各国の肥満比率は図録2220でグラフ化し、心臓病の死亡率は図録2120で取り上げたが、さらに、ここでは肥満と心臓病との国ごとの相関をとりあげた。具体的には、肥満比率をX軸、虚血性心疾患死亡率をY軸としてプロットした。 対象国は、OECD諸国のうち、肥満比率の低い方から、日本、韓国、スイス、ノルウェー、イタリア、スウェーデン、フランス、オランダ、デンマーク、オーストリア、ポーランド、ドイツ、フィンランド、スペイン、アイルランド、カナダ、ポルトガル、ギリシャ、スロバキア、チェコ、ハンガリー、ルクセンブルク、アイスランド、オーストラリア、英国、ニュージーランド、メキシコ、米国の18カ国である。 結果としては、肥満、太りすぎの多い国では、心臓病による死亡率が概して高いことが見てとれる。 日本と韓国は肥満比率も心臓病死亡率もともに低いことで目立っている。 スロバキアとハンガリーでは肥満比率はOECD諸国の中で中位にあるが、心臓病で死ぬものは最も多い。 心臓病の要因は肥満だけではない。また死亡率は他の死因との関係も重要である。 OECD諸国の中でも所得の比較的高く医療水準も高い22カ国の中では男女ともフィンランドが虚血性心疾患による死亡率が最も高くなっている。 「フィンランドは肥満率の割に死亡率が高くなっているのが目立ちます。以前行われた国際共同研究においてはフィンランドで心臓病が多い原因の1つとして動物性飽和脂肪の摂取量が多い点が指摘されています。FAOの食料需給表(2007年)によれば脂肪摂取に占める動物性脂肪の割合は22カ国平均の54.1%、またオリーブオイル中心のギリシャの39.5%に対して、フィンランドは70.1%と格段に高く、こうした食生活上の特徴が心臓病死亡率の高さを生んでいる一因と考えられます」(拙著「統計データはおもしろい!」p.18)。 ところが、やはり飽和脂肪酸の食事量が多いにもかかわらず、フランス人の虚血性心疾患死亡率が男女ともに欧米諸国の中で最低となっている点が目立っている。1990年代前半に同様のデータが発表され、「フレンチパラドックス」として知られることになった。赤ワインに多く含まれるレスベラトロールやプロアントシアニジンなどのポリフェノール類が、抗酸化作用や抗炎症作用をもち、それが動脈硬化を防止する効果をもつことが実験で明らかとなり、フレンチパラドックスの理由としては、フランス人が、こうした赤ワインを脂質の多い食事とともにとっているからという説が信じられるようになった(斉藤和季「植物はなぜ薬を作るのか」文春新書、2017年、p.74〜75)。我が国のワイン・ブームがこうした説により加速されたことは記憶に新しい。 さらに、医療技術による救命手段の発達の要素も見逃せない。例えば、米国では肥満比率は上昇しているものの心臓病治療の発達により、1980年から2000年にかけて心疾患死亡率は25%も低下してきている(図録2100参照)。また肥満度は逆に米国の場合高まってきている(図録8800)。この結果、米国は肥満者が多い割に心臓病の少ない国となっている。 (2004年8月9日収録、8月10日コメント改訂、2010年1月19日更新、5月24日グラフ改善、2017年7月6日「統計データはおもしろい!」、「植物はなぜ薬を作るのか」引用)
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