【クリックで図表選択】

 
人口当たりの感染者数・感染死亡者数の推移図(札幌医科大が3月24日から同じWHOデータの人口当たり推移図を公開しているサイト)

対象国以外を含め最新及び過去の各国データは資料出所であるWHOの状況報告のページあるいはWHO COVID-19 Dashboardをご覧ください。


 表示選択で見れる「感染死亡率の推移のグラフ」のメインを過去2週間の死亡率(母数である感染者数はさらに2週間遡った2週間の値)とした。累積の死亡率も2番目のグラフとして残した。

 これを見ると全体的に死亡率が低下傾向にあること(医療対応の改善、ウイルスの弱毒化)、および、感染爆発の当初時期に中国(その他に含まれる)→欧米・インド→ラテンアメリカの順で並行シフトしながらパニックによる死亡急増が落ち着いていった様子が明らかである。

 さらに感染者数の図には主要地域、欧州各国に加えて、米国の地域別の感染者数推移を人口10万人以上の値で示した。これを見ると以下のような点が目立っている。
  • 全体として感染者数のレベルは欧州を上回っている
  • 北東部だけが欧州と同じ2波構造となっているのに対して、他の地域は3波構造である
  • 主要急増地域が第1波は北東部、第2波は南部、第3波は当初中西部、その後西部へとだんだんと移り変わっている

 米国の地域別の波の生成には換気が大きく影響しているという説がある。「フロリダ、アリゾナは暑い。冷房で室内を閉め切るからか夏に感染の山があった。逆に冷涼なニューヨークやマサチューセッツでは夏に感染の山がなかった。職場の窓開けは大切だ」。これは磯田道史書評、浦島充佳著「新型コロナ データで迫るその姿」(毎日新聞2021.4.10)による。日本の北海道や福岡の山についても同様のことが言えるようだ(図録7888)。

(過去のコメント)

 中国からはじまった新型コロナウイルスへの感染が広がり、全世界的なパンデミックの様相があらわとなっている。

 世界全体の感染状況については図録1951で示しているが、ここでは、表示選択で、感染者の多い主要国・地域について過去1週間の感染者数、感染死亡者数の推移を掲げた。欧州主要国については人口当たりの推移を示した。また、感染者の多い主要国について、過去の累積数の推移を対数グラフで掲げ、さらに累積数における感染死亡率の推移を掲げた。

 データは図録1951と同じく、各国政府の公式報告を受けて取りまとめているWHOの状況報告によっている。各国の自治体・報道発表などからやや遅れた数字となるため、新聞・テレビでは、こちらより多いジョンホプキンズ大学がまとめているデータなどが報道されているが、時系列的な変化を追うには、より確定性が高いと考えられる。

 10月になって欧州では春先の第1波に続き、1日当たりの感染者数が過去最高を記録するなど感染者数拡大の第2波が猛威を振るうようになったため、11月にかけて各国で下図のように再度の都市封鎖(ロックダウン)を実施した。12月に入ってその効果があらわれたのか、第2波のピークを過ぎたので、コロナ疲れや経済低迷打破のためクリスマスシーズンを前に一部緩和する動きが見られる。


(各国における感染拡大の波の状況の比較)

 冬が近づき、日米は第3波が襲来しているのに対して、ヨーロッパ各国は第2波として感染が急拡大している。途上国では第1波のみで推移している地域も多い。こうした世界の波動の状況を比較した記事をプレジデントオンラインに掲載した(2020.12.15)。

 ここでは、この記事の一部を使い、さらに補足情報を加えたコメントを掲げる。

 新型コロナウイルスの感染拡大は世界的な現象であり、感染拡大の状況がもっぱらこのウイルスがもつ特性によっているのだとしたら、世界各国は同じ波動を描くはずである。はたしてどうなのだろうか。

 図録には、WHO(世界保健機関)の公表データにもとづき、世界の主要な国と地域の過去1週間の感染者数を日ごとに追ったグラフを掲げている。日本と韓国は感染者数の規模が圧倒的に小さいので、比較のため、スケールを50分の1にした右目盛であらわしている。

 新聞等では、国別か大陸レベルの地域別か、どちらかのグラフは描かれるが、ここで示したような国と地域を混在させた推移グラフが描かれることは少ないので、案外、めずらしいと思う。

 世界でもっとも感染拡大が脅威的となった国・地域については、春先は、まずヨーロッパではじまり、次いで米国がヨーロッパを上回るようになった。さらにその後、北半球で夏の時期に入ると、米国とラテンアメリカの拡大がもっとも大きくなり、秋に入ると最初はラテンアメリカ、次いでインドの感染拡大が米国を大きく上回るようになった。

 さらに10月後半からはヨーロッパで、第1波を大きく上回る第2波の感染拡大が世界の中でも特に目立つようになった。ヨーロッパでは、これに対応し、春先に続いて2回目のロックダウン(都市封鎖)を行う国も増えた。米国も11月3日の大統領選挙前後から、ヨーロッパに追従するかのようにもう1度、急速に拡大の波が高まった。

 ヨーロッパはロックダウンなど厳しい対策の効果が出たものか、ずいぶんと高いレベルではあるが11月8日にはピークを記している。米国もヨーロッパに遅れて、大統領選が一段落したころから横ばいか下落に転じたかに見えたが、直近ではヨーロッパを上回る拡大に至っている。

〇3波構造の日米 vs 2波構造のヨーロッパ

 各国・地域のこれまでの動きを見ると世界のコロナ感染拡大は、次の3パターンに分けられることが明確である。

 3波構造・・・日本、韓国、米国
 2波構造・・・ヨーロッパ
 1波構造・・・インド、ラテンアメリカ

 感染者数規模はまるで異なっているが、日本と米国では、感染者数の増減パターンは、奇妙なほど似通っている。時期は日本の方が米国よりやや遅れているが、第1波、第2波、第3波と感染者数レベルがだんだんと高くなる程度も同じである。

 もし、米国が日本の一歩先を行っているとしたら、日本の感染拡大は今後さらにもう一段と進むことになる。

 米国とヨーロッパとでは、人種的、自然環境的には、そう異なっていないのに、何故、米国は3波構造であるのに対して、ヨーロッパは2波構造なのであろうか。

 この点に関しては、やはり、危機に対する文化的、民族的な行動パターンの差を考えざるを得ない。特に、米国の政治指導者であるトランプ大統領とヨーロッパ主要国の政権トップとで、コロナ感染危機への対応の温度差は大きく、これが、3波と2波の分かれ道となっていると感じられる。

 米国では11月の大統領選を控えた時期に当たっていたため、民主党サイドがマスク着用に積極的だったのに対抗して、現職大統領側の共和党サイドがマスク着用を忌避する行動パターンに出て、国民を2分するかたちでコロナ対策に選挙運動が持ち込まれたのが、コロナ感染拡大への歯止めに制約を及ぼす不幸な運命のめぐりあわせだったとも解せよう。

 マスク着用だけでなく移動を控える程度が全国的に共和党地域が民主党地域の半分のレベルだったことが下図からうかがえる。英エコノミスト誌によると、共和党地域の例として、9〜10月にサウスダコタ州では感染が急増していたにもかかわらず買物等での移動者は通常より1.5%多くなっていたという(The Economist December 5th 2020)。


 米国と日本の類似性は、「経済重視」という点で両国の政治指導者が共通の危機対応の精神性を有していたためと考えたくなる。米国では「アメリカ・ファースト」、日本では「アベノミクス」という標語で政治指導者がライバルたちに対する優位性を主張していたので、そう思えるのである。

 もっとも、感染者数の規模のレベルの差は大きく、日本の場合は、米国のように政権が再選に向け選挙戦略上「経済重視」を前面に打ち出したいため、敢えて感染危機に鈍感とならざるを得なかったというのとは異なり、危機レベルがそもそも小さいので「経済重視」が可能となったというのが真相だろう。この結果、たまたま、日米は類似パターンとなったのである。

 韓国は日本より第1波はかなり早かったが、第2波、第3波は日本より遅れている。しかし、3波構造である点では日米と共通した特徴があらわれている。

 韓国の第1波は2月半ばから南部・大邱(テグ)市を中心に起きた感染爆発。第2波は8月中旬から首都圏で起きた教会を中心とした集団感染である。いずれも感染が疑われた集団への大量検査を実施して感染者を早期発見。その上で、徹底的な疫学調査を実施して接触者を洗い出し隔離した。先手の対策が功を奏し、感染拡大を収束させてきた点を「韓国政府は「経済と防疫の両立」として誇ってきた(毎日新聞2020.12.10)。

 しかし、首都圏を中心に大きく拡大している第3波は大規模な集団感染ではなく、首都圏の至る所で比較的小規模な集団感染が多発しているのが特徴である。充実した検査態勢があっても捕捉が難しく、飲食店、スポーツジム、映画館の営業制限などの防疫措置で対処せざるを得なくなっている。保健福祉相は6日の記者会見で「今回の引き上げで多くの自営業者らが生活に苦しむことになり申し訳ないが、今回は今までの危機とは違う」と苦渋の表情を浮かべたという(同上)。

 インドやラテンアメリカは1波構造となっているが、これは、途上国パターンと考えることができる。命の値段がなお先進国ほど高くない両地域では、コロナ危機への対応がかなり遅くなり、感染対策が効果をあらわしたのもさらに先進国より遅くなったため、1波構造となったのではなかろうか。先進国地域とは異なり、ヒトの移動のレベルが相対的に低く、世界的な感染拡大に巻き込まれるスピードも遅かったということも影響していよう。

 それでもインドよりラテンメリカの方が感染拡大がやや早く、その結果、最近では、ラテンアメリカの場合は、第2波ともいうべき感染者数の高まりが認められるのである。

 WHOのデータでは死亡者数の動きも分かるので、図録の表示選択では、これを追っている。日本と韓国は感染者数のグラフと同様に50分の1のスケールの右目盛で表示している。

 全体的に、感染者数のピークからやや遅れて死亡者数のピークが訪れていることが分かる。死亡者数のピークはヨーロッパでもごく最近である。日本や米国ではなお死亡者数が増加の一途をたどっている。

 ヨーロッパの死亡者数は第1波と第2波でほぼ人数規模が同じである。感染者数では第2波が第1波を大きく凌駕しているので、感染死亡率は第2波でずいぶんと低下したことがうかがえる(感染死亡率の推移はこれも表示選択で見れる)。

 3波構造の米国と日本は死亡者数の動きも類似している。第1波の死亡者数より第2波の死亡者数が少ないが、第3波は第2波を大きく越えており、日本の場合は第1波のピーク水準に迫る勢いである。

 1波構造のラテンアメリカとインドを比較するとラテンアメリカの死亡者数規模が大きい点が目立っており、ラテンアメリカの死亡率の高さがうかがわれる。

〇スウェーデンだけはヨーロッパの中でも特殊な感染推移パターン

 ヨーロッパはそれぞれ独自な文化をもつ多くの国から構成されており、ヨーロッパを一本化して論じるのは、やや無理があるかもしれない。そう考え、感染者数の図には、ヨーロッパの主要国の感染者数の推移パターンについて人口10万人当たりの値であらわしたグラフを加えている。

 これでヨーロッパ主要15カ国の動きを追ってみると、驚くほど、各国が類似した2波パターンをたどっていることが分かった。

 やや異なるパターンを示しているのは、スペイン、ロシア、スウェーデンである。

 しかし、スペインの場合は、第2波が他のヨーロッパ諸国より早く来たと考えれば、それ自体が何故なのかの疑問は残るものの、納得できる。また、平均寿命が短いロシアは、命の値段が途上国並みであり、コロナ危機に対してインドやラテンアメリカほどではないが、それらの地域と同様にヨーロッパ一般より対応が遅かったと考えれば、第1波が遅かった2波構造と見なすことができる。

 従って、ヨーロッパの中で特殊なのはスウェーデンのみということになる。スウェーデンは、ヨーロッパにもかかわらず、むしろ米国や日本と似た3波構造が認められるのである。

 新型ウイルスの流行に対し、スウェーデン政府は、集団免疫の獲得を目指し(公式にはそれは誤解)、他のヨーロッパ諸国のようにロックダウン政策は採用せず、経済を破綻させない放任主義的な措置を選んで、幼稚園や学校、レストラン、カフェやバーなどが通常通り運営されていたことで有名である。こうした特殊な対応がヨーロッパの中で特異な推移パターンを生んだ要因だといえよう。

 こうしたスウェーデンの行き方を、英エコノミスト誌は第3波が本格化する直前の10月前半の段階では「マスクの要らない国 Land of the mask-free」と表現し、「自由のチャンピオンとしてのかがり火がコロナで試されている」とまで言っていた(The Economist October 10th 2020)。この段階ではスウェーデンの感染拡大はなお低く、ストックホルムの一地区でのみで起こっていた感染拡大が将来への不安材料として取り上げられただけだったが、その後、第3波(欧州全体では第2波)では、他の欧州諸国と同様、あるいはそれを上回る感染拡大が起こり、かがり火としての期待も潰えていることは上図にうかがえる通りである。

 このようにヨーロッパ諸国の間の推移パターンの比較からも政権によるコロナ対策の在り方が感染拡大の波動構造に影響を与えていることがうかがえる。

〇まとめ

 ここまで、政府のコロナ対策によって感染拡大の推移パターンに差が出たと解釈してきた。

 あらためて要約すると、ヨーロッパでは当初の感染拡大に対して大きくブレーキを踏んだため、ずぐに第2波は訪れず、だんだんと対策が緩んだ秋になって第1波を大きく上回る第2波に襲われた。

 米国や日本では、当初の感染拡大に対してブレーキは踏んだものの、危機感がヨーロッパほどではなかったので、すぐさまブレーキとアクセルを同時に踏むような「経済重視」の対応に転じた。このため、夏場には第2波が訪れ、これに対しても同様の対応をしたため、一度沈静化した後、その後、再度、第3波に襲われている。

 ヨーロッパの中でもスウェーデンはヨーロッパの中でも独特な考え方の感染拡大対策を採ったので日米と似た3波構造となっている。

 ラテンアメリカやインドといった途上国では、ヒトの移動がそれほど頻繁でないのに加え、感染拡大への危機感が先進国ほどではなく、対策が講じられるのも、それが効果をあらわすのも先進国地域と比較してかなり遅れた。このため、これまでのところ感染拡大は1波の構造をもっている。

(過去のコメント)

 中国の死亡者数データは4月17日時点から上方修正されたが過去に遡及して修正されてはいない。

 年齢別の感染者数、死亡数、致死率(日本、韓国、中国)は図録1951f参照。

 米国、イタリア、スペイン、フランス、ドイツなどの欧米主要国で爆発的な感染拡大が目立っていた。うなぎ登りという語がまさに当てはまる。

 ロシア、ブラジルは、以上のような先発国に続いて感染が拡大している感染拡大後発国であり、今や世界第2〜3位の感染者数となっている。5月20日から両国を図に追加した。

 感染者数・死者数で米国が抜きん出て多くなっている。

 また、イタリア、スペイン、フランス、英国の人口は5〜6千万人、イランは8千万人とそれほど多くはないのに、死亡者数は人口13億人の中国を大きく上回っている。

 東京新聞(2020.4.9)によると、フランスのほか、イタリア、スペインなどでも死者数の集計から自宅あるいは介護施設で死亡した場合、感染の有無を調べず、死亡者数に算入されない場合が多い。実際の死者数は公表値を大きく上回っている可能性がある。

 フランスの死亡者数は4月に入って急増し、6日に1万人を越えている。同紙によると、仏当局は1日まで病院での死者数のみ公表していたが、メディアなどの指摘を受けて高齢者施設での死者数も集計した結果、死者数が大幅に増加したという(7日時点で全体の31%)。フランスの死亡者数の日によっての急激な増加はこうした事情が反映しているだろう。

 英国の死亡者数について4月30日の増加数が4,419人と急増したが、これも、これまで病院での死者のみを集計していたのを自宅や介護施設などでの死者も統計に含めるように方針を変更したためである。

 その後、英国の死亡者数の増加率は大きく、5月6日以降は米国に次ぐ世界第2位、欧州最多となっている。その理由について、東京新聞(2020.5.15)は、英メディアの報道などを参照して7つの要因を挙げている。@封鎖の遅れ(デーリー・テレグラフ)、A検査不足(BBC放送)、B肥満率の高さ(リバプール大)、C大気汚染(ガーディアン)、D海外往来の多い大都市ロンドン、E高齢者施設の医療体制の不備、Eマスクの不浸透。

 イタリアでも5月14日に死者数の上方修正が行われている(これは翌日修正、数字のミスだったようだ)。

 ベルギーの死亡者数が人口当たりでは世界ワーストとなっている(下図参照)。4月27日までの感染死亡率は15.3%とフランスの18.4%に近い。しかし、これは、「ほかの多くの国と違い、感染未確認の老人ホームでの死者も疑い例として当初から集計に算入してきたためだ」という。「病院で亡くなった人が46%だったのに対し、老人ホームは53%。後者のうち検査で感染が確認されたのは8%にとどまり、残りは疑い例だ。これは検査態勢が当初不十分だったことを踏まえた判断。政府は、病院以外の感染の広がりを把握し「必要な場合に素早く対応できる」(担当者)と説明している。中国の情報隠蔽疑惑に加え、欧米各国で統計未算入の老人ホームでの感染拡大が問題視されている中、ベルギーの対応は際立っている」(ヤフー・時事2020.4.27)。ただし、過大データから風評被害による観光への悪影響も問題になっているという。

 当初感染の中心だった中国は、3月以降は、感染者数、感染死亡者数ともに微増、横ばい傾向である。韓国や日本も中国とはレベルの差が大きいが、動きとしては中国に似た傾向が認められる。

 イランの感染拡大の動きは、一時期、イタリアとともに世界の中で目立っていた。今も感染拡大は続いているが、欧米諸国の急増と比較すると目立たなくなりつつある。

 欧米諸国の中では、イタリア、スペインの動きが突出していたが、フランス、ドイツ、そしてその後、米国、英国の急増が目立つようになった。

 特に、米国の急拡大は著しく、影響力の大きい国であるだけに、世界の中で最も注目される動きとなっている。3月29日にはイタリアを抜いて世界1位の感染者数となっている。死亡者数も4月13日にはやはりイタリアを追い抜き、世界1となった。

 なお、米国は5月4日に死者数が、5月10日に感染者数が下方修正されている。

 最近は、新たに図に加えた後発国のロシア、ブラジルの感染者数、死亡者数が急増している。

 感染者数と感染死亡者数の動きを見比べると、ドイツの死亡数が感染者数に対してレベルが低い点が目立っている。こう見えるのは何故かについては、下の感染死亡率のコメントでふれている。後発国のロシア、ブラジルの死亡率も低いが、報告漏れだという見方も強い。

 世界全体の動きをフォローする上で注目すべきは、こうした主要国の合計を世界全体から引いた「その他」の動きである。

 感染者数では、「その他」の拡大傾向はイタリアを追い抜き、すでに中国を上回っている。世界の津々浦々に感染が広がりつつあることを、これは如実に語っている。

 「その他」の感染者数は急増する米国を下回っていたが、その後、米国と同等水準に至っている(図録1951に掲載している過去1週間の感染者増加状況を参照)。

 感染死亡者数では、「その他」の拡大傾向はイタリア、スペイン並みというより米国並み、そして米国以上になっており今後が憂慮される。主要国に遅れて感染拡大がはじまった後発国のロシア、ブラジルやその他の国々が、主要国並みの危機的な状況に移行しつつあることが理解されよう。

 「その他」で感染拡大が最近目立っているのは、南米、中東などである。

(経過日数別対数目盛の感染者数、死亡者数)

 新型コロナウイルスによる感染の推移を的確にあらわす図として、感染拡大のはじまりからの日数別に累積感染者数や死亡者数を対数目盛のY軸グラフで示したものが、海外の論文や記事で頻繁に使われるようになったので、ここでも描図した。感染拡大のはじまりは累積数が感染者100人以上、死亡者10人以上とされることが多いが、ここでは感染者数は通常の100人以上、ただし死亡者は15人以上とした(注)

(注)データをWHOではなく通常マスコミで使われるジョンズ・ホプキンズ大学のものにして、5月4日確定日までの経過日数別の対数グラフを作成し、これをもとに各国動向を整理した記事をプレジデントオンラインに掲載したので参照されたい(ここ)。この記事では各国動向だけでなく日本の都道府県や都内各地区の動きも同様に対数グラフで追っている。

 これで見ると、日韓以外の諸国はだいたい同様なカーブで感染者数が拡大していくことが分かる。中国、イタリア、スペインの感染拡大は他国と比べて早かっただけで、はじまってからは同じように拡大したといえよう。ただし、米国は当初出遅れた分だけ(あるいは見過ごしていた分だけ)、その後、急拡大したことがうかがわれる。

 後発国のロシア、ブラジルは先発国を上回る感染拡大が顕著となっている。

 日韓は感染拡大のペースが全体としてその他諸国に比べ低い点が目立っており、両国民は抗体をそもそも有していたというような体質的な差がないとすれば、感染の押さえ込みに成功したともいえる。

 藤田医科大の宮川剛教授はBCGの集団接種している国とそうでない国とでは感染率、死亡率に明らかな統計的差異があるとしている。すなわち@日本、韓国などBCGワクチン接種を続けている国、A英国、ドイツなど既に結核は流行していないとして接種をやめた国、B米国、イタリアなど元々摂取していない国に分類するとこの順に新型コロナの影響が大きいのである。生きた結核菌の毒性を下げて注射するBCG接種が自然免疫を強化しているとも考えらるが、医学的な因果関係は未解明であり日本ワクチン学会は「否定も肯定も推奨もされない」としている(東京新聞2020.4.25)。


 確かに上図を見るとこの点は印象深い。隣国同士(スペインとポルトガル、英国とアイルランド)でも定期接種の有無でかなり死亡率に差がある。しかし、中国・日本とそれ以外との差はさらに大きく、BCGだけで理解されるのだろうか。

 日本の感染拡大の軌跡は、放物線状に、当初の急拡大からある程度の日数が経過すると拡大ペースが低下するという日本以外の国の特徴が見られず、感染拡大のペースが落ちていかない点が目立っていた。もっとも最近は傾向線からの下降傾向が認められる。

 日本の特殊な軌跡は異なる株の新型コロナウイルスの継起的な感染によるものかもしれない。国立感染症研究所は国内の検体からのゲノム解読と世界各国のウイルス情報から分析し、「国内で初期に発生した複数のクラスター(感染者集団)やクルーズ船ダイヤモンドプリンセス号の患者から検出されたウイルスは、1月初旬に中国・武漢市で検出されたウイルスと関係が深いと推定された。このウイルスは3月以降、国内で広がることはなく、終息したとみられるという。一方、これに代わって国内で確認されるようになったウイルスは、武漢市で確認されたウイルスよりも、欧州各国で感染を広げたウイルスの遺伝子に特徴が近かった。3月以降、欧州など海外からの旅行者や帰国者を通じて全国各地に広がった可能性があるという」(朝日新聞2020.4.28)。「感染研は、日本では中国からの第1波について濃厚接触者をいち早く探知して抑え込み、収束へ導くことができたと分析していて、ダイヤモンド・プリンセス号のウイルスについても日本では終息したとしています。しかし、渡航の自粛が始まる3月中旬までに欧米経由の第2波の流入を許し、数週間のうちに全国各地に伝播したと指摘しています。さらに今後、第3、第4の波が来ることは必然で効果的な感染症対策の構築を図るとしています」(同日、テレビ朝日ニュース)。

 当初のウイルス株には効果が大きかった保健所機能を活用したクラスターつぶしという押さえ込み戦略も欧州などからの伝播には太刀打ちできなかったのかもしれない。

 その結果、日本の感染者数が4月20日に、死亡者数が4月22日に韓国を上回るに至っている。ただし、日本の死亡者数が4月21日の186人から22日の277人へ急増したのは、報告の遅れを取り戻したためであろう。この点は、ここでは掲げていないが、各国政府の公式データ以前に自治体公表段階のデータを反映させるジョンズ・ホプキンズ大学のデータと比較すると確認される。

 累積死亡数の対数グラフの方を見ると、欧米諸国はだいたい同様なカーブで感染が拡大していることが分かる。例えば、イタリアに比べドイツの死亡者数は非常に少ないが、当初、それは拡大開始時期が遅いだけという側面が大きかったことが理解される。ただし、その後のドイツの死亡者数の動きは明らかに下方に寝ており、ドイツの対策が功を奏していると見なせる。

 ただし、米国は感染者数の動きと同じように、欧米諸国の中でも感染拡大のテンポとレベルについて、出だしは遅かったが、その後は特段に著しい動きとなっていることが分かる。特に最近、死者数の伸びが著しいのが目立っている。

 また、実数では把握しがたかった動き、すなわち中国とイランは、初期は欧米と似ているが、途中から欧米より拡大スピードが落ちる点、また韓国と日本は、そもそも、最初から低空飛行が特徴である点などを見て取ることができる。

 日本の場合、死亡者数の拡大ペースが余り落ちない点が懸念材料となっていたが、やはり、韓国の死亡者数を上回る結果となった。

(感染死亡率の動向)

 WHOに各国が報告した感染者数と死亡者数の値から死亡率を算出し、推移をグラフ化した図を表示選択で見てみよう。この値は、致死率と呼ぶこともできるが、疫学上というより統計上の致死率なので、ここでは感染死亡率、あるいは単純に死亡率と呼んでおこう。

 この死亡率の推移や水準の違いをどう考えるかはかなり微妙であり、要因探しにはかなりの注意が必要である。

 まず、中国の値は他国と比較して少し変である。というのは、どの国でも死亡率は上がったり、下がったりしているのに、中国の場合は余りに安定的に推移しているからである。

 中国の計数は操作されているという側面も無視できないだろうが、むしろこれは、中国の場合、他国に先んじて感染状況が安定化してきたためであり、他国もいずれは同じような死亡率の安定的推移に到達するととらえることもできる。確かに患者数が急増していた3月より以前の死亡率の推移を見てみると2月の後半に2%水準から4%近い水準へと大きく上昇しているのである。

 主要国の動きを観望すると、欧米は押しなべて死亡率の高レベルと上昇傾向が目立っている。その中ではイランは死亡率が低下に転じている点が目につく。ドイツは非常に低いレベルで死亡率が少々している点が目につく。米国は低いレベルから欧州レベルに近づきつつある点が目につく。

 イタリアと比較した場合のドイツの死亡率の低さの要因については、英エコノミスト誌は以下の3点を指摘している(The Ecomist March 28th 2020)。
@ 検査数の多さや高齢者に偏っていない検査対象
ドイツの検査規模はイタリアと比較にならないほど多く、軽症の感染者も多く見つかっている。また、検査対象の年齢構成も相対的に若い。検査対象者の平均年齢はイタリア63歳、ドイツ47歳である。その結果、感染者数の60歳以上比率は、両国人口の高齢化率はそう変わらないのに、イタリアが56%に対してドイツは20%である。当然、死亡率はドイツの方が低くなる。
A 遅い感染拡大開始時期
新型コロナウイルスへの感染によって死に至るとしても感染から数週間後である。イタリアにおける最初に死者が出たのは2月22日であり、ドイツはそれから2週間遅れている。ドイツの患者の死亡数が大きく増加するのは今後である可能性が高い(表示選択の対数グラフ参照)。
B 地域集中による医療崩壊が少ない
イタリアの感染拡大はロンバルディア州に集中していたのに対して、ドイツの感染症例はいくつかのホットスポットに分散していた。ドイツの医療システムの優秀性も死亡率の低下に寄与した。
 一方、中国、韓国、日本といった東アジア諸国は死亡率が相対的に低く、また動きも横ばいに近い。日本は、むしろ、けっこう長い間低下傾向だった。

 こうした欧米と東アジアの死亡率のレベルや動きの差を社会的な対応の違いだけで説明するのは難しく、生物学的なウイルスへの耐性の違いを想定せざると得ない。

 次に、上のドイツの例なども参考にしながら、一時期の日本の死亡率低下傾向について考えて見よう。

 死亡率の上昇には以下の3要因が考えられよう。
  • ウイルスそのものが強毒化しているから(ウイルス変性要因)
  • 感染者数の増加スピードに検査体制が追いつかず、検査漏れの患者数が増え、検査が重症者に偏るから(検査要因)
  • 患者数の増加に医療体制が追いつかず、みすみす助かる患者の死亡が増えているから(医療要因)
 死亡率の低下には、国民全体が抗体をもつようになるという要因を除くと、これら3要因が逆方向に働いているということが考えられる。

 ウイルス変性要因は考えないでおこう。

 日本の死亡率は一時期上昇が続いていた。この時期、病床にはまだ余裕があり、医療要因は考えにくい。ということで、検査要因を指摘する声が主流だった。

 ところが、東京など都市部を中心に感染拡大の勢いが目立つようになった、3月最終週あたりから、死亡率は低下の一途をたどっている。3月23日の3.8%から現在は1.6%と半減以下である。何故か、この点が余り注目されていない。

 日本のように死亡率の低下が目立っているのはイランである。イランの場合は医療崩壊が克服されつつあると考えることもできる。日本の場合は、そもそも医療崩壊していないのでそうは考えられない。

 感染拡大の中では、死亡率の上昇には医療要因がありうるが、死亡率の低下には医療要因は考えらない。そうなると検査要因だけが残る。つまり、不足していた検査がかなり行われるようになって、感染者数が実態に近づき、若い年代の軽症者が多くなってきて、見掛け上、死亡率が低下していると考えることができる(年代別感染者数の推移については図録1951f参照)。

 しかし、そうだとすると、3月最終週から顕著となった感染拡大は、単に、それまで把握されていなかった感染者が数字にあらわれるようになっただけということになる。

 こうした理解の帰結としては、もっと前から恐れているべきだったのに対策が遅れたという見方が1つ。また、感染拡大は急カーブに転じたわけではなく欧米のような感染爆発ではないので、対策は強化するにしても、現在の中国や韓国のように日本は比較的安心という見方がもう1つであろう。

 最近は日本の死亡率低下もさすがに底を打ち、上昇に転じたようだ。死亡数報告の遅れのラグなのか、医療崩壊への兆しなのか、それとも検査数の絞りや検査数拡大の限界のせいなのか。

 5月20日から新たに図に加えたロシア、ブラジルの死亡率、特にロシアの死亡率は欧米先発国と比較してなお低い水準である。両国では死亡者数の報告が過少であるとの見方がある。ロシアについては、BCGの予防接種が行われており、しかもワクチンの株が日本株と近いものだという理由も低死亡率の要因として挙げられている。

(2020年3月27日図録1951から図録として独立、3/28更新・英国追加、3/29〜4/8更新、4/9更新、フランス死者数コメント、4/10・4/11更新、4/12更新、表示選択にした上で感染死亡率図、死亡者数(対数)図追加、コメントも、4/13更新、ドイツの低死亡率の要因分析、4/14〜4/25更新、4/26日更新、BCG接種が影響している可能性、4/27更新、ベルギー事例、4/28更新、BCG接種有無別死亡率、複数のウイルス株、4/29〜5/20更新、5/21更新、感染者数世界2〜3位のロシア、ブラジル追加、5/21〜5/27更新、5/28更新、インド追加、5/29以降原則毎日更新、10月28日コメント加筆、11月3日感染者数・死亡者数のグラフを主要国・地域の過去1週間のデータに変更、12月3日欧州のロックダウン経過図、12月10日「各国における感染拡大の波の状況の比較」セクション追加、12月13日欧州推移図をピーク時100から人口当たりに変更して更新、12月23日欧州各国推移を表示選択に移す、12月24日表示選択に欧州各国の死亡者数推移を加える、12月26日米国共和党・民主党地域の移動レベル比較、2021年1月15日感染死亡率推移のメイン・グラフを2週間単位に変更、1月24日米国地域別の感染者数推移図を追加、2月25日感染死亡率推移の死亡率算出における感染者数と死亡者数のずらしを2週間から日本の第2波、第3波のピークのズレである3週間に変更、4月10日米国の地域別の波の要因、2022年4月11日日本の感染・死亡推移対比図、2023年1月10日ワクチン先進国なので欧州図に掲載していたイスラエルに替えて米国を掲載)


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