高齢者になっても働くように変わりつつある。いつからそうなったのであろうか。これを年齢別の労働力率(就業者と失業者の計が人口に占める割合)で確かめてみよう。高齢者の就業に関する国際比較は図録1400参照。

 図録1338でふれた国勢調査の労働力率は、各齢ごとに推移が分かる反面、5年ごとにしかデータが得られない。労働力率の推移については、やはり毎年の動きを知りたいので、国勢調査ではなく、労働力調査のデータを調べてみよう。

 高齢者は、通常65歳以上として区分されるが、定年制や年金制度上では60〜64歳が高齢者に至る推移段階として特殊な年齢層になっている。また高齢期以前のデータとも対照させたいというねらいもある。そこで、図には、高齢期に入る前の55〜59歳から5歳ごとに70歳以上までの区分で、男女の労働力の推移を描いた。

 男性と女性とで状況はかなり異なっているが、共通する面もある。男性については、50歳代後半では、90%超の人が働く状況に変化はない。ただし、1990年代前半には労働力率がやや上昇している。これは、当時、企業の定年制における定年到達年齢が55歳から60歳へと延長されつつあったためと考えられる。

 60歳以上では、戦後、労働力率はほぼ一貫して低下傾向をたどってきた。定年のない農業や自営業の割合が小さくなるとともに、年金などの社会保障が充実してきて生活のために働く必要が薄くなってきたためと考えられる。欧米を見習ってという側面もあったように思う。

 ところが2005〜06年頃に転機が訪れた。60代の前半や後半では、労働力率が反転、上昇する傾向に転じた。70歳以上では、反転はしなかったものの、下げ止まって横ばいに転じた。

 何がこうした変化のきっかけとなったのか。じつは、年金給付年齢の引き上げの流れの中で、老齢厚生年金(報酬比例部分)の受給開始年齢が2013〜25年度に(女性は5年遅れて)、60歳から65歳へ引き上げられることとなり、これに対応するため、2004年制定の改正高年齢者雇用安定法が2006年に施行された。それによる影響が大きいと考えられるのだ。

 この改正法では、自社の社員に対して60〜64歳の雇用を確保する対策が企業に義務づけられた。対策は、@継続雇用制度の導入、A定年年齢の65歳への引き上げ、B定年制の廃止のいずれかとされた。この改正法によって、企業の労使はともに60歳で退職、引退というわけにはいかない、と考えるようになったと推測される。

 女性の労働力率は、全体として男性よりレベルが低くなっている。推移を見ると、男性と異なって、定年退職者が多くないため、60歳以上の各年齢層でもほぼ横ばいの動きとなっている。だが、2005〜06年頃を境に60代で上昇に転じた点は男性と同様である。男性と異なり50代後半でも上昇が見られることから、これは、将来的な年金給付年齢の引き上げという家計における新事態に対して、夫婦ぐるみで対処しようとしたのではないかと思われる。

 なお、男性の定年後再雇用や女性の高齢就業は、契約社員・嘱託・パートといった非正規雇用が中心となっており、高齢男女の労働力率のこうした上昇が、近年では、いわゆる非正規雇用拡大の主たる要因となっている(図録3242参照)。

 政府は、2019年5月15日、首相官邸で開いた未来投資会議で、希望する人が70歳まで働ける機会を確保することを企業の努力義務とする方針を示した(東京新聞2019.5.16)。定年廃止や継続雇用制度の導入など7つの選択肢から、企業内で労使が話し合って選べるようにする。安倍政権が掲げる「全世代型社会保障改革」の柱で、政府は来年の通常国会に高年齢者雇用安定法の改正案提出を目指す。現行法では、上述のように、定年延長や再雇用などで希望者全員を65歳まで雇用するよう企業に義務づけているのであるが、とりあえず努力義務として、さらに5歳これを引き上げようというのである。

 図に見られるように、最近の動きとしては、2017年からついに70歳以上の労働力率までが上昇しはじめたのが目立っている。政府の対策を先取りするような動きがはじまっているようにもみえる。

(2019年6月2日収録)


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