安倍政権は発足時から日銀の金融緩和を柱とした「アベノミクス」と呼ばれる経済対策によって、1万円ほどだった日経平均株価をピーク時には2万4000円を超える水準に押し上げ、失業率を4.1%(2012年11月)から2.8%(2020年6月)へと大きく改善させ、就職内定率(大卒の2月1日現在)を77.4%(2011年)から92.3%(2020年)へ改善させるなど、経済環境の改善に大きな成果を残した。 しかし、一方で、企業収益の改善は、賃金上昇にむすびつかず、雇用の中身も非正規雇用が増え、実は、下層までの含めた国民生活の豊かさの全般的な拡大には程遠い状況である。また、日銀が費用をまかなう形で経済対策を繰り返したために国全体の借金は積み上がり、年金積立金の株式市場運用なども加えて、経済財政上のリスクは大きく拡大している。 アベノミクスの「光」と「影」を総合すると、実質GDPの推移から見た上の評価とほぼ一致するのではなかろうか。 アベノミクス末期の経済推移 しかし、2019年10月の消費税引き上げ以降の実質GDPの推移は、こうしたあれやこれやの評価を無意味にするほどの激動期に突入している。消費税の10%への引き上げによって2019年10〜12月期に大きく落ち込んだGDPは、2020年1〜3月期にもはかばかしく回復しなかった。そこへ新型コロナの到来である。4〜5月には緊急事態宣言が発令され、経済活動は大きく抑制された。このため、2020年4〜6月期の実質GDPは485兆円へと大きく落ち込み、第2次安倍政権発足時の498兆円を下回ってしまった。「今までの努力はいったい何だったのだろうか」と嘆いてもおかしくない落ち込みである。 この2020年4〜6月期の実質GDPの対前期の落ち込みは年率換算で27.8%だった。欧米の同期の落ち込み(速報)は米国32.9%、ユーロ圏(19カ国)40.3%と伝えられているので、米国よりは5%ポイント程度、ユーロ圏よりは12%ポイントほど落ち込み幅は小さかった。 しかし、感染被害がより甚大であって都市封鎖や地域間の移動禁止(ロックダウン)まで実施した欧米諸国と比べた時、移動や営業の自粛にとどまった日本の落ち込みはもっと小さくてもよかった筈であり、被害の程度の割には、経済への影響は大きかったといえよう。 安倍政権が健康上の理由などでコロナ対策に機動性を欠く結果となったことがこうした大きな落ち込みの一因とも考えられる。これが、経済運営を最重要視してきた安倍首相に辞任を決断させた最大の理由だったと推測される。 (2020年10月26日収録、11月16日更新、12月8日基準改定、2021年2月15日更新、3月9日更新、5月18日更新、6月9日更新、8月16日更新、9月8日更新、11月15日更新、12月8日更新、2022年2月15日更新、3月9日更新、5月18日更新、6月8日更新、8月15日更新、以降1次速報値時に更新、11月15日更新、2023年2月14日更新、5月17日更新、8月15日更新、11月15日更新、2024年2月15日更新、5月16日更新、8月16日更新、11月15日更新)
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