OECDは、子どもの国際学力テスト(PISA調査)、及び大人の国際学力テストともいえる成人スキル調査(PIAAC調査)を実施しており、ともに国際的な関心のまととなっている。

 両親の地位で学力・知力に差があれば社会階級の間で流動がなく、階級は固定的であるということになるし、差が小さければ生まれがどんなでも能力獲得に差がないことになる。

 図録3939では、成人スキル調査(PIAAC調査)によって、両親の学歴別の知力差から日本は社会階級の流動性が高いことを示した。それでは子どもの国際学力テスト(PISA調査)ではどうだろうか。社会階級の固定性は、両親の地位の高さで子どもの学力に差が大きく生じているかという点からうかがわれる筈である。社会的な流動性をテーマにしたOECDの報告書に同じ関心でPISA調査の結果が分析されていたので引用した。

 国の並びは数学のテストの成績点数順であり、日本はOECDで最上位なので最初に出てくる(PISA調査の成績順は図録3940参照)。

 ここで着目すべきなのは両親の地位別の学力差である。上4分の1と下4分の1の学力差の大きい方からの順位では、日本の場合はOECD35か国中22位であり、比較的差が小さい。主要国と比較すると、フランス3位、韓国9位、ドイツ14位、米国16位、英国19位、イタリア23位よりも低い。

 成人について日本の場合両親の学歴で知力差に差が小さいことを図録3939で示したが、出発点となる子どもの学力自体、両親の地位別の差が小さくなっており、これが世代交代における階級差の固定化を防止する大きな要因となっていることが分かる。

 階級差の固定が防止されていることが全体としてのレベルの高さを生んでいることも確かであろう。OECD以外やOECDの中でもチリやトルコでは最上位区分の子どもの学力が第3区分よりずっと高いという特徴が見られる。金持ちや上流階級の子だけがいい成績なのである。

 誰でも学校に行けて、両親の貧富によらず能力向上の機会をなるべく多くの児童・生徒に与えることを目標にした学校教育の充実によって国力の増強を図ろうとした明治維新以降の開発戦略は、おおまかにいって、実を結んでいると結論づけざるを得ないであろう。

 対象となっているOECD35か国、OECD以外9か国を図の順に掲げると、日本、韓国、カナダ、スイス、エストニア、ベルギー、デンマーク、フィンランド、スロベニア、ドイツ、オランダ、アイルランド、ノルウェー、ニュージーランド、オーストリア、ポーランド、スウェーデン、フランス、英国、オーストラリア、チェコ、イタリア、アイスランド、ルクセンブルク、イスラエル、スペイン、ポルトガル、ラトビア、ハンガリー、スロバキア、米国、ギリシャ、チリ、トルコ、メキシコ、香港、中国、ロシア、リトアニア、アルゼンチン、コスタリカ、コロンビア、インドネシア、ブラジルである。

(2019年6月27日収録)


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