うつ病(鬱病)や躁うつ病(躁鬱病)にかかる人が増えていると言われる。ここでは、厚生労働省によって3年ごとの10月に全国の医療施設に対して行われている「患者調査」の結果から「気分障害」(うつ病、躁うつ病、気分変調症等)の総患者数の推移を掲げた。医療機関に看てもらわない患者は数字に出てこない。他の傷病の患者数との比較は図録2105参照。

 1996年には43.3万人であった総患者(調査日には通院しなかったが前後に通院している者を含む)は1999年には44.1万人とほぼ横ばいであったが、その後、2002年には71.1万人、2005年には92.4万人、2008年には104.1万人と9年間で2.4倍に増加しているのが目立っている。(この間、うつ病治療に使われる精神安定薬や睡眠薬の国民使用率も上昇している。図録1980参照)

 2011年には2008年から8万3千人減少して、95万8千人と100万人を切った。2011年調査では東日本大震災の影響で宮城県の一部と福島県の数字が含まれていないがこの未調査地域の2008年推定値(2.1万人=宮城県1.6万人×対象地域割合13.5%+福島県1.9万人)を考慮に入れても減少には変わりがない。ところが、2014年、2017年には、111.6万人、127.6万人と増勢を続け、過去最多を更新している。2011年の一時的な減少は、やはり、東日本大震災や福島第一原発事故の影響だった可能性が高かろう。

 2020年はコロナのパンデミックがはじまった年であり、外出を避ける行動パターンが広が胃、医療機関の受診控えが問題となった。うつ病・躁うつ病の総患者数は172.1万人と2017年と比較して大きく増加したが、これは、総患者数の推計に使用する平均診療間隔の設定が変更されたからであり(末尾「総患者数とは」参照)、実際に調査機関に受診した推計患者数の推移から算出した旧定義の総患者数はほとんど横ばいだった。潜在患者は増加していたと思われるが、医療機関に見てもらった患者数は横ばいだったのである。

 うつ病・躁うつ病患者の数でストレス社会の程度が測れるとしたら、21世紀に入って別次元のレベルに深化したストレス社会はなおそのまま推移していると言わざるを得ない。

 なお、男女別ではうつ病・躁うつ病の場合は男性より女性の方が1.58倍多い。年齢別には、いずれの年齢層でも女が男を上回っている。男は50歳代が最も多く、40歳代がこれに続いている。女は40歳代が最も多いが50歳代〜70歳代もけっこう多い。女性の場合は中高年にうつ病・躁うつ病の患者が多い点が男性と異なる点である。女性患者の方が多いのは、もともと「うつ状態」そのものについて女性の方が男性より陥りやすいことに起因している(図録2142、図録2143参照)。また、いらいらを感じているのも各年齢層で男性より女性の方が多い点については図録2925参照。


 総患者数を人口で除して患者率を計算してみると上図の通りである。男女ともに50歳代が患者率のピークとなっている。また各年齢で女性の患者率が男性の患者率を上回っているのが分かる。女性の場合は高齢層でも余り患者率が下がらない。

 国民生活基礎調査によるこころの病気罹患者の男女年齢別通院率は図録2157参照。こちらを見ると通院率のピーク年齢は男性の場合40歳代前半、女性の場合30歳代後半となっている。

 総患者数が増加した1999年から2008年にかけての男女・年齢別の増加数を見てみると、男女とも30歳代の増加が最も多く、40歳代の増加がこれについでいる。

 2007年6月29日のNHKスペシャルは「30代の“うつ”〜会社で何が起きているのか〜」を特集した。NHKのHPでの解説は以下であった。

「若い働き盛りの世代に”うつ”が増えている。上場企業200社のうち6割が、この3年間で「心の病」が増加したと回答。年齢別に見ると、心の病は「30代」に集中している。長期休業につながるケースも多く、企業の現場はその対応に追われている。なぜ働き盛りの社員たちは”うつ”へと追い込まれるのか。

 NHKには働き盛りで”うつ”になった人たちから数多くのメールが寄せられている。メールや取材から浮かび上がってきたのは、合理化・効率化が進む中、現場ではしわ寄せが30代にのしかかっている現実。成果主義や裁量労働制といった新しい働き方が広がる中で、多くの職場で働き手が「孤立」している姿。さらに、仕事だけでなく家庭の負担も重くのしかかる。家のローンを抱え、子育てに追われる中で、家庭もまた休息できる場所でなくなっている。」

 読売新聞は上で掲げたデータを報じ、うつ病患者の急増について軽症者の受診増を指摘している(2009.12.4)。「10年足らずで2.4倍に急増していることについて、杏林大保健学部の田島治教授(精神科医)は、「うつ病の啓発が進み、軽症者の受診増も一因」と指摘する。うつ病患者の増加は、新しいタイプの抗うつ薬が国内でも相次いで発売された時期と重なる。パナソニック健康保険組合予防医療部の冨高辰一郎部長(精神科医)は、「軽症のうつは自然に治るものも多い。しかし日本ではうつを早く発見し、薬を飲めば治るという流れが続いており、本来必要がない人までが、薬物治療を受けている面があるのではないか」と話す 」(この点に関しては、メンタルヘルスの国際比較を行った図録2140の補論でもコメントをしたので参照されたい)。

 一方、重症度別の受診率の国際比較では、心の病気に関しては日本の場合は病院に行かない割合が高い点が明らかになっており(図録2140参照)、必要な人が病院に行かない面も同時に考慮に入れることが大切であろう。

 2008年から2017年にかけては、男女とも30歳代はむしろ減少し、男は50歳代、女は40歳代の増加が最も多くなっている。2014年、17年の患者率は40歳代がピークだったが、2020年には50歳代がピークとなった。患者の高年齢化が進んだいるとも見られる。

 都道府県別の患者数分布については図録2155参照。

 いずれの国でもメンタルヘルス障害については男より女の方が罹患率が高いことを図録2140で指摘したがここではそこで掲げた図を再掲しておく。


 参考のために気分障害に属する基本分類ごとの総患者数を掲げると以下である。総患者数の定義についても概要をその後に掲げておいた。2011年までと2014年以降で最も違うのは双極性障害、すなわち躁うつ病が2倍近くに増えている点である。病態は深刻化しているとも見える。

「気分[感情]障害(躁うつ病を含む)」(ICD-10:F30-F39)の傷病基本分類別総患者数(単位:千人)
  2008.10 2011.10 2014.10 2017.10 2020.10
F300  軽躁病 0 0 0 1 0
F301  精神病症状を伴わない躁病 - - 0 - 0
F302  精神病症状を伴う躁病 - - 0 0 0
F308  その他の躁病エピソード 1 0 0 0 0
F309  躁病エピソード,詳細不明 4 3 2 2 3
F310  双極性感情障害,現在軽躁病エピソード - - 0 1 0
F311  双極性感情障害,現在精神病症状を伴わない躁病エピソード 0 0 0 0 0
F312  双極性感情障害,現在精神病症状を伴う躁病エピソード - - 0 0 0
F313  双極性感情障害,現在軽症又は中等症のうつ病エピソード - 0 2 2 4
F314  双極性感情障害,現在精神病症状を伴わない重症うつ病エピソード - - 0 0 0
F315  双極性感情障害,現在精神病症状を伴う重症うつ病エピソード - - 0 0 0
F316  双極性感情障害,現在混合性エピソード - - 1 0 0
F317  双極性感情障害,現在寛解中のもの 0 - 2 - 0
F318  その他の双極性感情障害 1 2 3 4 14
F319  双極性感情障害,詳細不明 116 118 214 215 325
F320  軽症うつ病エピソード 2 2 8 5 6
F321  中等症うつ病エピソード 2 7 12 5 17
F322  精神病症状を伴わない重症うつ病エピソード 0 1 0 1 2
F323  精神病症状を伴う重症うつ病エピソード - - 0 1 2
F328  その他のうつ病エピソード 7 11 12 3 1
F329  うつ病エピソード,詳細不明 689 683 668 929 1215
F330  反復性うつ病性障害,現在軽症エピソード - - 0 1 0
F331  反復性うつ病性障害,現在中等症エピソード - - 1 2 1
F332  反復性うつ病性障害,現在精神病症状を伴わない重症エピソード 0 1 0 0 3
F333  反復性うつ病性障害,現在精神病症状を伴う重症エピソード - - 0 0 0
F334  反復性うつ病性障害,現在寛解中のもの - - - 0 0
F338  その他の反復性うつ病性障害 - - - 0 -
F339  反復性うつ病性障害,詳細不明 4 3 27 10 28
F340  気分循環症<Cyclothymia> 0 0 0 0 2
F341  気分変調症<Dysthymia> 146 89 141 59 77
F348  その他の持続性気分[感情]障害 - - - - -
F349  持続性気分[感情]障害,詳細不明 2 3 4 11 7
F380  その他の単発性気分[感情]障害 - - - 0 -
F381  その他の反復性気分[感情]障害 - - 0 0 0
F388  その他の明示された気分[感情]障害 52 34 - - -
F39   詳細不明の気分[感情]障害 15 3 20 24 16
(注)総患者数は以下参照。ICD−10の用語の説明:エピソード(症状が発現している状態のこと)/精神病症状(妄想や幻覚をともなうこと)
(資料)厚生労働省「患者調査」


(2007年7月12日収録、7月17日男女年齢別増加数とそのコメント追加、2009年12月4日・7日更新、2012年6月5日男女別メンタルヘルス障害の図を掲載、2012年11月28・29日更新、2015年12月17日更新、12月18日増加数表改訂、2016年1月4日患者率グラフ追加、2019年3月3日更新、2022年7月17日更新)


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