国別の平均身長を調べると北の国ほど身長が高くなる傾向がある(図録2188)。これは、アライグマに対するシロクマのように寒い地域ほど身体が大きくなるという生物学的傾向(ベルクマンの法則)が人間にも当てはまっているからだとされる(図録2190コラムにこの法則の解説がある)。

 日本国内においても暖かい地域よりも寒い地域の方が身体が大きいのであろうか。この点について、鈴木隆雄(1996)「日本人のからだ―健康・身体データ集」には、都道府県別の17歳女子学童の体重と各県庁所在地の年平均気温との間に高い負の相関(r = -0.70)が存在しているという研究結果(1993年)が紹介されていた(p.22)。そこで、当図録でもこの点の検証を試みた。ここで、都道府県別の17歳学童のデータが使用されているのは、都道府県ごとに各年齢で何百件というオーダーでデータが得られるのは、文部科学省が毎年行っている学校保健統計にみだからであり、また、小学校1年生から高校3年生のうち最も年齢の高い高校3年生の17歳データが選ばれているのは、ほぼ成長が進みきっていて、都道府県別の成長期のずれなどの別の要因による変異が小さいと見られるからである。当図録でも、同じように、学校保健統計の17歳データを使用した。

 まず、身体の大きさをあらわす指標として、身長、体重、BMIのうち、どれと気候の相関が強いかを検証して見た。1990年(前後3カ年の平均、以下同様)については、男子の場合、体重>身長>BMI、女子の場合、体重>BMI>身長の順に相関が強く、2013年については、男女ともに、体重>身長>BMIの順であった。

 ベルクマンの法則は、体重当たりの体表面積を寒冷地では小さくすることが省エネになるという理論だから、身長より体重、体重よりBMIの方が当て嵌まりがよいように思われるが、実際は、体重との相関が最も強い。BMIの大小、すなわち肥満傾向かやせ傾向かという点はむしろ省エネ効率に反するのかも知れない。

 2つめの図には、男女の体重との相関係数の年次推移を掲げた。女子の体重と年平均気温との相関係数は1990年には、-0.845と非常に高かったが、2013年には、-0.628と低下している。男子の場合は、上下の波動は見られるが、上昇傾向か低下傾向かの判別はつかないのに対して、女子の場合は、どうやら低下傾向が見られるといってよいであろう。女子の場合は、以前は生物学的な法則に沿った身体だったのが、近年は、身体のつくりにおいて、肥満やスタイル志向など人為的・文明的な要因による側面が強まっている可能性があろう。

 下には、実際の平均体重と平均気温の相関図を掲げた。身体の大きさを体重で見て、暖かい沖縄では身体が小さく、逆に、寒い東北の青森、岩手では身体が大きくなっているという傾向が見て取れる。なお、都道府県別だけでなく地方ブロック別の相関図も掲げておいた。都道府県別のばらつきが整理されて、気温と身体の大きさの相関がより明確に認められよう。なお、都道府県と地方ブロックのいずれにおいても北海道は平均気温が低い割に身体が大きくないのが目立っている。これは、北海道人の多くが明治維新以降に北海道より暖かい本州から入植した者の子孫だからだろう。




(2015年7月13日収録)


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