我が国では大企業と中小企業との給与格差(賃金格差)がしばしば指摘される。この点について主要先進国と比較したデータを図録化した。

 日本、米国は事業所(工場やオフィス)の規模であり、その他は企業の規模なので厳密には比較できない(しかも日本は従業員数の区分も異なる)が、だいたいのところは分かる。

 1000人以上の大企業(大事業所)の賃金を100とすると日本の最小規模とその次の区分の賃金はそれぞれ58、67と6割程度の水準となっており、これは図中の国の中で低い方に属する。日本の他、米国、スペイン、イタリア、オランダでは中小企業の賃金は低くなっている。

 他方、フランス、ドイツ、フィンランドでは中小企業と言ってもそれほど賃金が低いわけではない。

 スウェーデンの場合は最小規模でも102であり、中堅企業は大企業より賃金水準が高くなっている。規模別賃金格差はどの国でも宿命なのではないと考えられる。

 スウェーデンでは中小企業の労働者の比率が4割と低い。これは、労働者の理解と参加の下に、「産業は福祉の糧」「大企業の育成優先」という考え方を取り、低関税政策、連帯賃金制度(企業規模によらず同一職種同一賃金)を導入して企業規模にかかわらず世界に通じる生産性の高い企業が生き残る産業政策をとったためである。生産性の低い中小企業で失業した労働者は福祉など公共セクターで吸収した。この結果、世界最大の重電メーカーABBやボルボ、サーブ、スカニア(以上自動車)、エリクソン(通信)、エレクトロルックス(家電)、スカンスカ(建設)、イケア(家具)、H&M (衣服)といった世界の一流企業を生んだといわれる。高福祉を実現するために大企業に大いに稼いでもらって税金を多く納めてもらおうという政策を取ったわけである(その後の展開も含めて図録3080参照)。

 次図には、比較可能な国を対象に、最小区分の小企業における賃金水準の10年前のデータと比較した。


 日本やドイツでは格差が縮小しているのに対して、米国、イタリア、フランスでは格差が逆に拡大している。国によっては、景気変動やグローバリゼーションによる競合激化が、中小企業に厳しく作用していると見られる。

 この結果、10年前には日本は小企業の賃金が最も低い点が目立っていたが、今では、低いグループの一員に過ぎなくなっている。

(2022年4月13日収録)


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分野 労働
テーマ 格差
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