「われもまたかってアルカディアにありき」という有名な言葉があり、ゲーテのイタリア紀行の副題にもなっている。アルカディアはギリシャのペロポネソス半島にある地名であり、古代ギリシャ人にとって失われた都市集住前の生活を連想させる伝説の地であった。東洋の晴耕雨読と同様、田園における牧人生活の理想は、ヨーロッパ人にとっても馴染み深いものなのである。 欧米諸国の晴耕雨読の状態について、日本と都道府県の晴耕雨読の図(図録7325、下に再掲)と同様のグラフを作成した。データは読書やガーデニングを行わなかった人も含めた調査日における一日平均の行動時間である。 欧米諸国の中ではガーデニングがさかんな国は、ブルガリア、スロベニアであり、読書がさかんな国は米国、エストニアである。やや意外であるが米国人は読書好きなのだ。ピュー・リサーチセンターの調査によると米国人の35%は週1回以上聖書を読んでおり(下図)、これが影響している可能性があろう。 しかし、読書とガーデニングがバランスよくさかんな国は見あたらないようだ。日本の位置はというと、欧米諸国と比較し読書もガーデニングもそれほどさかんではないという結果となっている。 対象国の中で読書もガーデニングも余り関心がないことで目立っているのはスペインである。下図と比較すると沖縄はスペインと似ているといえよう。 フランスはガーデニングはそこそこであるが、読書はヨーロッパで最も時間が低い。そうした意味では青森、熊本、大分はフランスと似ているのかも知れない。フランスは文化国なので読書時間も長いはずだという考えはデータで反証されたかたちである。また、英国はガーデニングの国として有名であるが、国民の参加時間からいえば特に目立ってはいない。 ブルガリア、スロベニア、ラトビア、エストニアといった欧州の中でも旧共産圏でガーデニング時間が長いのは食料調達を自家菜園でも行う者が多いためという可能性もある。旧共産圏諸国を除くとドイツのガーデニング時間が一番長いことに注目すべきなのかも知れない。ドイツには都市の周辺部の公共用地をクラインガルテン(小さな庭)という名の市民農園として永続的に貸し出す制度があることで知られている。これはかつては都市住民の重要な食料自給手段として機能した名残りなのである。 読書時間は、米国を除くと、長い方からエストニア、フィンランド、スウェーデンと続いているように、寒い国で長く、逆に、短い方からフランス、スペイン、イタリアと続いているように、暖かい地中海沿岸諸国で短いことが分かる。蔵書数のデータでも同様の結果が得られており(図録3956a、図録3956f参照)、寒いから室内での読書に楽しみを見出すのであり、暖かければ野外で楽しむことを優先するという気風がヨーロッパにはあるのだと考えられよう。日本でも西南暖地の県で読書頻度が少なくなっているのと軌を一にしている。 晴耕雨読の理想は、儒教国としての歴史をもつ日本人の考え方の特徴であり、欧米には読書と耕作をむすびつける考え方はそもそもないのかもしれない。すなわち、どこか知らない場所に晴耕雨読の地があると追い求める自体が間違いというのが結論である。 ここで取り上げている17カ国はベルギー、ブルガリア、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、イタリア、ラトビア、リトアニア、ノルウェー、ポーランド、スロベニア、スペイン、スウェーデン、英国、日本、米国である。 (2017年7月19日収録、7月20日米国人が聖書を読む頻度)
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