日本人の背の高さランキング

 日本人が欧米人に比べ背が低いことは、経済成長に伴い栄養が改善されてかつてよりはずっと背が高くなった今でも、テレビで見る外国人、国内にいる外国人との比較で感じていることである。

 ここでは世界各国の男女の身長についての統計データをグラフ化した。データの出所はNCD-RisCサイト(注)である。19歳データなので成人平均はもう少し低い。

(注)NCD-RisC(NCD Risk Factor Collaboration)は、肥満、喫煙など感染症以外の健康リスク(NCDs: Non-Communicable Diseases)についてのデータを提供するための世界的な科学者ネットワークである。

 日本と世界の平均身長の19世紀以降からの長期推移については図録2195参照。日本とアジア諸国との身長比較、及び栄養改善による若年層と高年層の身長差は図録2190参照。また、寒い地方の国民の身長の方が高いというベルクマンの法則をわが国の都道府県でも成り立っているかを図録2197で検証した。

旧版のリンク、及び対照国の違い
・図録2188x(2009年収録旧版):OECD
・図録2188y(2013年更新旧版):OECD+アジア・太平洋
・当図録(2024年更新新版):世界各国


 男女はほぼ平行したパターンなので、男性についてみてみよう。

 日本人男性の身長は172.1pであり、最も背の高いオランダ人男性183.8pより11.7p低くなっている。背の高い方では、オランダの他、デンマーク、チェコ、ウクライナでは男性の身長が181pを越えている。他のヨーロッパ諸国や旧英領植民地のオーストラリア、カナダ、米国といった国のほか、トンガなどオセアニア諸島もほぼ175p以上と日本人より背が高い。

 旧版では日本と中国や韓国といった東アジア諸国は、日本より背が低かったが、今回の更新では日本を追い抜いている。経済発展の成果が身長にもあらわれたと言ってよかろう。

 一方、日本人より身長が低いのは、ヨーロッパにはなく、アジアやアフリカの諸国である。中東のうちサウジアラビア、中南米の一部も日本より背が低い。

 日本より遅れて経済成長した途上国が栄養状態の改善などによって身長が伸びたため、現時点では日本人の身長は世界の中でも高い方とは言えなくなっている。

民族・人種ごとの身体的特徴

 男女の身長の相関図を描いてみると、身長だけの単純なグラフであるが、男女の身体的特徴が民族・人種毎にグループ化されることが明瞭である。19歳のデータなので成人平均では成熟の遅い男性と女性の差がもう少し大きくなり、民族・人種差も出てくると思われる(この点は旧版で確認されたい)。

 身長の高い方から、以下の7つにグループ化される。

 @北欧・中欧・東欧
 Aアングロサクソン
 Bオセアニア諸島
 C南欧
 D東アジア
 E中東・アフリカ・中南米
 F東南アジア・南アジア

 各グループの中で例外的に背が低い国としては、@北欧・中欧・東欧のうちのロシア、Aアングロサクソンのうちの米国、D東アジアのうちの日本が目立っている。


 欧米のスポーツ選手など有名人の背の高さに驚かされることが多い。上のようにテニスのマリア・シャラポワ(ロシア)の身長は6フィート2インチ、すなわち約188cmもある。欧州の中でロシア人の背の高さはやや低いというデータとなっているが、シャラポワのような背の高さもあることに気づかされる。なお、隣のシモーネ・バイルズは対照的に142cnと米国女子平均以下であり、シャラポアの例と並んで身長の個人差、人種差が大きいことが分かる。

 冒頭の世界分布図や男女相関図を見て最初に気がつくのは北方地域ほど背が高いという一般傾向がある点である。放熱を促進した方がよいか抑制した方がよいかという要因から、暑い地域ではからだが小さくなり、寒い地域ではからだが大きくなるという恒温動物共通の法則、すなわちベルクマンの法則が働いているためである(末尾【コラム】参照)。

 アングロサクソンの中で米国はやや背が低い方にバイアスがかかっているが、これは、ヒスパニック系白人の比率がかなり高いためと考えられる。しかし、それだけが要因ではないとみなされている点については後述の通りである。

 トンガなど太平洋諸島人はオーストロネシア語族(マレー・ポリネシア語族)に属しており、アジア人の一派と見てよいが、ベルクマンの法則の反して、ハワイ出身の相撲力士と同様に西洋人並みに背が高い。これには、広い太平洋を航海しているうちに環境に適応して新たに獲得した進化だと見なされている(図録2190参照)。

 東アジア・グループについては一時期は日本が最も背が高く、北朝鮮が最も背が低かった。これは遺伝的な要因と云うより経済発展度の違いととらえることができる。日本人も途上国から先進国へと成長した戦後50年間に10p以上背が伸びたのである(図録2182参照)。

 最も背が低い諸国は、ベルクマンの法則に則した遺伝的な要因と経済発展が遅れているという要因とが両方働いている結果と考えられる。ラテンアメリカのメキシコはラテン系白人にインディオが混血しており、身長は南欧諸国よりさらに低い。もっともメキシコの場合なお途上国のため栄養水準の制約による側面もあろう。

身長に対する経済発展の影響

 図では各国の身長の時系列変化は分からないが、OECDの2009年の報告書は、OECD諸国平均では身長は伸びつつあるとしている。「45〜49歳と20〜24歳とを比較するとこの25年間に男では3p、女では2p背が高くなったことがうかがえる。こうした成人の身長の伸びは子どもの時期の全国的な栄養改善を示している。中でも目立った実績をあげているのは韓国であり、青年男子は父親世代より6p背が高く、若い女性は母親世代より4p背が高い。逆に米国は貧弱な実績となっている。米国では1世代経っても背が伸びていない(Komlos,2008)。近年の相対的に背が低い人々の移民流入ではこうした身長の伸びの停滞を説明できない」。

 日本と、韓国、北朝鮮の背の高さと経済発展との関係については旧版の図録2188y参照。

 世界各地域(大陸別)の平均身長の長期推移を日本の長期推移と比較した図録2195に、身長に対する経済発展の影響は明確にあらわれているので参照されたい。欧米人もそう昔から背が高かった訳ではなく、以前は中国人より背が低かったのである。

【コラム】ベルクマンの法則

 恒温動物(定温動物)は放熱と産熱を組み合わせることによってからだの温度を一定に保っている。寒冷地域であればあるほど放熱を抑える必要がそれだけ大きくなる。放熱量は体表面積にほぼ比例するので、体重当たりの体表面積の小さい動物、すなわちからだの大きい動物ほど有利となる。このため寒冷地に住む恒温動物はからだが大きくなることをベルクマンの法則という。同様の理由で寒冷地では耳、吻、尾、四肢などの突出部が小さくなることをアレンの法則という。

 こうした身体的な特徴は動物の温度適応の1つであるが、コウモリ、クマなどにみられる冬眠や鳥の渡りも低温に対する温度適応である。

 ベルクマンの法則の事例としてよく引かれるのは、クマの大きさである。すなわち、熱帯に分布するマレーグマ、日本からアジアの暖温帯に分布するツキノワグマ、温帯から寒帯に生息するヒグマ、北極近辺に住むホッキョクグマと生息場所が暖かい地域から寒い地域へ移るにつれてだんだんとクマのからだは大きくなる。

 取り上げた国全50か国の内訳は、図の順番に、オランダ、デンマーク、チェコ、スウェーデン、ノルウェー、ドイツ、フィンランド、ポーランド、ウクライナ、ベルギー、スイス、ギリシャ、アイルランド、英国、フランス、スペイン、ロシア、イタリア、ポルトガル、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、米国、イスラエル、トルコ、イラン、パレスチナ、アラブ首長国連邦、サウジアラビア、ケニア、ナイジェリア、南アフリカ、エチオピア、ブラジル、アルゼンチン、キューバ、メキシコ、トンガ、韓国、中国、日本、モンゴル、マレーシア、インド、インドネシア、カンボジア、フィリピン、バングラデシュ、パプアニューギニア、東ティモールである。

(2009年5月11日収録、5月18日コメント追加、2010年8月19日米国の黒人要因記述削除、2011年1月20日脱北者の身長、2013年8月2日アジア太平洋諸国を含めた新版にバージョンアップ、旧版は図録2188xとして保存、2023年11月23日データの原資料をOECDからWorldData.infoに変更して更新、旧版は図録2188yとして保存、12月1日世界分布図、12月9日2019年19歳データであることを明示、2024年2月16日WorldData.infoサイト孫引きをやめ直接NCD-RisCサイトから、2月17日ネパールをパプアニューギニアに代える、コラムを図録2190から複写、3月2日シャラポア指針)


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