日本の最低賃金レベルは3点で目立っている。すなわち、 第1にレベルが以前から相対的に低い 第2にレベルが安定的に推移している 第3に上昇傾向にある 1970〜80年代には米国のレベルも今ほど低くなかったので先進国における日本のレベルの低さは今以上に目立っていた。現在では西欧の水準には及ばないが米国の水準は上回っている。 レベルの変動については、激しい変動幅を見せているのはチェコや韓国であり、その時々の政権の姿勢によって大きく左右されているのではないかと想像される。 韓国の文在寅(ムンジェイン)政権は最低賃金を時給1万ウォン(約970円)に引き上げる公約を掲げており、最低賃金は17年の6,470ウォンから19年には8,350ウォンと二年間で約30%上昇した。このため、コンビニでは、日本のように人材不足ではなく、人件費負担の重さから「時短コンビニ」が増えているという。全国コンビニ加盟店協会の金志雲事務局長は「人件費がこんなに一気に上昇するとは予想していなかった。アルバイトよりも収入が低い店主もいる」と言っている(東京新聞2020.1.17)。 米国ではレベルの低下が一定期間継続した後に短期的に一気に上昇するというサイクルを何回も描いているのが特徴であるが、インフレと賃金上昇の中でしばらく最低賃金が据え置かれ、ときどき見直されるという経過を何回もたどったと考えると理解しやすい。そして、こうした経過を繰り返す中で長期的にレベルが下がってきたのである(【コラム】米国の最低賃金事情参照)。 日本の動きは変動幅という側面からは極めて安定しており、傾向としては1990年代以降若干上昇傾向にある点が特徴である。これは自民党の長期政権下では余り最低賃金を大きく変更するという政策が論じられない中、デフレ経済の進行の中で賃金も低下傾向にある中で最低賃金の据え置きが継続してきた結果ではないかと考えられる。2009年の民主党政権の誕生に先だって最低賃金の1000円までの引き上げが課題となったが、民主党政権下でも実際の引き上げはそれほど大きなものではなかった。 レベルは日本よりずっと高いがフランスや英国では米国と異なり最低賃金レベルが比較的安定した上昇傾向にある。これらの国のインフレ傾向を考えるとこれはインフレ率とリンクした引き上げ制度があるからではないかと想像させる動きである。 安倍晋三首相は2015年11月24日の経済財政諮問会議で、現在全国平均798円の最低賃金を来年以降、毎年3%程度ずつ引き上げて、全国平均で1000円を目指すことを表明した。週内にまとめる「1億総活躍社会」実現に向けた緊急対策に盛り込むという(毎日新聞2015年11月24日)。 この流れを継いで、参議院選挙を目前にひかえた2019年6月の経済財政諮問会議が決めた「骨太の方針」では、「より早期に千円になることを目指す」と新たな目標を掲げた。このアップ率を2017年の値に適用した水準を図の中に示した。もちろん目標達成の時には対比されるフルタイム労働賃金の水準も高くなっている筈だから実際は目標達成してもこの水準にはならない。しかし、このアップ率はかなり野心的なものだということだけはうかがわれよう。 図で取り上げているのは、チェコ、フランス、日本、韓国、英国、米国、オランダの7カ国である。 なお、以下の図に各国で異なる最低賃金の決定方法を示した。
(2013年2月27日収録、2014年1月30日更新、コラム「参照すべき平均賃金は平均値か中央値か」追加、2015年1月15日更新、7月20日米国の最低賃金事情コメント追加、8月26日Economist記事紹介追加、11月25日更新、2019年7月5日・6日更新、2020年1月17日韓国事情、2021年6月12日各国最低賃金決定方法マップ)
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