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 図録に掲げた食事時間の長短は10年前の旧データ(表示選択が可能)でもほぼ同じである。特に、フランスが最も長く、米国が最短の国のひとつである点は一緒である(なお、日本の順位が下がっているのは日本が米国に近づいているからとも解される)。旧データに関する当初のコメント(下に掲載)では、グルメ文化を有するかどうかの国民性のあらわれと理解した。

 フランスの2時間12分は米国の1時間1分の2倍以上と差が大きいのが目立っている。飲食を含む食事時間の長いフランスや南欧のギリシャ、イタリア、スペイン、そしてデンマーク、トルコ、韓国をグルメ国、食事時間の短い米国、カナダ、南アフリカ、アイルランドを粗食の国と呼ぶことに違和感はない。

 ここで掲げた新しいデータを引用しているフランス人ジャック・アタリの「食の歴史」(プレジデント社、原著2019年)においては、食事時間におけるフランスの長さと米国の短さは、グルメ国かどうかというより、人類が食事を通じて築きあげた参加者どうしの会話を通じた家庭的・社会的な機能を米国の資本主義が解体させ、米国の食文化が世界に広まってきた歴史過程を象徴的にあらわすものとして捉え直されている。

 米国において、19世紀から20世紀にかけて活躍した食品イノベーターたち、すなわち、グラハムクラッカーのアイデアを考えたグラハム、コーンフレークをつくったケロッグ、ケチャップを生み出したハインツ、コカ・コーラを1886年に商品化したペンバートン、マーガリンを売り出したユニリーバ社、彼らは皆、健康のための薬や栄養食品のような食品として新しい製品を生み出したのであった(注)

(注)日本の有力食品メーカーも似たような出発点を有することが多い。「カルビー」はカロリー(カル)とビタミン(ビー)の提供を社名とした発祥の経緯を有する。「味の素」も1908年に池田菊苗が昆布のうま味成分はグルタミン酸ナトリウムであることを発見、鈴木製薬所を設立していた創業二代目鈴木三郎助が工業化に成功したことにはじまる。

 こうした動きに、マクドナルドやケンタッキー・フライドチキンなどのファーストフード・チェーンの創出が相まって、米国の資本主義が「食卓で無駄な時間をすごすべきではない、食べる時間は退屈なものだ。食のことなどなるべく考えるな」と大衆を説得した結果、米国流効率主義の短時間食事の文化が生まれたとされる。

「なんとも信じがたい策略である。食に対する大衆層の欲求を減らすために怪しげな栄養学をもちだし、味のことは二の次にするため健康上の理由を掲げ、衛生的だとされる安価な工業製品の食品を購入するように仕向けたのである。自分たちの所得のかなりの部分を割いて健康によいものを食べるよりも、独りで素早く食べるほうが効率的だという考えだ。このようにして、家族の絆や、文化的、美食的な連帯感は消え失せた。アメリカの国益のために、粗食が提供されるようになっていったのである」(同書、p.172)。

 フランス人にとって米国人の食文化は許せないという気持ちがあらわれている。

 こうした説に立てば、エンゲル係数が文化の発達度を示すという考え方も米国資本主義の陰謀のような気がしてくる。

 各国の食事時間とエンゲル係数がほぼ比例している状況については図録2270、図録0211参照。

 比較対象は33カ国であり、食事時間の少ない順に、米国、カナダ、南アフリカ、アイルランド、メキシコ、オーストリア、エストニア、英国、ノルウェー、ニュージーランド、フィンランド、スウェーデン、インド、スロベニア、リトアニア、ラトビア、オーストラリア、ポーランド、日本、ドイツ、ベルギー、中国、ハンガリー、ポルトガル、ルクセンブルク、オランダ、韓国、トルコ、デンマーク、スペイン、イタリア、ギリシャ、フランスである。

(旧データによるコメント)

 食事にかける時間は、最低限の時間は必要という観点からは生理的時間であるが、その長短は、食い物に対する関心度、食生活の重視度によって大きく左右されると考えられる。ここでは、各国の生活時間調査の結果から、1日当たりの平均食事時間を国際比較したグラフを作成し、グルメ国ランキングとした。

 データの出所はOECDのSociety at a Glanceである。海外ではお茶の時間にも食事を採る場合があるため、お茶の時間も含まれている。

 食事時間は国によってかなり違う点が印象的である。最短のメキシコ66分から最長のフランス135分(2時間15分!)と約2倍の差がある。

 フランス、イタリアなど国際的に食文化の名高いグルメの国が上位にエントリーしているが、日本も第3位と食への関心は他国に引けを取らないようだ。

 フランス人が日本を訪れてもグルメ消費にとりわけ力を入れている様子は図録7219参照。

 ニュージーランドが2位と高いのは少し意外である。ニュージーランド政府観光局のメディア業界用サイトによると、ほんの30年足らず前は、ニュージーランドの食事といえば肉と3種の野菜という組み合わせであり、外食といってもバラエティはなく、ステーキかフィッシュ&チップス、オーブン料理、パイなど、イギリス系移民の文化が主体となったものに限られていたのが、その後、海外からの食文化の流入などにより食生活が豊かとなり、今では、首都ウエリントンは、人口当たりの飲食店の数で考えると、ニューヨークを上回るグルメ都市となっているという。

 食事時間の短さで目立っているのは、メキシコ、及び米国、カナダである。

 ファーストフード発祥の国米国で食事時間が短く、スローフードの旗手イタリアで食事時間が長いというのもうなずける結果である。

 米国の摂取カロリーは日本は言うに及ばず、フランス、イタリアよりも多く、大変な大食国といってよいが(図録0200参照)、半分近くの時間でより多いカロリーを胃に入れている点は驚異的ですらある。

 比較対象はOECD諸国の中の17カ国であり、食事時間の少ない順に、メキシコ、カナダ、米国、フィンランド、ノルウェー、英国、オーストラリア、スウェーデン、ポーランド、韓国、ドイツ、スペイン、ベルギー、イタリア、日本、ニュージーランド、フランスである。

 飲食費にどれだけお金をかけているかの比較は図録2270参照。時間のかけ方とお金のかけ方はおおむね比例している。

 平日・土日別の食事時間の国際比較については図録2378参照。

(2009年5月21日収録、2013年8月12日お金のかけ方との比較、2020年11月11日新データ、2024年12月8日新データの改訂、対象国増)


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