縁故資本主義(crony capitalism)とは「仲間内の資本主義」の意。コネがきく資本主義とも言える。実際上は、国の権力者とのコネで法的許認可、事業認可、優遇税制措置、公共事業発注先の選定などにおいて不公平さが見られるときにこう呼ばれる。インドネシアのスハルト、フィリピンのマルコス政権などの例がよく引き合いに出され、欧米では韓国の財閥、日本の「政・財・官」の癒着を同一視することもある。最近では、旧ソ連からの体制移行にともなって財を築いたロシアやウクライナの「オリガルヒ」が話題に上ることが多くなった。

 日本の歴史上は「政商」、すなわち明治前半期に政府の手厚い保護・育成を受け,政府との相互依存関係の中で政府事業を独占的に受注し,特に官業払下げを受け、後に財閥に発展した三井・岩崎・住友などの特権的商人の事例がこれに当たる。

 ビッグマック指数やガラスの天井指数で知られる英国エコノミスト誌は、縁故資本主義指数によるランキングも発表しているので、ここでは、これを取り上げた。

 これは、フォーブス誌が調べているビリオネア(億万長者)の資産を縁故セクター(クローニー・セクター)と非縁故セクターに分けて集計し、それぞれの対GDP比を算出し、そのうちの縁故セクターの値で主要国をランキングしたものである。

 縁故セクターに含めているのは、銀行、カジノ、防衛、採掘、建設といった国政との接触機会が多く、縁故によるレントシーキング(超過利潤の追求)に陥りやすい一連の産業分野である。

 そうした産業分野だからといって、縁故で不当に利益を得ているとは限らないが、結果として、そうした産業分野のビリオネアの資産が目立って多ければ、やはり、一国経済のなかで縁故資本主義が跋扈している可能性が高いと考えた上での指数作成だと考えられる。厳密性を求められる公式統計とはことなり、速報性や見た目の分かりやすさを重視し、それでも厳密な統計とほぼオーバーラップするようなジャーリズム固有のすぐれた指標として評価できよう。そもそも公式統計では縁故資本主義を定義できまい。

 結果は、前回2016年に引き続き、2021年もロシアがトップ縁故資本主義国である。これに、マレーシア、シンガポール、フィリピンとアジア諸国が続き、5位にウクライナがエントリーしている。

 ランキングの結果については、指標を作成した英国エコノミスト誌の記事を引用しよう。

「ロシアの縁故資本主義はアルガルヴェ地方の白雲母のように目立っている。120人のロシア人ビリオネアの70%(彼らは全体としてビリオネアの資産の80%を占めている)が我々の縁故資本主義の定義に合致する。ロシアのGDPに占める縁故セクターの資産の割合は2021年に28%であり、2016年の18%から上昇している。もっともロシア人オリガルヒの帝国は、ウクライナ侵攻に伴う経済制裁が進めば大きく刈り取られることになるだろうが。

 世界的にクローニー(縁故)資産は、テクノロジー企業関連資産の拡大が一因となって、全体に占めるシェアを低下させてきている。しかし、多くの場所でそれはなお堅固に身を保っている。マレーシアでは、前首相が国から盗んだ45億ドルの汚職の罪で2020年に収監されたが、縁故資本主義はなお支配的である。インドの縁故セクターにおけるビリオネア資産の比率は6年間に29%から43%へと上昇している。フィリピンのランニングは4位へと落ちたが、縁故セクターの割合はビリオネア資産全体の5分の4を占めている。

 これらとは対照的に、米国のビリオネアのだいたい5分の4、資産額では90%を占める部分は非縁故セクターに属している。テクノロジー企業の価値が高騰したことによって非縁故セクターの資産の対GDP比は2016年から2021年にかけて11%から17%へと上昇している。しかし、近年、米国は巨大資産のビリオネア企業に対する調査を開始した。テクノロジー企業は縁故産業的な内なる特徴を実際に示している。例えば、おいしい市場シェアを守るためのロビー活動にかなりの支出を割いているのである。テクノロジー企業を縁故セクターに再分類すれば、米国の縁故セクターの資産はGDPの2%から7%に上昇するだろう。

 この10年間に中国は、イヴサンローランなどよりも早く新ビリオネアを創出してきた。2010年に89人だったのが今や714人に増え、米国の70%ほどに当たる3兆ドルの資産を抱えるようになっている。縁故セクターの対GDP比は6年間にほとんど変わっていないが、全体のビリオネア資産に占める割合は44%から24%へと低下した。この点で我々の指数の欠陥が露呈されている。というのも、ある意味、中国で活動するすべての事業が国の同意を得ていると言えるからである。2020年にアリババのジャック・マー(馬雲)が見出したように、おぼえめでたさが失われると重大な結果を招くのである。すべての中国人ビリオネアが縁故的だとすると中国のランキングは世界2位にランクアップするのである。

 独裁国のビリオネアは国のリーダーの気まぐれに弱いところがある。ミハイル・ホドルコフスキーは2004年に150億ドルの資産を有していたが、ウラジーミル・プーチンにきらわれて、彼の石油企業は没収された。サウジアラビアの粛清を除外して、その王国から2017年以降、一人もフォーブス誌のビリオネア・リストに新しく登場した人物がいないことを説明できない。中国を除く独裁国全体のビリオネアは70%の資産を縁故セクターから引き出している。この7,500億ドルのうちのかなりの部分が、余りうるさいことを言わない西欧諸国に隠されている可能性はかなり高い」(The Economist March 12th 2022, p.61)。

 日本や韓国は経済発展の初期段階では、国との関わりで財閥化した大企業が多かったが、現在の縁故資本主義的な側面はそれほどではないことがこのランキングからうかがえる。

(2022年4月8日収録)


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