死因の区分としては、大きく、病死、事故死(災害による死亡を含む)、意図的な死の3つに分けられるが、取り上げたWHOのデータでは、意図的な死はさらに自殺と他殺(殺人のほか傷害致死を含む)と戦争による死(軍人のほか市民を含む)に分けられている。ここではこのうち人口10万人当たりの自殺と他殺の死亡者数を相関図として示した。 通常の相関図のデータ分布は、楕円形をしていて、右上がりに細長いと正の相関、右下がりに細長いと負の相関と判断できるが、この相関図はそうした通常の相関とは全く異なっている。 一般的には社会的なストレスが高まると意図的な死の比率が高まってくると考えられるが、実際は、自殺と他殺が両方多くなってくるというより、地域によって、自殺へ向かう傾向の国と他殺へ向かう傾向の国に分かれてくるといってよい。 しかも大陸別にその両方向は明確に異なっている。ラテンアメリカとアフリカでは他殺の方向に向かい、ユーラシア大陸などその他の地域では自殺が高まる方向に向かう傾向がある。相関図の下に自殺が多いか他殺が多いかについての地図を参考として掲げたが、これを見るとこうした傾向は驚くほど明確である。 アジア地域(中東を除く)は概して自殺の方が多いが、アフガニスタン、ミャンマー、ラオス、フィリピン、インドネシア、パプアニューギニアといった国は他殺の方が多い点で目立っている。 イスラムの影響の強い中東・北アフリカでは他殺の方が多い(サウジアラビアを除く)。 サハラ以南アフリカでは他殺の方が多い国が多くを占めている。 ラテンアメリカも他殺の方が多いが、キューバとチリ、アルゼンチン、ウルグアイといったヨーロッパの影響の大きな国は自殺の方が多い。ラテンアメリカは自殺率が低いので幸せな国と単純には言えないことがわかる。 国別の特徴としては、ロシア、リトアニア、ウクライナといった旧ソ連地域の自殺率が高い点については図録2770でも見たところであるが、他殺率もそれほど低くない(結果として平均寿命の低さに結びついている点は図録8985参照)。 南米エルサルバドルは他殺による死亡者が10万人当たり80人以上と世界最悪の水準となっている。エルサルバドルに次いでホンジュラス、ベネズエラ、ジャマイカなどラテンアメリカでは非常に他殺率が高い国が多い。 日本の自殺率は高さが目立っているが他殺率については非常に低い国といってよい。上図のWHOデータによれば日本の他殺率は対象183カ国のうち世界第1位の低さである。 (2008年1月14日収録、2016年12月19日ジャマイカの他殺率コメント、2022年1月13日更新)
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