安倍元首相の銃撃事件は、犯人の統一教会(正式には世界基督教統一神霊協会。2015年に名称を世界平和統一家庭連合に変更。ここでは旧をつけない統一教会と表現)に対する個人的な恨みがその背景にあったことが明らかになったことで、統一教会の存在や霊感商法による被害がにわかにクローズアップされている。

 カルト的な宗教集団は、世界各国で関心を集めており、国際意識調査でもこの点が調査されている。2018年の宗教をテーマとするISSP調査(注)の結果から、カルト教団に対する許容度を調べた設問の回答を国際比較したグラフを掲げた(もう1つの関連設問である「政治と宗教に対する寛容度」の結果については図録9533参照)。

(注)1984年に発足した国際比較調査グループISSP(International Social Survey Programme)は約40の国と地域の研究機関が毎年、共通の調査票を使って世論調査を実施している。「政府の役割」、「宗教」、「社会的不平等」など同じテーマの調査を10年毎に実施するのが特徴で、国同士の比較とともに過去の結果と比較する時系列変化の把握も目的としている。各国とも原則18歳以上の全国の住民を母集団とし、無作為抽出による1,400人程度、最低1,000人のサンプルで調査を行っている。

 ここでは過激な主張を行う宗教集団をカルト教団と見なし、そうした集団の意見表明に関する集会開催や情報発信が許されるかどうかという設問への回答を調査に参加した33カ国について許容度の低い順に並べた結果を示している。献金や過激な行動を促す集会開催や情報発信ではなく、意見(設問文では「自分たちの考え方」)の表明に関する集会開催や情報発信に限定してきいている点には留意が必要だ(もし献金や過激な行動を促す目的ならば許容度はもっと低くなろう)。

 許容度の範囲は、各国で20%以下から60〜70%までと大きな差がある。主要先進国(G7諸国)については、フランスやドイツでは、そうした集団の集会や情報発信は意見表明の目的だとしても許容度は2割以下と低くなっている。実際にカルト教団の弊害が大きいかどうかという事情に加えて、言論の自由にも限度があるという国民の考え方が反映している結果と言えよう(フランスのカルト規制については末尾コラム参照)。

 他方、主要先進国の中では米国の許容度が高いのが目立っている。集会開催は55.4%、情報発信は62.2%が「許される」としており、33か国中、前者は3位、後者は1位の高さとなっている。カルト教団の弊害は米国で大きいと考えられるので、やはりこの許容度の高さは、信教の自由、言論の自由に対する米国人の見方を示すものであろう(注)

(注)合衆国憲法修正第1条「連邦議会は、国教の樹立を規定し、もしくは信教上の自由な行為を禁止する法律、また言論および出版の自由を制限し、または人民の平穏に集会をし、また苦痛事の救済に関し政府に対して請願をする権利を侵す法律を制定することはできない。」

 英国、イタリア、日本といったその他の主要先進国の許容度は、フランス、ドイツと米国の中間に位置している。日本は、その中でも、米国に近く、世界の中でもカルト教団に寛容なグループに属しているといえよう。

 日本の場合は米国とは異なって言論の自由への強い信奉が理由となっているとは必ずしも考えられないが、理由はともかく、米国同様、こうした寛容性が、オウム真理教や統一教会といったカルト的な教団の活動をのさばらせてきたひとつの要因となっていることは確かだと思われる。

 日本人のカルト教団への許容度の高さは、ある意味で、日本人特有の宗教心の尊重によるものと考えられる(図録3971d参照)。この点について日本も「普通の国」になりつつあるとも見られれるので、統一教会の反社会性への関心の高まりによってカルト教団への許容度が今後低くなる可能性はあろう。

【コラム】フランスのカルト規制

(フランスはカルト教団に対して厳しい規制を課している。そうした状況を紹介した東京新聞の記事(2022年8月20日)を以下に引用する。)

 反社会的行為に及んだ団体をカルトとして規制する先進事例が、フランスだ。

 1994年以降、カナダやフランスなどで新興宗教「太陽寺院教団」の信者らによる集団自殺が相次いだ。こうした事件に危機感を強めたフランスの国民議会は95年に報告書をまとめ、カルト(セクト)と判断するために「法外な金銭的要求」「反社会的な教義」「子どもの強制的入信」など十基準を示した。これに基づいて危険視する百七十以上の団体名も挙げ、旧統一教会も含まれた。

 2001年には「セクト規制法」が成立。特徴は、マインドコントロールなどで支配された状態の人に重大な損害となる行為を規制した点だ。

 違法な医療、詐欺、家族を遺棄するといった「セクト的逸脱行為」について、手を染めた個人だけでなく所属する法人も処罰対象に。こうした両罰規定の拡大に加え、法人やその代表が処罰対象になれば、解散命令を出すことも可能にした。

 同国では、セクトの被害を受けた人らが通報できるオンラインシステムも整備。20年は3千件超の通報があった。規制が進んだ背景について、日仏両国で弁護士資格を持つ金塚彩乃氏は「フランスは厳格な政教分離を取っている一方、セクトなど特別な状況に置かれた未成年者ら弱い立場の人の保護に力を入れてきた」と指摘。未成年者が狂信的な宗教に取り込まれることや、親が信じる宗教の影響で子どもの治療をさせないといった問題への対策も強めてきたという。

 セクト規制法に詳しい山形大の中島宏教授(憲法学)は「フランスはセクトの定義を基に危険とされる団体名をリスト化して規制しようとしたものの、団体を名指しすることには、信教の自由を考慮して国内外から批判もあった。そのため違法行為に着目して規制するようになった」とした上で、問題視された法人の解散命令が出たケースはまだないとする。「日本が学ぶべきは、法規制とあわせたセクトを巡る情報提供や注意喚起、未成年者保護、宗教が絡む問題に対処するための公務員研修などだ」と語る。

(2022年8月12日収録、8月20日合衆国憲法の(注)、8月22日コラム)


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