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 テレビ時代の盛衰について末尾に年表付きイメージ図を掲げたが、これをテレビ視聴時間のデータでたどれるのはNHKの国民生活時間調査だけである。同じように国民の生活時間を調べている総務省の社会生活基本調査と比較して、NHK調査はそもそも調査の趣旨がメディア利用の把握にあるためもあって以下の3点で有利だからである。

 第1に継続的にデータをたどれる調査期間が長い。NHK調査は1960年からだが、総務省調査は1976年からである。

 第2に、テレビをラジオ、新聞、雑誌とは別の行動として把握しているのはNHK調査であり、総務省調査はそれらを同一の項目としている。

 第3に総務省調査は基本的に「ながら行動」の時間がたどれないが、食事しながらテレビ視聴というような同時行動の記入を回答者にもとめているNHK調査ではそれが可能である。

 長期的なテレビ視聴時間の推移をたどったデータグラフを図録として掲げたが、これを見ると、ピークが2つある点と近年低下が著しい点が分かる。

 ただし、こうした長期推移の姿は全員平均時間の推移を単純にたどるだけだとはっきりしない。というのはテレビをよく見る退職後の高齢者の割合が急速に増加していてテレビ視聴時間を底上げしているからである。

 そこで、男女・年齢別のデータから1970年の男女・年齢構成のままだったらテレビ視聴時間がどう推移しているかという年齢調整済みの推移をグラフには同時に掲げた(通常とは異なり、年齢構成だけでなく男女構成も同一と仮定)。

 こちらを見ると2つのピークは1975年と2010年ではなく、1975年と1995年であることが分かる。高齢化の要素を除いてみるとテレビの衰退は1995年からはじまっており、2010年以降、それが加速したととらえられるのである。

 こうした長期の推移図が描かれて来なかった理由は、図の注にも記したようにNHK調査には1970年、1995年、2020年に調査方法の変更があり、それを無視して推移を接続するのはデータの扱いとして正しくないとスタティスティシャンが考えているからである。この考えはもっともなことではあるが、長期推移の把握という目的であれば、それは十分許されることを忘れてもいけない。たとえば、1995年の断層は両方の調査法の値が得られるがその差は新方式の方が13分の下方乖離にすぎず、実は大勢の判断を覆すようなものではないのである。

 さらに年齢調整済みの推移を算出、公表してこなかったのは、国民全体のテレビ視聴時間の低下傾向が世間に流布し、国会で承認される予算の縮減につなげたくはないというNHKの組織防衛本能が影響しているかもしれない。

 以下では、過去を回顧した記事を含むNHK放送文化研究所編「日本人の生活時間・2000」(2002年発刊)なども参考にしながら、テレビ時代の70年の盛衰を辿ってみよう。

 テレビ時代は前半の「お茶の間テレビの時代」と後半の「個人テレビの時代」からなり、テレビ視聴時間の2つのピークはそれぞれ前者と後者を代表していると考えられる。

 1953年2月のNHKに続いて、8月に日本テレビがテレビ放送をスタートさせた。当初は駅前や公園などに置かれた街頭テレビ、あるいは喫茶店のテレビ、お金持ちの家のテレビを見るしかなかったが、1959年の皇太子ご成婚パレート、1964年の東京オリンピックのテレビ放映をきっかけにお茶の間にもテレビが入った。内閣府の消費動向調査によると1960年に44.7%(都市世帯)だった白黒テレビの世帯普及率が9割(全国世帯)を越えたのが1965年、カラーテレビの普及率が9割を越えたは1975年である(図録2650参照)。

 テレビ視聴時間の推移を見ると、1960年には10歳以上の国民全体の平均で56分とまだラジオの1時間34分を下回っていた。ところが、5年後の1965年には2時間52分と早くもその後の3時間台に大きく近づいた。

 オイルショック後の1975年に第1のピークに達し、その後、通常の集計では1985年まで、年齢調整済みの集計では1990年まで落ち込んだ。

 こうした最初の「テレビ離れ」現象については次の3点が影響している。
  • @ 国民生活の豊かさが増し、余暇活動がテレビだけでなくスポーツ、旅行、趣味など多様なジャンルに向かうようになった。
  • A 家族団らんで年末の紅白歌合戦や「肝っ玉かあさん」(TBS、68〜72年)のようなホームドラマ、「8時だョ!全員集合」(TBS、69〜71年)のようなバラエティ番組を見る習慣が衰え、「オレたちひょうきん族」(フジ、81〜89年)のようなブラックユーモアをまじえたバラエティ番組、「積木くずし」(TBS、83年)、「金曜日の妻たちへ」(TBS、83年)といった非行や不倫なども扱う番組の個人視聴化へ移行した(2台以上テレビを所有している家庭が1985年には7割)。
  • B 家にいて日中よくテレビを見ていた女性が就労やレジャーで外出することが多くなった。
 Bについては、表示選択で示した男女・年齢別の動きを見れば、この時期、若い女性を中心にテレビ視聴時間が大きく落ち込んだ動きが印象的である。

 こうした落ち込みで「テレビの時代は終わった」という見方もあった中で、1995年にかけてテレビ視聴時間が予想外に大きく回復し、テレビは第2のピークを迎えることとなった。

 この「テレビの復活」の要因としては次の2点が考えられる。
  • @ 世界に向けて公約した労働時間の短縮が実現し自由時間が増した一方で、それがバブル経済の崩壊で、お金のかかるレジャーではなく、24時間化、多チャンネル化したテレビ放送に向かう余地が生じた。
  • A 1990年の東西ドイツ統一、91年湾岸戦争、ソ連崩壊、95年阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件などを臨場感あふれた映像で報じる報道系番組が隆盛期を迎えた。
 折から進み始めた急速な高齢化で下支えされ第2のピークは長く続いているように見えていたが、実際は、上述の通り、1995年をピークに下降局面に入った。そして、2010年以降の本格的なネット時代を迎えて、年齢調整済みの推移ではピーク時の半分以下にテレビ視聴時間が落ち込んでおり、70年を経過して本当に「テレビの時代は終わった」と言える状況となっているのである。

(男女・年齢別の動き)

 ネットの普及との代替が若い世代から進んでいる状況は表示選択の男女・年齢別の動きからも明らかである。なお、年齢別の毎年の動きについては図録3960d参照。

 テレビの低迷状況は、男女・年齢別に跛行性をもっている。すなわち若者のテレビ離れと高齢者のテレビ依存という対比が顕著となっている。

 かねてより、テレビ視聴時間は若者より高齢者の方が長かった。また、男女を比較すると、家庭にいることが多かった女性の方が男性よりテレビをよく見ていた。

 近年は、高齢者より早く若い世代からテレビ視聴時間の短縮化がはじまっているが、それと軌を一にしてインターネット利用時間が伸びており、後者が前者の要因となっていることが図からも見て取れる。また、上でふれた1975年以降の一時落ち込みと同様、最近のテレビ視聴時間の落ち込みも視聴時間の長かった女性の方が全体として男性より大きい点も見逃せない。

 このように、テレビの低迷に関して、高齢者より若い世代、また男性より女性の方が急であることから、年齢差は大きく広がり、男女差は大きく縮まってきている点が最近の傾向である。

 なお、2020年調査(10月実施)の結果については、コロナ禍で外出が減り在宅時間が増加した影響が大きかった点を考慮に入れる必要がある。若者層を中心にインターネット利用時間が急増しているのはその影響によるものである。そして、在宅時間が増えても、テレビ視聴時間の退潮食い止めにはつながらなかった。ところが、男性50代以上、女性60代以上では、テレビ視聴時間の低下は若者層と比較するとそれほど大きくなかった。これには、インターネット利用時間の伸びがまだ小さいことに加えて、在宅時間の増加がテレビ視聴時間の減少を食い止める効果があったためと考えられよう。


(2023年1月28日収録、9月20日男女・年齢別の動きコメント追加)


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