カルト的な宗教集団は、世界各国で関心を集めており、国際意識調査でもこの点が調査されている。2018年の宗教をテーマとするISSP調査(注)の結果から、カルト教団に対する許容度を調べた設問の回答を国際比較したグラフを掲げた(もう1つの関連設問である「政治と宗教に対する寛容度」の結果については図録9533参照)。 (注)1984年に発足した国際比較調査グループISSP(International Social Survey Programme)は約40の国と地域の研究機関が毎年、共通の調査票を使って世論調査を実施している。「政府の役割」、「宗教」、「社会的不平等」など同じテーマの調査を10年毎に実施するのが特徴で、国同士の比較とともに過去の結果と比較する時系列変化の把握も目的としている。各国とも原則18歳以上の全国の住民を母集団とし、無作為抽出による1,400人程度、最低1,000人のサンプルで調査を行っている。 ここでは過激な主張を行う宗教集団をカルト教団と見なし、そうした集団の意見表明に関する集会開催や情報発信が許されるかどうかという設問への回答を調査に参加した33カ国について許容度の低い順に並べた結果を示している。献金や過激な行動を促す集会開催や情報発信ではなく、意見(設問文では「自分たちの考え方」)の表明に関する集会開催や情報発信に限定してきいている点には留意が必要だ(もし献金や過激な行動を促す目的ならば許容度はもっと低くなろう)。 許容度の範囲は、各国で20%以下から60〜70%までと大きな差がある。主要先進国(G7諸国)については、フランスやドイツでは、そうした集団の集会や情報発信は意見表明の目的だとしても許容度は2割以下と低くなっている。実際にカルト教団の弊害が大きいかどうかという事情に加えて、言論の自由にも限度があるという国民の考え方が反映している結果と言えよう(フランスのカルト規制については末尾コラム参照)。 他方、主要先進国の中では米国の許容度が高いのが目立っている。集会開催は55.4%、情報発信は62.2%が「許される」としており、33か国中、前者は3位、後者は1位の高さとなっている。カルト教団の弊害は米国で大きいと考えられるので、やはりこの許容度の高さは、信教の自由、言論の自由に対する米国人の見方を示すものであろう(注)。 (注)合衆国憲法修正第1条「連邦議会は、国教の樹立を規定し、もしくは信教上の自由な行為を禁止する法律、また言論および出版の自由を制限し、または人民の平穏に集会をし、また苦痛事の救済に関し政府に対して請願をする権利を侵す法律を制定することはできない。」 英国、イタリア、日本といったその他の主要先進国の許容度は、フランス、ドイツと米国の中間に位置している。日本は、その中でも、米国に近く、世界の中でもカルト教団に寛容なグループに属しているといえよう。 日本の場合は米国とは異なって言論の自由への強い信奉が理由となっているとは必ずしも考えられないが、理由はともかく、米国同様、こうした寛容性が、オウム真理教や統一教会といったカルト的な教団の活動をのさばらせてきたひとつの要因となっていることは確かだと思われる。 日本人のカルト教団への許容度の高さは、ある意味で、日本人特有の宗教心の尊重によるものと考えられる(図録3971d参照)。この点について日本も「普通の国」になりつつあるとも見られれるので、統一教会の反社会性への関心の高まりによってカルト教団への許容度が今後低くなる可能性はあろう。
(2022年8月12日収録、8月20日合衆国憲法の(注)、8月22日コラム)
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