OECD諸国のエンゲル係数とその内訳となる飲食料費、酒類、外食の対消費支出比率を図録0212に示したが、ここでは、エンゲル係数と所得水準の相関を示す散布図を掲げた。

 所得水準の値がやや外れ値であるルクセンブルクとアイルランドを除いて相関を確かめると、ほぼ、所得水準の高い国ほどエンゲル係数が低いという古くから知られているエンゲルの法則が成り立っていることが分かる。

 ただし、所得の割にエンゲル係数が高い国、低い国があることもうかがわれる。

 回帰線より下にはずれ、所得の割にエンゲル係数が低い国、すなわち所得の高さ以上に食費にお金をかけない国としては、所得に低い方から、メキシコ、ポーランド、スロベニア、英国、カナダ、ドイツ、米国などが目立っている。

 このうち、所得の高い方の国は、ドイツを除くとすべて英語圏諸国であり、歴史的には英国植民地だった国である。

 こうした国では、食費にお金をかけない気質があると考えざるをえない。ファーストフード文化が栄えている。美食の国ではない。食事に時間をかけない(図録0210)。食料価格が低い国といった特徴が共通しており、先進国の中でもやや特殊な食文化グループを形成しているといえよう。

 主要国におけるエンゲル係数の時系列変化を追った図録0211では、日本、フランス、イタリアのエンゲル係数の高さが目立っていたが、この図をみると。これらの国はむしろ普通の所得水準対比のエンゲル係数であることが分かる。

 先進国の中で所得水準対比でエンゲル係数が高い国、いわば「食い倒れの国」としては、ポルトガル、スペイン、チェコ、アイスランド、オーストリアなどがむしろ目立っているも言えよう。

 スペイン、アイルランド、アイスランドは外食費が大きいという特徴があり(図録0212)、そうした要因も影響している可能性がある。

 下図に主要先進国のみを抜き出した相関図を掲げた。これを見てもイタリア、日本、フランスと英語圏諸国およびドイツとはエンゲルの法則を越えた落差があることがうかがえる。


 「美食の教養」の著者である浜田岳文氏は国民による食志向の落差についてこう証言する。「ドイツ北部に行くと悲惨で、ベルリンなど世界的な街なのに、美味しい店は本当に少ない。ガストロノミーを追求するレストランが意欲的な料理を提供していても、席が埋まらず、結局閉店を余儀なくされる。地元の人は、お金はあっても、食には使わないからです。

 ドイツ人は半分冗談半分本気で、高級なオリーブオイルを買うよりも、高級な車のオイルを買うのにお金をかける、といったりします。もちろん全員ではありませんが、これは彼らの人生における優先順位を示すエピソードだと思います。

 一方、1人当たりGDPで第140位前後のカンボジア。経済は急成長しているものの、レストランに関しては事前情報がほぼない中、一昨年訪問しました。現地で働く日本人に聞いたおすすめの店を回ると、どこも水準が高く、驚きました」(ダイヤモンドオンライン2024.7.5)。

 取り上げた国は、エンゲル係数の低い順に、米国、ドイツ、カナダ、オーストラリア、英国、デンマーク、オランダ、ノルウェー、スウェーデン、ベルギー、スロベニア、ポーランド、フランス、オーストリア、フィンランド、日本、イスラエル、イタリア、アイスランド、コスタリカ、チェコ、リトアニア、ポルトガル、スロバキア、スペイン、ハンガリー、ラトビア、メキシコ、ギリシャ、エストニアである。

(2022年7月3日収録、2024年4月20日主要先進国抜き出し相関図、12月4日更新)


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