最大の少数民族はアゼリ人(自らはトルコ人と呼ぶ)であり、総人口の24%と約4分の1を占めている。首都テヘランではペルシャ人と人口をほぼ二分するという。宗教はイランの国教イスラム教シーア派であり、ペルシャ人とは婚姻関係を含め融合が進み、政治・経済分野に深く浸透している(毎日新聞2008.5.6)。 シーア派に改宗したトルコ系(テュルク系)民族であるアゼリ人はイラン北のバクー油田を有するアゼルバイジャン共和国(人口800万人)では9割の多数派民族となっている。人口では独立国家内のアゼリ人より多いイラン国内のアゼリ人との大アゼルバイジャン主義が唱えられることが多く、石油利権もからみ、かつてはソ連、現在ではイランを牽制しようとする米国が大アゼルバイジャン主義をバックアップしているが、当のイラク国内のアゼル人はペルシャ人と宗派も一つであり、イランの政治経済における地位も低くないため、これには余り熱心でないという。 大アゼルバイジャン主義が国内に波及することを懸念するイランは、独立後のアゼルバイジャン共和国が、ナヒチェバンやナゴルノカラバフの領有を巡ってアルメニアと2年半に及ぶ「宣戦布告なき全面戦争」に突入した時、同じイスラム教シーア派のアゼルバイジャンを支援せず、キリスト教徒のアルメニアを援助した。 アゼリ人の地位が高いためやっかむペルシャ人もあり、「アゼリ人についてのブラックジョークは際限がないほどだ。「アゼリ人兵士がパラシュートでの降下訓練に臨んだ。が、パラシュートが開かない。落下する兵士がつぶやいた。『ああ、訓練でよかった』」アゼリ人はこうしたジョークを聞き流しているが、数年前、ペルシャ人の漫才師がテヘランの劇場で「アゼリ人をバカにした」と袋だたきにあう事件が起きている。」(毎日新聞2008.5.8) イラン東北部に住むトルクメン人は、トルコ系(テュルク系)・スンニ派の砂漠の民で日本語と同じ語順の言語をもつが、イランの北、カスピ海の東の旧ソ連のトルクメニスタン(人口490万人)では多数派民族となっている(図録8975参照)。 他の少数民族のクルド人、バルチ人は、ペルシャ人と同じアーリア系だが、宗教的にはスンニ派が多く、アラブ人を含め、アゼリ人と異なり、文化的な独自性を維持しようとする傾向が強いという。 2007年8月にベルギー人男女、また10月に、横浜国立大4年、中村聡志さん(23)を誘拐したのは、イラン南東部を拠点とするバルチ人のシャハバフシュ族麻薬密輸団(ベルギー人と横国生の誘拐は別組織とも)。これら組織は大量のアヘンを、世界最大の生産国で隣国のアフガニスタンから欧州方面に運んで資金を得ているとされる。 (2008年5月6日収録)
[ 本図録と関連するコンテンツ ] |
|