1843年にスコットランドの経済学者であるジェイムズ・ウィルソンによって創刊された英国エコノミスト誌では、2020年12月19日号で、過去からの記事がどのようなキーワードに言及しているかを調べ、算出された年間の言及率を使い、歴史的事件への関心度の推移について図示している。1851年にニューヨーク市で創刊された米国を代表する高級日刊新聞であるニューヨークタイムズ紙のアーカイブへのアクセスの許可を得て、同紙におけるキーワードの頻度も調べ、データの客観性を高めている。

 こうした企画は、2020年の世界的関心事が新型コロナウイルスで埋め尽くられていたという事実の意味を探るため、まず、過去の歴史的関心事と比較しなければという問題意識から発している。記事の表題が”The biggest story ever?”(過去最大の話題?)であるのはそのあらわれである。

 2020年の年間記事総数のうち英エコノミスト誌では47%の記事が「Covid-19」あるいは「コロナウイルス」というキーワードを含んでいた。同じ値が米ニューヨークタイムズ紙では46%だった。言及率はほぼ同一である。

 歴史を振り返ると世界的な関心事で突出しているのは「戦争」というキーワードだった。中でも第一次世界大戦と第二次世界大戦の期間の「戦争」への言及率は非常に高かった。ピークは1915年の53%、1941年の54%だった。ニューヨークタイムズ紙では、1918年の39%、1942年の37%だった。

 エコノミスト誌の方が、両大戦時における言及率が高いのは、やはり、この時期、より戦争一色だったのは実際に戦場となったヨーロッパにおいてであったからであろう。

 報道記事におけるキーワード言及率から言えば、新型コロナウイルスへの関心は、ヨーロッパでは両世界大戦に次ぐ高さ、米国では両世界大戦を凌ぐ高さだと言えよう。

 ほかの戦争についても見てみよう。エコノミスト誌はヨーロッパにおける関心の高さ、ニューヨークタイムズ紙は米国における関心の高さをより色濃く反映するという前提で判定してみよう。

 第一次世界大戦より以前では、ヨーロッパと米国とで関心の高さに差がある戦争が多かった。

 ヨーロッパで関心が高かったクリミア戦争、ボーア戦争について米国の関心は必ずしも高くなかった。逆に、米国の南北戦争や米西戦争については、ヨーロッパの関心より米国における関心の方が高かった。特に南北戦争は米国内の内戦なので当然といえば当然なのであるが。

 第二次世界大戦以降は、ヨーロッパと米国で戦争に対する関心の推移にそう大きな違いはない。ベトナム戦争、湾岸戦争、イラク戦争などで戦争への関心の高まりがうかがえる。

 ベトナム戦争は特に米国で関心の高まりの波が目立つ。ただし近年の「戦争」言及率ほどは高くない。軍人以外では関心が薄かったのか、情報統制がきいていたのかだろう。

 興味深いのは、図録5229でも見たように、戦後、戦争による犠牲者数の規模はだんだんと減少傾向をたどっているのに対して、「戦争」言及率では、むしろ、関心が高まる傾向にある点である。情報が伝わりやすくなったのか、戦争被害に対して人々がより敏感になりつつるのか、いずれかであろう。

(2021年3月19日収録)


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