産経新聞(2025.11.19)によると「大分市で18日発生した大規模火災で、市は19日、焼損範囲は約4万9千平方メートルに及んだとみられると明らかにした。大分県によると、延焼は170棟以上という。昨年1月の能登半島地震直後に起きた石川県輪島市の観光地「輪島朝市」での大規模火災と同程度の規模となっている。大分市によると、焼損範囲は約4万8900平方メートルとみられ、東京ドームの建築面積4万6755平方メートルを超えたことになる」。

 2016年の暮れ、12月22日朝に新潟県糸魚川市で発生した大規模火災は約30時間後に鎮火した。

「同市災害対策本部によると、全半焼や部分焼を含め推定で約150棟を焼き、被害が及んだ地域は約4万平方メートルに上った。総務省消防庁によると、震災を除き、市街地火災の焼損棟数としては過去20年で最多で、面積では1976年の山形県酒田市の大火(建物焼損約15万平方メートル)以来の規模になる可能性がある」(毎日新聞2016年12月24日)。

 なお、糸魚川火災の建物焼損床面積が30,412u と、総務省や消防庁による大火の定義(建物焼損床面積が1万坪〈33,000u〉以上の火災)を下回っていることから、「大規模火災」という扱いとなっている(ウィキペディア、消防庁データ)。上では焼損区域面積から大火とした。

 近年、かつてと比べ、大火の報を聞くことが少なくなっていたような気がする。

 図録には戦後、1946年以降の日本で起こった主要な大火による焼損面積をグラフにした。ここで大火とは大きな市街地面積が焼き尽くされる火事をいい、目安としては1万坪(3.3万u)と考えられている。デパート火事など個別の大規模火事については図録4390参照。

 過去の大火を見ると1947年の飯田大火が48万uを焼いて、戦後最大、第2位は45万uを焼いた1952年の鳥取大火である。鳥取大火についてはコラム参照。

 地域的には今回の糸魚川市もそうであるが、能代市、新潟市、魚津市、酒田市と日本海側の都市で大火が多く発生していることが分かる。理由としてはフェーン現象やそれと間違われやすい強風現象が地形的に起こりやすいからではなかろうか。

 推移に着目すると、戦後、1960年代前半までは、一年に平均一回以上の頻度で、頻繁に大火が起こっていたことが分かる(大火件数の推移を示した下図参照)。


 ところが1970年代からは5年に1回あるかどうかという頻度まで大火が減少している。1995年の阪神淡路大震災に伴う広域火災はやや例外的な大火であった。

 大火が少なくなったのは、エネルギー革命にともなって、火の粉を多く発生させる薪炭から、石油、そしてガス・電気に加熱燃料が変化するとともに、木造密集住宅が徐々に少なくなり、不燃化が進展し、また消防組織拡充、消防車増、道路幅拡大、防火緑地整備などにより消防力がアップし、住民の防火意識も向上したからであろう。

 1970年代から急に減少したということはエネルギー革命の影響が最も大きいのではなかろうか?

【コラム】鳥取市の大火

 鳥取市は災害多発の県都でその都度変容と脱皮を続けてきた。ことに城下町以来多発したのは水害と大火災である。

 さらに1943年には鳥取大地震が襲い、死者1,190人、全焼254戸の被害を被った。続いて1952年には鳥取大火に見舞われた。

 鳥取大火は、18世紀以降最大の火災であり、1952年4月17日にフェーン現象で高温乾燥強風となった極相時に駅東地区から出火し、中心街を含む5,218戸が焼失した。この火災が、大火となったのは、風向と久松山、北西〜南東方向に長い都市形態等に起因する。

 この大地震と大火を契機に区画整理と耐震不燃都市化が進み、大火後は駅東地区の温泉娯楽街化が進んだと言われる。

 以下に、鳥取大火、及び18世紀以降の大火の状況を示す図を掲げた。



戦後日本の主な大火
出火場所 出火月日 死者数 負傷
者数
罹災
世帯数
罹災
人員数
焼損
棟数
焼損面
積(u)
出火原因
新潟県村松町 1946年5月8日 2 59 1,208 4,000 1,337 135,231 煙突の火の粉
飯田市 1947年4月20日 0 0 4,010 17,771 3,742 481,985 煙突の火の粉
能代市 1949年2月20日 3 874 2,239 8,790 2,238 210,411 ストーブの残火の不始末
北海道古平町 1949年5月10日 2 52 521 0 721 103,274 ストーブの不始末
熱海市 1950年4月13日 0 3,277 979 5,808 1,461 141,900 たばこ
鳥取市 1952年4月17日 3 3,963 5,714 20,451 7,240 449,295 機関車の飛火
北海道岩内町 1954年9月26日 33 551 3,398 17,223 3,299 321,311 火鉢の残火
新潟市 1955年10月1日 1 275 1,193 5,901 892 214,447 漏電
能代市 1956年3月20日 0 19 1,263 6,087 1,475 178,933 七りんこんろ
大館市 1956年8月18日 0 16 770 4,323 1,344 156,984 たばこ
魚津市 1956年9月10日 5 170 1,597 7,078 1,677 175,966 不明
岩手県新里町(三陸大火) 1961年5月29日 5 97 1,078 4,310 1,062 53,047 かまど
八戸市 1961年5月29日 0 0 664 3,627 720 51,752 放火
北海道森町 1961年10月23日 0 80 506 2,238 554 44,664 たばこ
福江市 1962年9月26日 0 28 811 3,936 486 64,698 マッチ
新潟市(昭和石油KK) 1964年6月16日 0 0 348 1,407 346 57,282 不明
三沢市 1966年1月11日 0 26 817 2,132 282 53,537 ガスこんろ
酒田市 1976年10月29日 1 1,003 1,023 3,300 1,774 152,105 不明
滋賀県甲西町(東洋ガラスKK倉庫火災) 1980年1月12日 0 0 0 0 2 47,871 不明
神戸市長田区 1985年1月17日 8 0 474 861 441 75,840 不明
神戸市長田区 1985年1月17日 60 0 685 539 750 57,459 不明
神戸市長田区 1985年1月17日 73 0 765 805 996 89,099 不明
神戸市兵庫区 1985年1月17日 40 0 1,021 764 699 94,787 不明
神戸市長田区 1985年1月17日 48 0 1,453 3,326 1,130 142,945 不明
神戸市長田区 1985年1月17日 5 0 434 908 404 72,295 不明
糸魚川市 2016年12月22日 0       147 40,000 大型コンロの消し忘れ
輪島市朝市通り 2024年1月1日 240 49,000 地震に伴う電気火災
大分市佐賀関 2025年11月18日 170棟以上 48,900
(注)1946年以降が対象。消防白書の定義では建物の焼損面積が3万3,000u(1万坪)以上の火災を「大火」としているが、ここでは、1950年代までは建物の焼損面積10万u以上、1960年代以降は4万u以上をリストアップした。糸魚川市火災以降の焼損面積は建物床面積でなく焼損区域面積を記した。
(資料)消防庁「消防白書」平成28年版 、糸魚川大火は消防庁「新潟県糸魚川市大規模火災(第13報)」2017.1.20、輪島市朝市通り、大分市佐賀関の大火は産経新聞2025.11.19

(2016年12月24日収録、2022年1月25日コラム、2025年11月20日輪島朝市、佐賀関の大火を追加、11月21日糸魚川市データ修正)


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