猪口氏らが実施しているアジアバロメーター調査では多くのアジア諸国の幸福度が調べられている。さきに世界価値観調査の結果により所得水準と幸福度の相関を見ているが(図録9482参照)、ここでは、この調査により、アジア諸国に限って同じ相関を調べた。

 図録9482の世界各国の相関図と同様に、アジア諸国でも高所得国ほど幸せだが低所得国だからといって不幸とは限らないという「片相関」とも呼ぶべき関係が成立していると考えられる(図のグレーの線で囲われた分布状況)。

 なお、ブータンについては、しばしば、所得的には貧しいけれど幸せ度では世界一(あるいは世界一を目指している)という点が注目されてきたが、アジアバロメーター調査でも、ブータンの幸福度は世界一とまではいえないが、かなり高い方だということが分かる。

 右上がりの「片相関」というべき分布状況の例外グループ(オレンジで囲われた諸国)が存在する点がアジアの特徴ではないかと思われる。すなわち日本、韓国、台湾、香港など儒教圏諸国は所得の割りに幸福度が高くない点が目立っている。

 どうやら東アジア諸国では、おそらく儒教的な文化の影響で、どんなに良くなっても、現状をネガティブに判断し、常に、改善へ向けての歩みを怠ってはならないという考え方を取り勝ちであるようなのである。マスコミや有識者の姿勢にそうした傾向が色濃いため国民もその影響を受けていると見られる。そうした見方が、社会の進歩を促してきた面は否定できないが、だからといって、国民の一人ひとりが、然るべき幸福を感じられなくなっているとしたら問題であろう。

 この点は図録9480でも言及したことである。

 シンガポールは、所得も高いが幸福度もけっこう高く、一般傾向として位置づけることも可能であるが、図では、むしろ、儒教圏諸国の一部として位置づけたくくりかたをしている。

 もっとも儒教本国ともいうべき中国は所得水準がなお低いため、儒教圏諸国のグループにはくくられていない。中国は、このまま所得水準が上昇しても幸福度があまりあがらなければ、日本他の儒教圏グループに入るし、幸福度が上がっていけば、日本他の儒教圏グループとは異なるパターンと判定されよう。

 なお、中央アジアのカザフスタンも所得の割りに幸福度が高くない点では、儒教圏諸国と似た傾向にある。ただしカザフスタンの所得の高さは石油他の鉱物資源輸出によるところが多く、そのためのはずれ値状態である可能性が高い。また、他の旧ソ連だったアジア諸国とともに世界価値観調査より幸福度の相対的位置が低いのも気になる(図録9480参照)。

 ギャラップ調査の生活満足度でも同様の傾向が見られる点を以下の図に掲げた。


 図に示した29カ国は、幸福度の高い順に、ブルネイ、モルディブ、マレーシア、ブータン、スリランカ、シンガポール、フィリピン、タイ、インド、インドネシア、バングラデシュ、ラオス、ベトナム、中国、日本、ミャンマー、モンゴル、香港、ネパール、台湾、韓国、パキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン、アフガニスタン(欄外)、キルギス、カンボジア、カザフスタン、タジキスタンである。

(2014年8月4日収録、2018年3月10日コメント補訂、2019年3月29日ギャラップ調査版)


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