なお、同じことを日本の都道府県別データで示した相関図を図録2773bに示した。 自殺率は死因別死亡率の国際データから得られるが、うつが多いか少ないかのデータは容易には得られない。そこで、WHOが推計している傷病別のDALY値から「うつ病・躁うつ病」についての人口10万人当たりの値を算出し、自殺率との相関を探った。 DALY値については図録2050で詳しく紹介したが、簡単に言うと、病気等が寿命を早めている寿命ロス年数と病気等による健康損失を健康寿命換算した健康ロス年数の合計である。うつ病・躁うつ病自体が死因となることは少ないので、各国の患者数などからWHOが推計している値が中心となっていると考えられる。 ここで掲げた相関図を見れば、一目瞭然であるように、両者にはほとんど相関が見られない。韓国は自殺率が非常に高くなっているが、うつ病・躁うつ病は最も少ない。逆に、ギリシャは自殺率が最小の国の1つであるが、うつ病・躁うつ病は最も多い国である。 見方によっては、右上がりの正の相関と右下がりの負の相関が打ち消しあっているとも考えられるかもしれない。負の相関の側面があるということは、ヒトは耐えられないほどのストレスを感じると、うつ病・躁うつ病に向かうか、自殺に向かうか、どちらかに帰着する側面があるということになる。 男女を比較すると、男性は女性より自殺が多く、女性は男性よりうつ病・躁うつ病が多いということが知られているが、同じことを示しているとも言えよう。 日本は以前と比較して自殺率の水準は低下したが(一時期は25を越えていた:図録2774参照)、それでも対象国38か国中の6位と高い水準にある。ところが、うつ病・躁うつ病の水準は35位と最も低い部類に入る。 すなわち、日本の自殺率が高いのは、文化的な側面など、精神状態の悪化による以外の要因が大きく働いているからと考えた方がよいのである。対策についてもこの点を踏まえる必要がある。つらい状態を取り除くことも重要であるが、つらいからといって自殺を選択しないようにすることもそれ以上に重要であろう。 下には、さらにデータを補強するため、少し年次は古いがISSPという国際意識調査における「うつ状態」割合と自殺率との相関図を図録2143から再掲した。「うつ病・躁うつ病」という具体的な症例ではなく、意識上の「うつ状態」の割合であり、また対象国もOECD諸国とは限らないが、やはり、うつと自殺率とは相関がないことが確認できよう。 2011〜12年というこのデータの時期、日本人の自殺率は今と比べてかなり高く、対象29か国中3位だったが、うつ状態の割合は18位と半分より下であった。うつと自殺の相関だけでなく、日本の位置づけについても、冒頭図と同じ傾向を示していることは明らかであろう。 ここで、図に掲載した国を掲げると、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、カナダ、チリ、コロンビア、コスタリカ、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイスランド、アイルランド、イスラエル、イタリア、日本、韓国、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、メキシコ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スロバキア、スロベニア、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、英国、米国である。 (2023年8月21日収録)
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