食べものについては、「値段が安いかどうか」、「栄養があるか」(カロリーやタンパク質、ビタミン等)、「おいしいかどうか」、「健康に良いか」などに関心がもたれてきたが、最近は、「地域アイデンティティに貢献しているか」や「動物愛護に反しないか」、あるいは「環境にやさしいかどうか」という観点からの関心が強まりつつある。欧州では、健康志向のベジタリアン(菜食主義者)に代わって反動物搾取・虐待から動物性食品を忌避するビーガン(ヴィーガン)が登場しトレンドとなっている。さらにビーガンの中には、むしろ、畜産業が環境を破壊しているため持続可能でないという考えから動物性食品を拒否するものもあらわれている。

 英国の経済週刊誌エコノミストは、馴染み深い商品で通貨価値を比較する「ビッグマック指数」や労働における女性の役割と影響力を調査して集計した「ガラスの天井指数」、あるいは「縁故資本主義ランキング」(図録4568)など特色のある指標を公開しているが、環境型ヴィーガン・トレンドに答えるかたちで食品消費の環境負荷の多寡を示す「バナナ指数」をこのほど公表したので紹介しておこう(バナナ指数を紹介するWEBページはここ)。

 食品別の重量当たりの温室効果ガスについてはすでに図録4183でもふれた。

 「値段が安いかどうか」に関し、重量当たりの食品価格より、必要栄養量を摂取する選択肢を示すため、カロリー当たり、あるいはタンパク質含有量当たりの食品価格がどの食品を選ぶかに関してより参考となる(これらについては図録0219あるいは図録0219dでふれた)。

 環境へのやさしさについても、実践的には、カロリー当たり、あるいはタンパク質当たりの温室効果ガス排出量の指標に転換した方が参考になる。当図録にはエコノミスト誌に掲載された「バナナ指数」の図を掲げた(The Economist 2023.4.15, p.77)。「バナナ指数」はこうした観点からバナナと比較して各食品が環境にどれだけ良いか、悪いかを判断する指標である。

 バナナ指数は食品ごとに差が激しいので図の目盛は対数目盛で表示されている。

「肉派にとって不幸なことに牛肉はどんなに細かくスライスしても環境に良くない。1キロの牛ひき肉はバナナ109kg分の排出量に相当する(これをバナナ・スコア109と呼ぶ)。栄養量に換算すると牛肉のカロリーのバナナ・スコアは54に、タンパク質のバナナ・スコアは7に下がる。鶏肉の場合は重量で11、カロリーでは4である。しかし、タンパク質源としては、炭素フレンドリーであり、同じ量を摂取するためにはバナナの40%でよい」(同上)。

 肉や魚の動物性食品より植物性食品の方が環境にやさしいことも一目瞭然である。代替肉バーガーはタンパク質のスコアでは0.2に過ぎない(もっともタンパク質が微量しかふくまれないぶどうやココナッツミルクではそのスコアは非常に大きくなってしまう)。

 このバナナ指数は世界平均であるので輸送距離が短い地元消費の場合は環境にやさしくなる。しかし、輸送の占める排出量割合はほとんどの食品の場合10%未満なので、どの食品を選ぶかと比べると効果は限られている(温室効果ガスがどんなプロセスから生じるかは図録4183から採録した下図を参照)。


 ヨーロッパで行われた意識調査では、ほとんどの消費者が環境にやさしい食を選びたいとしているが、サステナブルな選択が可能だと考えているのは31%に過ぎず、4分の3は購入する食品の環境への影響度を知りたいと言っている。「低排出量食品の選択をラベル表示が促進するだろうとする研究がなされているが、あまり普及していない。しばらくは、バナナ指数が役に立つことになろう」(同上)。

(2023年6月9日収録)


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