各国の国民が摂取する栄養カロリーについては、種々の食料品目の生産や輸出入、在庫変動、加工などの量から国民1人1日当たり「供給カロリー」を推計する食料需給表と世帯を対象に直接食事内容と「摂取カロリー」をはじめとする栄養摂取量を調査する栄養調査という2通りのデータから知ることができる。

 ここでは両方のデータについて戦後における長期推移を追った。栄養調査データの最近の状況については図録0202参照。

 なお、栄養調査は、必ずしも各国で毎年行われている訳ではないし、行われていても各国なりの基準で実施されているため相互比較は困難であるのに対して、食料需給表はFAOが各国の値を統一基準で計算して公表しているので国際比較が可能である。FAOデータに基づく各国比較は図録0200参照。

 図を概観すると分かる通り、両方のデータとも、日本人のカロリー摂取量・供給量はある時点まで伸び、その後、減少に転じている点が共通であるが、それぞれ、レベルも違うし、ピークの時点もずれている。

 農水省の食料需給表によれば、我が国の食料供給カロリー(1人1日当たり)は1996年度に2,822キロカロリー(酒類を除く一般公表値では2,670キロカロリー)のピークを記録した後、低下傾向にある。そして、2017年度に2,667キロカロリー(同2,439キロカロリー)とかなり低い水準となっている。

 食料需給表のおける供給カロリーは、生産、輸送、貯蔵の過程における減耗ロスを差し引いた「粗食料」から、さらに不可食部分を除いた「純食料」が有するカロリーである。しかし、実際の食事では、食べられる分を全部食べるかというとそうでもない。可食部分の中から、過剰に除去する分、腐らせてしまう部分、食べ残しなどが発生する。これらは食品ロスと呼ばれる。

 世帯の家庭食における純食料に占める食品ロスの割合(食品ロス率)は農水省の食品ロス調査によると2014年度に3.7%となっている。

 供給カロリーから世帯の食品ロスの他、外食産業や食品加工業など食品産業における食品ロス、あるいはペット用に仕向けられる食品を差し引くと実際に国民が食する摂取カロリーとなる。

 摂取カロリーについては日本では、国民健康・栄養調査(旧国民栄養調査)で戦後の食糧難の時代から持続的に調べられている。戦後直後からの摂取カロリーの推移を供給カロリーの推移と対比させる形で図に示した。

 摂取カロリーが1971年にピークに達し、それ以降、減少傾向を続けているのに対して、供給カロリーは1996年のピークまで増加を続けたので、両者の値は大きく開く傾向が長い間続いた。下図に両者の差を乖離率としてグラフにしたが、2006年に31.5%のピークに達した後、低下に転じている。家庭食の食品ロス率は調査がはじまった2000年に7.7%と最も高くなっており、その後は最近の3.7%まで低下した。


 乖離率はこれを大きく越えており、数字を信じるならば、世帯以外の外食産業や食品加工業など食品産業における食品ロス(あるいはペット用食品)がそれだけ大きいと考えざるを得ない。農林水産省の「食品循環資源の再生利用等実態調査」によれば食品産業の食品廃棄物等の年間発生量は2017年度に1,767トンにのぼっている。食料需給表による同年度の純食料は、例えば、穀物で1,126万トン、肉類で415万トンなどとなっており、これと比較して食品廃棄物等の量がかなりの規模であることがうかがえる。もっとも食品廃棄物等は2008年度には2,315万トンだったので9年間に24%減とかなり減ってきている。2001年に施行された食品リサイクル法(食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律)をきっかけに食品廃棄物の発生が抑制されたためと考えられる。乖離率が2006年を境に低下に転じたのもこのためであろう。

 食料需給表において1990年代後半以降にはじまった供給カロリーの減少傾向は、いまやレベルも進行度も世界一となった日本の高齢化の要因によるものではないかとも疑われる。しかし、摂取カロリーの持続的な減少が1970年代からはじまっているとすると高齢化の要因はこれには関係ないのではとも考えられる。

 食料需給表では年齢要因についてはデータの性格上わからないが、個々の世帯を調査している栄養調査の方は年齢別集計があるのでこちらを使い高齢化の影響についてはっきりさせておこう。

 高齢化が摂取カロリー減の要因となるのは、高齢者の摂取カロリーが若い世代と比較して少ない場合である。1995年調査以降は、直接、年齢別の摂取カロリーのデータが得られる。それ以前も年齢別の1人世帯の集計結果などから高齢者と若い世代との格差が分かるので遡及データを作ってみることが可能である。図には60歳以上の摂取カロリーを遡及推計も含めて示した。

 これを見ると以前の高齢者は若い世代より摂取カロリーが少なかったが、人口構成の変化から高齢化の影響が強くなっている筈の最近では、むしろ、両者の摂取カロリー格差はほとんどなくなっている。摂取カロリーの減少傾向に高齢化の影響は余りなさそうである。実際、年齢調整した摂取カロリーを計算してみてもほとんど年齢調整前のデータと変わりがないという結果も得られた。

 ここでは示していないが、男女年齢別に摂取カロリーを調べてみると男女年齢に関わりなく国民全体で減少傾向にあることが分かるのである(高齢者の減少傾向はゆるやかであるが)。この点については図録0202参照。

 人体には、休息中も消費される基礎代謝量と活動を行うためのエネルギーの両方が必要である。摂取カロリーが減少傾向をたどっている期間を通じて日本人の身長・体重は増加傾向を続けており、基礎代謝量は増加している筈なので、食事から得ている活動のためのエネルギーはかなり少なくなっていることになる。これは、ガソリンや電気のエネルギーの助けで仕事などの活動に要するカロリーがそれだけ少なくて済むようになったからなのではなかろうか。これは高齢者の摂取カロリーがあまり減っていないことと整合的である。

 あるいは摂取カロリーは減っていても食事内容の変化などで消化吸収カロリーは減っていないのであろうか。口に入れたからといってその食品がもつカロリー(摂取カロリー)がすべて吸収されるわけではない。人類の進化に果たす加熱料理の重要性を明らかにしようとしたリチャード・ランガム「火の賜物」(NTT出版、原著2009年)によると、両者の比率である消化率は生の食品の場合は5割程度しかなく、調理済み食品が8〜9割なのと比べ非常に低い点が目立っている。消化率の上昇が摂取カロリーの減少にむすびついている可能性もあるのである。さらなる追究が求められる。

(2020年3月12日収録)


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