国民が1人1日当たりどれだけのカロリーを摂取しているかに関しては供給カロリーと摂取カロリーという2つの指標がある。生産や輸出入の量から算出される農水省の「食料需給表」による供給カロリーは1997年をピークに減少傾向に転じている(図録0200)。一方、厚生労働省の世帯調査である「国民健康・栄養調査」の摂取カロリーでは、農水省データよりずっと早く1971年をピークに減少傾向に転じている。

 ここでは、厚生労働省の摂取カロリーの推移を年齢別のデータが得られるようになった1995年から図示した(供給カロリーを含めた長期推移については図録0203参照)。それまで世帯主の年齢別にしか集計されていなかったのが、この年から、世帯全体の食事内容を世帯員各人別に按分して調査する方式に変更されたのである。

 摂取カロリーが減少傾向にあるのは、食事量が少ない高齢者が増えているからではないかという疑念を晴らすためには、年齢別のデータを追うのが一番である。グラフには、年齢計のほかに、高齢層である60歳以上と成人層である20〜59歳、及び成長期の1〜19歳について、それぞれの摂取カロリーの推移を示した。

 年齢計(1歳以上)の動きは、2010年頃まで、減少傾向が続き、それ以降、横ばいかやや上向きに推移している。

 成人層である20〜59歳の動きは、年齢計の動きとほぼ同じであり、減少していた時期には、年齢計とほぼ並行して減少していた。

 何故、20〜59歳の摂取カロリーは減少しているのであろうか。これは生活や労働において消費カロリーが少なくなってきているからと考えるほかない。すなわち、肉体労働が減ってきている動き、またクルマやエスカレーターなどの普及で筋肉運動が機械に代替されてきている動きが影響していると考えられる。ITやネットが発達し、無駄な動きをせずとも済むようになったためもあろう。

 これに対して高齢層である60歳以上の摂取カロリーの動きはずいぶんと違っている。60歳以上の減少の傾きは緩く、以前は20〜59歳よりかなり少なかった摂取カロリーが近年は同等に近づき、2019年にはついに上回り、2022年もその状況が継続している。摂取カロリーから見て、高齢者とそれ以外の成人との差は急速に消失したのである。

 高齢者は退職後の者が多く、もともと身体を動かす必要が非高齢者より少なく、消費カロリーも多くなかったので、摂取カロリーも少なかったのであるが、非高齢者も高齢者と同じように余りカロリーを消費しなくなったので、両者は近づいてきたという要因が考えられよう。さらに、高齢者の労働力率は2005年前後に低下から上昇に転じている(図録1339)。働く高齢者が増えて消費カロリーが増えたので、両者の乖離が狭まったというのがもう1つの要因であろう。コロナ下で外出が控えられたのに高齢層ではさほど控えられなあったことを示すデータは図録2321d参照。

 そうだとすると、我々の生活は、現在、非常に大きな転換点に差し掛かっていると考えることができよう。

 なお、成長期である1〜19歳の摂取カロリーは年齢計や20〜59歳と同じように減少傾向にあり、最近も下落が続いている。カロリーというよりたんぱく質やビタミンなどが充実してきたのでこれで十分なのかもしれない。外で遊ばなくなって余りお腹がすかないのかもしれない。

(2019年11月13日収録、2020年1月14日更新、11月1日更新、2021年1月19日60歳未満を1〜19歳と20〜59歳に分離、2024年8月29日更新)


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