日本型雇用システムは、長期雇用(やや不正確に終身雇用とも呼ばれる)、年功賃金、企業内労働組合が3点セットとして捉えられているが、ここでは、年功賃金について欧米と比較したデータを掲げる。(長期雇用については図録3320参照)

 比較対象としては、英国、ドイツ、フランス、イタリア、スウェーデンの各国が取り上げられている。

 年功賃金については、年齢別賃金カーブの国際比較がかねてより試みられており、ブルーカラーと異なってホワイトカラーでは各国で一般的な年功賃金が日本ではブルーカラーでも成立しているというのが通説である(例えば、小池和男「仕事の経済学」東洋経済新報社、1995、第3版2005年)。

 1995年前後のデータを図で見ると、確かに、ブルーカラー男子の賃金カーブは、欧州各国では20歳代後半から30歳代に横ばいに転じるのに対して、日本では50歳代前半まではかなりの急カーブで上昇しており、ホワイトカラーの賃金カーブと同様のかたちとなっている(ただし、ホワイトカラーの上昇率の方が急であるが)。

 日本型経済・雇用システム論のなかで、この現象は、ブルーカラーの長期雇用に伴う熟練形成(特に企業特殊熟練の形成)によるものであり、このことが大企業の生産システムの革新による生産性向上につながり、日本の高い競争力の源泉になったという点が強調された(小池1995など)。

 近年の論調では、年功賃金のこうした側面に関する議論はむしろ後景に退き、当初合理性を持っていたシステムが暴走し、従業員の貢献度を上回る賃金が中高年で成立するに至っている点が指摘されるようになった。こうした観点から厳しいリストラの中で賃金カーブが以前の7割の水準までフラット化してきている状況は図録3340参照。

 男子労働者から近年比率が高まっている女子労働者に目を転じると、男子の賃金カーブとはまるで異なる世界が成立している点が印象的である。

 ブルーカラーについては、30歳代前半をピークにむしろ賃金は下降している。ホワイトカラーについても、男子ほどの上昇カーブは成立しておらず、欧州のブルーカラーと同様に中年に達すると賃金カーブが横ばい化する傾向が認められる。

 さらに、欧州各国と比較しても、男子とは逆に、日本の女子労働者の賃金カーブは年功性が低いことが認められる。前項で見たとおり、平均継続年数では日本の女子労働者の勤続年数は決して短くないのであるから、勤続年数との対比においても女子の賃金は上昇の程度が低いと言えよう。

 日本の賃金の特徴は、年功賃金という側面とともに、「男女の極端な区別」をあげねばならないであろう。見方によれば、女子の労働形態との補完性において男子の高い年功賃金が成立しているのではないか、ともいえるだろう。その分、男性が大きな顔を出来たわけである。

 なお、ここでは、男女、年齢別の勤続年数と賃金を検討してきたが、大企業と中小企業との比較についても男女の違いほどではないが男女差と同様の点が以前から指摘されている(小池1995など)。

(2005年11月25日収録)


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