言葉、伝統・習慣、宗教、生れた国という4つの事項に対して、「非常に重要」、「やや重要」、「あまり重要でない」、「全く重要でない」というの4つの選択肢から選ぶ設問になっている。生れた国が取り上げられているのは、移民の定義が他国生れの者であることから、移民を自国民として認めるかどうかに関心がもたれるためである。 グラフでは、多文化主義がどの程度根づいているかに着目するため、国の並びを、文化的な共通性を他事項にましてあらわしていると思われる伝統・習慣の共有を「非常に重要」と考える者の割合の多い順とした。 一般に、意識調査に対する日本人の回答は他国と比較して、決めつけない回答、または、あいまい回答が多い傾向があるので、他国との比較の妥当性を確保するため、通常は、「非常に重要」と「やや重要」の合計で比べるようにしているが、今回は、原資料の報告書と同じように「非常に重要」の割合で比較した。「やや重要」まで合計すると意見の違いが目立たなくなるためである。 対象14カ国の一般傾向としては、まず、その国の言葉を話すことの重要性をあげる者が多く、次に、その国の伝統・習慣を共有していること、そして、生まれた国がその国であることが続き、最後に、その国で支配的な宗教を信じていることが来るという重要性の認識の順番である。 例外は、同順を除くと、ギリシャで宗教が3番目、日本で生まれた国が2番目となっている2例のみである(なお、無宗教が多い日本では、唯一、宗教の事項の設問が質問されていない)。 伝統・習慣を非常に重要とする者の比率は、最も多いハンガリーの68%から最も少ないスウェーデンの26%までかなり大きな幅がある。 日本は、意外なことに、伝統・習慣の共有の比率は、下から4番目とそう高くない。また、一般に、伝統・習慣を重視する国民は生れた国も重視する傾向があるが、日本は、これに反して、伝統・習慣の共有をそれほど必須と見ていないにもかかわらず、日本で生まれたことが非常に重要と考える者が50%とハンガリーに次いで多い点が特徴的である。通常は、ある国に生まれるということはその国の伝統・習慣を共有することとイコールあるいはパラレルなわけであるが、日本人の見方としては、日本人であるためには、伝統・習慣といったその国の文化は必ずしもかかわりなく、四季のはっきりした自然や島国という環境下で人々が暮らしている日本という土地に生まれること自体が重視されているようなのである。 この考え方を適用すると、他国生れの移民は日本では日本人とは見なされないが、移民二世以降は、文化的に日本に同化しなくとも日本人と見なされる傾向があることになる。伝統・習慣と生まれた国の関係では、イタリアも、多少、日本的なところがある。 ドイツ、スウェーデンは、それぞれ、ドイツ人、スウェーデン人であるために重要なのは、言葉以外には、あまりないと考えている点が目立っている。その国で生まれたり、キリスト教を信じていたりすることが重要ではないばかりでなく、普通、重視されて不思議でない伝統・習慣の共有すら非常に重視する者は3割以下なのである。その国の言葉が使えて、コミュニケーションさえ取れていれば、文化の異なる国民が共存していてもよいという多文化主義の考え方が根づいているのであろう。スペイン、フランス、オランダなどは、宗教に関しては、非常に重視するものが1割以下と多文化主義的であるが、伝統・習慣に関しては、ドイツやスウェーデンほど、こだわりなく多文化主義というわけにはいかないようである。 米国は、全体的な水準は中位水準であるが、宗教(キリスト教徒であること)だけは、非常に重視するものが32%とかなり多い点が目立っている。アングロサクソン系ということで共通点も多い英国などともこの点が大きな違いである。やはり、米国は西欧主要国とはこの点で一線を画しているのである。そのため、米国ではイスラム教徒を米国人と認めない気風が強いといえよう。米国人が宗教を特別に重視する理由については図録8809、9492参照。 どの国でも重視されるその国の言葉を話せるかについて、イタリアとカナダでは、非常に重要だとするものが59%と最低となっている。多言語国家的な性格が強いためであろう。 ピューリサーチセンターの報告書では、年齢別の世代差が大きい事項として、その国の人間だといえるためには生まれた場所が「非常に重要だ」とする人の割合をあげている。 上図には、その結果を掲げたが、いずれの国、地域でも、18〜34歳の若年層、35〜49歳の中年層、50歳以上の高年層と年齢を重ねるごとに、生まれた国を「非常に重要だ」とする割合が多くなっている。国境を越えた移動が特別なことではなくなったグローバリゼーション時代に成人した若年層にとっては、生まれた国はもはやその国の国民としてのアイデンティティにとって重要な要素にはならなくなりつつあることを示しているといえる。 上で指摘したように、生まれた国を重要と考えるのが日本人の特徴であり、こうした時代潮流からすれば、日本人の考え方は少し古いと世界から見なされる可能性がある。 日本の特徴は図のように若年層と高年層とで生まれた国の重要性の意識が30%ポイント開いており、他国・他地域のせいぜい20%ポイントの差と比較して格段に大きい点にもある。今や若年層については他国とこの点に関する意識はあまり変わらない。その反対に、高年層では、他国と大きく考え方が異なっているのが目立つのである。この点について、若年層と高年層にとって、お互いが異次元の人間と見える可能性が高いのではなかろうか。 ピューリサーチセンターの報告書(本体報告書とは別のレポート)では、「生れた場所」ではなく「伝統・習慣」の共有、すなわち文化的要素を「非常に重要だ」とする人の年齢別割合も掲載しているので下に掲げた。 多文化主義の普及で文化的要素の重視度も若者ほど低い傾向があらわれている。ただし、世代差は各国・各地域ともに若年層と高年層とで20%ポイント程度であり余り違いがない。もっとも米国だけは差が27%ポイントとやや大きい。 中年層が高年層に近いか若年層に近いかで多文化主義の普及が最近なのかかなり前なのかが分かる。カナダや米国では中年層は高年層に近く、多文化主義が最近の傾向だとみなせる。逆に、オーストラリアとヨーロッパ諸国では中年層は若年層に近く、古くから多文化主義が普及していたとみられる。日本は両者の中間である。 なお、日本は、生まれた国を重視し、文化的要素はそれほどこだわらないという特徴がある点を上で指摘したが、世代的には、若い世代だけの特徴ではなく、高年層でも非常に重要とする割合は50%と他地域より低くなっている。また、生れた国の割合と比較すると高年層の方が開きが大きくなっており、若年層ではほぼ同じ値であるのと対照的である。日本的特色は高年層により顕著といえよう。 日本や各国・各地域で世代差としてあらわれている意識の違いが米国では世代差だけでなく支持政党差としてもあらわれている。 下図には米国における支持政党別の結果を示している。生まれた国の関する差は大きくないが、その他の3つの事項では、共和党のほうが民主党より、米国人であるためには「非常に重要」とする割合がかなり高くなっており、いわば米国人としての条件を厳しく考えるという意味でのナショナリズムの意識が強いことがうかがわれる。共和党対民主党の国内対立については図録1710参照。 対象となっている国は14カ国であり、具体的には、図の順番に、ハンガリー、ポーランド、イタリア、ギリシャ、日本、スペイン、英国、米国、フランス、カナダ、オランダ、ドイツ、オーストラリア、スウェーデンである。 (2017年2月6日収録、2月7日グラフの国の並びを「生れた国」から「伝統・習慣」の順に変更、2月20日「伝統・文化」の世代差データ追加)
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