【クリックで図表選択】

   

 世界の住宅は自然環境に対応したさまざまな工夫が施されており、高温多湿に対応するため、通気をよくし、浸水や害虫を防ぐための東南アジアの高床式住宅や高温乾燥地域の日射や外気を遮断するため開口部を狭くし、壁を石やれんがで厚くした地中海や北アフリカの住宅など多様である。

 住宅の多様性は建築材料によるところが大きい。図では、世界各地域の伝統的な建築材料の分布を示した。日本でも現代では鉄骨やコンクリートを使用した住宅が増えているが、本来の伝統的な住宅は木造住宅だった。

 植生が豊かな熱帯地域では、木や葉・草が用いられ、東南アジア、中国南部、そして日本に続く広い地域でも高床式由来の木造住宅が主流となっている。


 日本は屋内で靴を履かない国として世界的に有名であり、料理屋や職場、学校などでも靴を履かない場合があるのも高床式由来の習慣であろう。南方系の先祖から受け継いだ高床式の家屋を捨てなかったため、冬には寒いので十二単などにつながる極端な重ね着をして過ごすようになったと指摘したのは宮本常一である(図録7720参照)。

 また、熱低地域周辺のやや乾燥した地域では、とげの多い灌木が古くから建築材料となり、一方、冷涼な針葉樹林地帯ではモミやマツを用いた住宅が多かった。

 植生の豊かな地域ではこうした植物由来の建築材料が多かったが、降水量が少なく、樹木が成長しにくい乾燥地域では、土・れんが・石が建築材料となり、それらを組み合わせた住宅が作られてきた。

 ヨーロッパの南部では、乏しい樹木に代わって、豊富な石灰岩などを利用し、強い日射しを防ぐために壁を漆喰で広く塗った住宅が多い。

 ヨーロッパに石造建築の地域が広がっているのは、植生条件だけでなく、人為的要因も大きく関与している。「石造建築の地帯は、人が完膚なきまでに荒廃させた地域と非常によく一致している。南ヨーロッパ人がかつては木造建築を好んだことは、考古学的遺跡から明らかである。森林がなくなった時はじめて、石が主要建材として採り入れられた」(T.G.ジョーダン「ヨーロッパ文化」大明堂、p.326〜327)。ギリシャでもかつては森林が広がっていたことはホメロス作品に豚飼いがよく登場することからもうかがわれる。

 一方、ヨーロッパ北方の森林地域では、モミやトウヒなどの木材で作られた住宅が多い。また、森林が適度に残っているドイツなどの中央部では、木材と石や土を組み合わせた「木骨づくり」の住宅が多い。


 上の写真は木骨づくりの住宅の例であり、オーク材で骨組みをつくり、小枝で編んだ壁やれんが、割石に泥を塗り込み、表面を白い漆喰で上塗りしている。ドイツやフランス北部にみられる住宅である。

 ほかにも、イヌイット(エスキモー)にように雪や氷を材料とした「イグルー」や、モンゴルの遊牧民のように羊毛を圧縮したフェルトを材料にした「ゲル」(中国語では「パオ」)などの例もある。

 木造住宅と石造住宅との違いは火事になりにくいかどうかである。江戸時代に木造住宅が立ち並ぶ江戸が繰り返し大火に見舞われた歴史はよく知られている(戦後もしばらく多かった大火については図録4391参照)。

 煙突をつけたかまどを有する台所はやはり石造住宅の地域でしか普及しないようであり、そのため、日本の台所の加熱施設は煙突のない前煙立ち竈が中心だった。日本の立ち竈は焚き口から煙が出て屋内が煙で充満するのである(図録1022)。

 強い加熱が特徴の中華料理は、無煙炭と煙突がある環境だったから成立したのだろう。また屋内で肉を丸焼きにするような西欧の調理法も日本の都市ではそもそも不可能だった。無加熱や弱い火でゆっくり加熱する料理、発酵食品を使った料理などが日本料理で中心となったのはこうした理由であろう。

(ヨーロッパ)

 ヨーロッパについては、さらに細かい伝統的建築材料の分布図を表示選択で掲げた。

 世界地図では登場していない区分としては、世界地図の「土とれんが」と重なるがもっとあちこちに分散分布している「芝土、粘土(日干レンガを含む)」、スカンジナビア半島北端の「獣皮のテント」、そして、北海・バルト海沿岸の「窯で焼いたテンガ」がある。

 「芝土、粘土(日干レンガを含む)」は、先史時代からの残存の側面と木材や石が得にくい環境という側面の両方によっている。

 「多分、最も原始的な建築手段は、土や芝土(日干レンガを含む)の利用である。これは今日、ヨーロッパでは比較的まれであるが、先史時代には普通のものであった。泥レンガ建築は地中海諸半島の地域で、とくに石が少ない平原でみられるが、それは主としてインドからモロッコに至る北アフリカと中東の砂漠地底に集中しているものである。

 も1つの原始的方法は、住宅の壁をつくるために、小枝や葦や藺草の網代に泥を塗りこめる方法である。これはアイルランド低地、フランスのヴァンデー地方の湿地帯、ルーマニア平原などのヨーロッパの諸地域で伝統的にみられたものである。東ヨーロッパからウクライナに広がる草原では、芝土レンガづくりの住居が今日でも普通のものである。アイスランドでは、壁は伝統的に泥炭と土の固まりからなり、そこに草が植えられていた。住宅の前面にだけ流木を打ちつけた。このような多様な土づくり建築は、一般に石や木のような望ましい材料が手に入らない地域に限られていた。地中海地域では土づくり建築が沖積平野に限られていることや、アイルランドの低地では石が泥炭の下にあり利用できないことが、その事実を明瞭に示している」(T.G.ジョーダン、同上、p.327〜328)。


 さらに、特徴的なのは「窯で焼いたレンガ」の地域である。オランダの街並みを再現したテーマパーク「ハウステンボス」の景観を想起すればよいが、上の写真にレンガづくりの住宅の例を示した。「ドイツからオランダ、ベルギー、さらに北フランスにのびるバルト海と北海沿岸の湿地とデルタの地帯では、レンガ建築が卓越する。この地域は洪水のために森林が育たず、また沖積層が深くて石が手に入りにくいところであった」(T.G.ジョーダン、同上、p.328〜329)。

 なお、スペインや地中海島しょ部の一部地域に洞窟で暮らす慣習が残っている点が表示されているのも興味深い。

(2022年1月30日収録)


[ 本図録と関連するコンテンツ ]



関連図録リスト
分野 地域(海外)
テーマ  
情報提供 図書案内
アマゾン検索

 

(ここからの購入による紹介料がサイト支援につながります。是非ご協力下さい)