世界各国で実施されている避妊法は国や地域により様々である。2013年までに各国で行われた調査結果を取りまとめている国連人口部の資料からこの点を見てみよう。なお各国の調査は有配偶ないしそれに準じた出産年齢の女性に対して現在避妊しているかどうか、またどんな方法で避妊しているかをきいている。避妊している女性の避妊法の比率ではなく、対象女性が各避妊法を実施している比率である点に注意(国連人口部資料による避妊率と出生率との相関については図録1025参照)。

 わが国とアジア諸国等、及び欧米諸国の結果をまず見てみよう。

 日本はコンドームによる避妊が40.7%と非常に多いのが特徴となっている(図録2304参照)。避妊の実施率が54.3%なので避妊の75%はコンドームによっている。またいずれかの伝統的避妊法、中でも抜去法の比率も比較的高い。

 欧米主要国を見ると、フランス、ドイツはピルによる避妊が非常に多くなっており、英国、スウェーデンでも、比率はドイツ、フランスほどではないが、最も多い避妊法となっている。ところが、イタリアでは抜去法を中心に伝統的避妊法が最も多く、米国では女性の不妊手術が最も多くなっており、欧米がすべてピル中心という訳ではない。

 ドイツでは、義務教育で教えていることもあって、避妊方法としてはピルが多い一方で、コンドームが感染症予防具として普及しており、ピルを使用している多くの女性がコンドームを併用しているとドイツ在住の日系女性の方からお便りがあった。上の図の値はコンドーム避妊率であり、必ずしもコンドーム使用率をあらわしているのではない点に注意が必要である。

 英国と米国の特徴は、不妊手術による避妊がかなり普及している点である。英国の場合は男性の約2割、米国の場合は女性の2割以上がこの方式を採用している。日本では「身体髪膚、これを父母に受く、あえて毀傷せざるは孝の始め也」という儒教の教えが普及していたためか、不妊手術による避妊が稀なので英米で不妊手術が普及していることに気づきにくいようである。

 なお、英国では3割近くとピルと同じぐらいコンドームによる避妊が多く、欧米の中では異色となっている。

 スウェーデンのコンドーム避妊率は、英国に次いで高い。スウェーデン在住のY氏によれば、性感染症の予防という理由によりスウェーデンではコンドームが一番奨励されていて、例えば彼の住んでいる県では25歳以下の若者には無料で 配布しているとのこと。2010年、内部告発サイト「ウィキリークス」の創設者、ジュリアン・アサンジ容疑者(39)が問われたスウェーデンにおける性犯罪事件は、合意の上の性交渉の相手(複数)に対してアサンジ容疑者がコンドーム装着を嫌がったことから生じたとされる。男女同権社会の意識が強いスウェーデンでは性犯罪の定義は広く、スウェーデンの「犯罪事情に詳しいジャーナリスト、ワフルベルク氏は「たとえ合意による性交であっても、女性側の意に反して避妊具を使わなければ、性的虐待に問われる可能性がある」と指摘する。」(毎日新聞2011.1.18「アサンジ容疑者:性的虐待か陰謀か 避妊具巡りトラブル」)

 東アジアでは、中国ではIUD(子宮内避妊具)による避妊が4割と非常に多く、女性の不妊手術も約3割の女性が実施している。韓国の場合、これといった支配的方法はなく、多様な方法で避妊を行っているのが特徴である。韓国の不妊手術は英国と同様女性より男性の方が多い。

 そのほかの主要な途上国では、インドは女性の不妊手術が多く、それ以外が少ないこともあって、特に目立っている。インドネシアでは、避妊薬(Injectable)の比率が3割以上と高い点が目立っている。ブラジルでは、女性不妊手術とピルが2大避妊方法である。

 次ぎに、もう少し広く世界をみわたして見よう。

 世界平均では避妊の実施率は63%に達していおり、日本の54%はこれを下回っている。その割に日本人の出生力は低く、やはり性交回数の問題を想定せざるをえないと思われる(図録2318・図録2265参照、避妊実施率と出生率との関連は図録1025参照)。

 世界全体の避妊法としては、女性の不妊手術が最も多く、IUDがこれに次いでいる。ピルは第3位、コンドームが第4位、伝統的避妊法が第5位である。こういう比率で国民が避妊している国が平均像というのではなく、むしろ、各避妊法を中心としている国の構成がこうした比率であるといった方が近いことに留意が必要である。

 女性の不妊手術による避妊が多い国を上から5カ国について見るとドミニカ共和国、プエルトリコ、インド、エルサルバドル、コロンビアとなっている。ブラジル、中国はそれぞれ7位、8位であり、これらの国に次いで多い。各人口大国で多い避妊方法であり、世界の中でこの方法が最も多くなっている理由が頷ける。

 IUDは中国で不妊化手術を上回る避妊法となっているが、この他、ウズベキスタン、北朝鮮、トルクメニスタンといった現在あるいは過去の共産圏諸国で普及率が高いことが分かる。

 ピルは1〜2位がポルトガル、チェコであるが、これにモロッコ、アルジェリア、レユニオンが次いでおり、フランス語圏を中心に普及率が高くなっているのが特徴である。ピルは女性ホルモンである卵胞ホルモンと黄体ホルモンを含むホルモン薬であるが、日本でも、卵胞ホルモンの含有量を減らし、副作用を減らした低用量ピルが1999年に避妊目的で認可された。

 コンドームは、普及している圏域が特定国に片寄っている。香港が世界一であり、ボツワナ、日本が次ぎ、またギリシャ、アルゼンチンといった諸国で高い比率を示している。コンドームによる避妊がピルによる避妊に比べ妊娠中絶率を低める効果がある点については図録2247参照、また性感染症予防にもメリットがある点については図録2304参照。

 男性の不妊手術による避妊は、米国を除くアングロサクソン諸国(英語圏諸国)で多い。1〜5位はカナダ、英国、ニュージーランド、韓国、ブータンとなっており、韓国、ブータンを除くといずれも英語圏の国である。

 コスト的に有利だともいわれる避妊薬による避妊は、インドネシアで3分の1以上が実施している避妊法として目立っている。この他、ブータン、南アフリカ、ミャンマー、ルワンダといった途上国で実施率の高い避妊法となっている。毎日新聞のザンビアからのレポートでは、日本のNGO「ジョイセフ」が育てた保健ボランティアによると、現地では、避妊薬を服用するとがんになるという勘違いをしている女性が多いらしく、啓発が必要とされている(毎日新聞2010年11月17日)。

 日本では、事前に計画的に飲む低用量ピルと違い、事後に飲む避妊薬は承認されていない。ところが、性行為後の避妊には安易な利用を招くなどとする批判がある一方、レイプ被害者への緊急対応や人工妊娠中絶の回避に有用だとして医師らからは国内導入の要望が出ていた。そこで、2010年末の厚生労働省の医薬品第一部会はノルレボ錠という緊急避妊薬の製造販売を承認してよいとの意見をまとめ、正式承認される予定である(東京新聞2010年11月27日)。この緊急避妊薬は、性交から72時間以内に2錠を飲むことで妊娠を約80%阻止できるため、承認により中絶数の抑制が期待されている。ただし、排卵を遅らせる作用があり、服用後に性交すると妊娠の危険が高まるため、日常の避妊法としては使えない(東京新聞2011年2月22日)。

 伝統的避妊法は先進国というより途上国で普及率が高い。生理周期や排卵日を推定して避妊するオギノ式などリズム法が最も普及しているのはポーランドである。この他、ボリビア、マルタ、コンゴ、ペルーといったアフリカやラテンアメリカで採用している人が多いようである。

 抜去法はアルバニアで6割近くと多く、これにマルタ、アゼルバイジャン、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナと続いている。アゼルバイジャンの他、バーレーン(26.3%)、トルコ(26.2%)、イラン(11.4%)といったイスラム国で抜去法による避妊の比率が多い。イスラム教は他の宗教と同様出生を促す傾向があるが、他の宗教と異なり出生抑制を許容する側面もあるといわれる。「イスラームではムハンマドが同行者の抜去法(性交中絶法)を許容したと書かれた有名な言行録(ハディース)があることや古典的神学者ガザーリー(Ghazzali)が抜去法によって財産や妻の健康・美容を保持し、多くの子どもに対する心配を和らげることができると述べたことから、避妊は禁止されていない。」(早瀬保子・大淵寛編著「世界主要国・地域の人口問題 (人口学ライブラリー 8)」原書房、2010年)同行者とは、奴隷や妾のことであり、こうした妻以外では性交中絶が許されていたらしい(バーン&ボニー「売春の社会史―古代オリエントから現代まで 」ちくま学芸文庫、原著1987年)。ギリシャやイタリアも、それぞれ、28.8%、18.2%と抜去法が多いのはイスラムの支配下にあった歴史を有するからであろう。

  このように見てくると避妊法は、世界各国の事情・取り組みによって様々に異なる方法が普及しているといえる。

 避妊法については、各国男女の価値観の違いや歴史的経緯、衛生感覚、科学的知識の普及度、性感染症防止との関連、入手コストなどにより、いずれを採用すべきかについては混乱が生じがちであるように見えるが、結果として、各国の避妊文化とでも呼ぶべきものが成立しているともいえよう。避妊の実施率の高低はともかく、いずれの避妊法を選ぶかについては、遅れているとか進んでるとかを単純に判断できるような性格のものではないようだ。

 これは各国、各文化圏で異なる食の文化と同様であるといえよう。ただし、避妊の文化は食の文化より公然と議論がしにくい分野だけに文化摩擦の原因にもなりやすいと思われる。自分達の方法が最善と考えて他国民に押しつけると他国民の誇りを傷つけることにもなりかねない。途上国援助の分野や移民増大に伴う国内の異文化コミュニケーション(国際結婚の当事者を含め)における慎重な取り扱いが必要である。また、和食が健康面などで世界的に見直される側面があるのと同様(図録0214参照)、コンドーム中心などという日本のやり方がむしろ世界に貢献できる側面があることにも合理的な判断が必要であろう。

(2010年12月20日収録、2011年1月18日スウェーデン事例追加、2月22日緊急避妊薬のコメント追加、2月25日ドイツ情報追加、7月1日イスラム抜去法コメント追加、2015年5月12日更新、インド・インドネシア・ブラジル追加)


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