毎年OECDは加盟各国の医療費の対GDP比率を発表しており、これが医療費の上昇に歯止めをかけたい各国の関心を引くところとなっている。最新の結果を図にした。医療費の一部の医薬品費については図録1905参照。

 OECDデータは国ごとの違いを一定程度補正した数字である。日本の国民医療費と比較すると、非処方薬、公衆衛生費、施設管理運営費、介護費を含んだ経常医療費概念を採用しており、日本の国民医療費とは必ずしも一致しない(この点は図録1900参照)。

 世界の中では米国が17.0%と突出している。医療の大きな目標の1つは死亡率の改善であるが、米国の平均寿命は決して高い水準にはなく、米国の医療は高度医療では世界をリードしているが平均的な国民のニーズには応えていない、また医療保険制度が不備であるとして、世界から懐疑の目で見られている。(世界各国の平均寿命については図録1620参照)

 日本は37カ国中5位の11.1%である。一方平均寿命は世界一であり、米国とは逆に世界一効率的な医療が行われていると一般に見なされている。

 日本の順位については、各年次版の"OECD Health Data"では以下の表のように変遷して来た。

 2016年に3位に急上昇したのち2017年から再度低下している。これは、定義の変更やデータ見直しの影響である(コラム参照)。医療費の抑制に熱心な報道機関は3位に上昇したときには大きく報道したが、その後、順位が低下した際には余り大きく取り上げなかった。

 図録1900で見たとおり、高齢化の進展度合いからすれば日本の医療費は決して高くないのだが、医療費の水準そのものは世界の中で高い部類に入ることとなったのである。

 ただし、コロナが蔓延した2020年のデータを含む順位づけでは日本の順位は、再度、大きく下がっている。これは日本に医療費はコロナ禍でそれほど増えなかったのに対して、欧州を中心にコロナ対策で医療費が急拡大している国が相次いだためである。2021年には再度旧来順位に戻っている。

日本の医療費対GDPのOECD順位(これまでの公表年次における)
公表年次 データ年次 順位
2007年 2005年 21位
2008年 2006年 21位
2009年 2007年 21位
2010年 2008年 22位
2011年 2009年 24位
2012年 2010年 16位
2013年 2011年 12位
2014年 2012年 10位
2015年 2013年 8位
2016年 2015年 3位
2017年 2016年 6位
2018年 2017年 6位
2019年 2018年 6位
2020年 2019年 5位
2021年 2019年 10位
2022年 2020年 11位
2023年 2021年 4位
(注)経常医療費ベース。ただし14年公表版まではこれに資本形成を加えた総医療費ベース。15年公表版まではより古いデータ年次の国を含む。13年公表版までは日本のデータ年次は表記より1年前。
(資料)OECD Health Data 各年次版、2021年以降OECD.Stat(2021.11.10、2022.8.7、2023.10.27)

 なお、日本の場合、対GDP比のうち公的保険や財政負担に係る公的負担が9.3%である。米国の公的負担割合が2013年の48.8%からオバマ改革(オバマケア)の影響で14年に81.4%へと急増した。公的負担割合はチリ、ギリシャ、ラトビア、メキシコが50%台と低いのが目立っている。

 2015年の更新からパートナー諸国の値も参考値として掲載した。パートナー諸国では、公的支出の割合が低い国が多い点が目立っている。

 医療費の規模は高齢化の進捗度とリンクしているため、医療費水準をより正しく評価するためには高齢化比率との相関をみる必要がある。この点の分析は繰り返しになるが図録1900を参照されたい。

 医療費の効果を平均寿命との相関から見た分析は図録1640参照。

【コラム】2016年からのOECD医療費(日本)の見直しについて

 OECD Health Data 2015から同2016にかけて日本の医療費が、約5兆円、対GDP比で1%ポイントほど上方修正された。具体的には、2015版では2013年の値が10.2%であったのが2016版では2015年の値が11.2%となった。その結果、本文中に記したようにOECD諸国における順位が8位から3位へと大きく上昇したのである。

 この見直しの経緯について「エコノミスト」誌2016年10月11日の記事(編集部金井暁子)によってまとめておこう。

 OECDの医療費(正確には保健医療支出expenditure on health)の基準が2011年に改定され(SHA2011)、加盟国は16年3月までに新基準に適用することになっており、日本も2016年提出分から新基準に対応した。OECDへの提出データは、一般財団法人医療経済研究機構が推計し、厚生労働省を経てOECDに提出されている。

 OECDの医療費には、厚生労働省が推計している「国民医療費」には含まれない非処方薬、公衆衛生費、施設管理運営費、介護費などが含まれている。今回、OECDベースの医療費が急増したのは、「介護を中心とする長期療養(LTC)の計上範囲が拡大し、その費用が大幅に膨らんだからだ。具体的には、訪問介護や通所サービス(デイサービス)、認知症対応型共同生活介護(グループホーム)などが、新たに対象となった」(同誌P.34)。

 2016版で長期療養費が急増したのは日本のほかアイルランド、フィンランド、英国の4カ国のみであり、他の国は以前から新基準を適用していたので、2015版までの日本の地位は医療費規模について過小評価だった訳である。

 もっとも、OECD Health Data 2014までは公表が、総(total)医療費だったが、2015版以降は、経常(current)医療費に変更になっている。両者の違いは、後者は前者と異なり、資本形成(病院、医療機器などの設備費用)を含んでいない点にある。ところが、日本の医療費の推計が医療保険から支払われる診療報酬に基づいており、診療報酬には、資本形成の部分も未分離に含まれているため、日本の経常医療費には設備費用が含まれてしまっているという(p.35)。となると、2016版のOECD医療費ランキングでは日本は逆に過大評価になっている可能性がある。2017版で今度は6位へと再下降したのは、この点の改善が図られたためかもしれない。

 図の順に、OECD37カ国は、米国、スイス、ドイツ、フランス、日本、スウェーデン、カナダ、ノルウェー、オーストリア、ベルギー、英国、デンマーク、オランダ、ポルトガル、オーストラリア、ニュージーランド、チリ、フィンランド、スペイン、アイスランド、イタリア、スロベニア、韓国、ギリシャ、チェコ、イスラエル、コロンビア、スロバキア、アイルランド、リトアニア、エストニア、ハンガリー、ポーランド、ラトビア、メキシコ、ルクセンブルク、トルコ、、さらにパートナー諸国7カ国は、ブラジル、南アフリカ、コスタリカ、ロシア、中国、インド、インドネシアである。

(2005年6月16日収録、2007年7月20日更新、2008年3月11日更新−2007june22データから2007Oct7データに更新のためルクセンブルクが日本より下になり日本の順位は22位から21位へ変更、2008年7月1日更新、2009年7月15日更新、2010年6月30日更新、2011年7月14日更新、2012年6月29日更新、2013年6月30日更新、10月3日(注)修正、2015年7月12日更新、パートナー諸国追加、2016年8月25日更新、10月21日コラム、2017年7月8日更新、7月13日コラム補訂、2018年8月7日更新、2019年7月30日更新、2020年8月16日更新、2022年8月8日順位表更新、2023年10月27日順位表のみ更新)


[ 本図録と関連するコンテンツ ]



関連図録リスト
分野 健康
テーマ  
情報提供 図書案内
アマゾン検索

 

(ここからの購入による紹介料がサイト支援につながります。是非ご協力下さい)