かつては金持ちの方が太っていたが、今は貧乏人の方が太っているといわれる。厚生労働省が毎年行っている国民健康・栄養調査の2010年報告書では、所得3区分別の体型・生活習慣の状況を集計分析している。これによると確かに女性については、600万円以上の高所得層では肥満者が13.2%と少ないのに対して、200万円未満の低所得層では25.6%と2倍近くになっている。男性の場合は肥満の割合は全体的に女性より高い(図録2200参照)が、不思議なことに所得水準による差がほとんど認められない。

 こうした所得水準別のデータで気をつけねばならないのは、一般に年齢が高いと所得も高くなる傾向があるので所得水準別の結果が、単に年齢差を示しているだけの場合があることである。ここでは、年齢調整が行われている(同じ年齢構成だとしたらの数値に転換されている)ので、年齢差の要因は取り除かれているとみてよいだろう。単純に集計するなら高所得者の方が年齢層が高いので肥満比率も高くなると考えられるが、そうなっていないのは年齢調整がきいているからであろう。なお、世帯員数が多ければ同じ世帯所得でも所得水準に違いがあると見られるのでこの要因も調整してあるようだ。

  肥満度と平行して生活習慣についても所得水準別の状況が示されている。

 食生活については、朝食を食べない者が男女ともに低所得者で多い傾向がある。また野菜摂取量も低所得者の方が少ない。

 食品摂取量については、国民健康・栄養調査の翌年2011年報告書にデータが拡充されているので右に示した。野菜だけでなく果物、魚介類、肉類などいずれにおいても高所得者の方が摂取量が多い。また、男女別では、魚と肉(いわゆる肉食)では、全体に女より男の摂取量が多い(詳細は図録0224参照)。

 運動と睡眠については、運動習慣はやや低所得者の方が少ない傾向があるが、男女ともそれほど大きな差はないようだ。睡眠の質が悪い(安眠できない)者は全般に女性の方が多い。男女を比べると、男性は所得水準であまり違いがないが、女性は所得水準の高い層では安眠できない者が大きく減る傾向にある。

 たばこと飲酒については、男女の差が所得水準に関わらず大きい点が目立っている。喫煙率については男女とも低所得者の方が高く、高所得者の方が低い。飲酒については、逆に、高所得者の方が低所得者より習慣化している程度が大きい。女性の場合は飲酒習慣の所得水準による違いはあまりない。

 所得水準による肥満度の差が女性には認められるが男性には認められないことを冒頭で見たが、その理由を探るため、生活習慣・食生活上、所得水準によるちがいで男女の傾向が異なるもの(所得水準傾斜度が異なるもの)をピックアップしてみると、「睡眠の質」、「飲酒」があげられる。この2つは所得水準差が男女で平行的に変化していない事項なのである。すなわち、男性の場合は金持ちでも多忙のせいか人間関係のせいで、ゆっくり眠れないことも多く、また暴飲暴食の傾向もあるので金持ちの方が太らずにいることはできないのに対して、女性の場合は、金持ちの方が安眠できていて、不健康な飲食習慣にも陥らずに済む傾向にあるので、太らずにいることができるのであろう。本当の金持ちは女性の金持ちだけだともいえる。

 所得水準との相関では、米国についても、女性について低所得層ほど肥満度が高いという関係が成り立っている点については図録8802参照。

(2012年2月1日収録、2013年7月16日米国参照、7月19日所得水準別食品摂取量のデータを追加、2014年6月5日所得水準別食品摂取量は別図録化にともない掲載方法変更)


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